微視組織の制御による鋼材の高靭性化へのニーズは依然として高い。フェライト鋼では結晶粒径が小さいほど、破壊靭性が高いことは広く知られているが、それ以外の組織学的パラメータの影響や、第二相を含む場合の破壊靭性の支配因子は必ずしも明らかとはっていない。
　本論文は、フェライト・セメンタイト鋼を対象として、(a)微視組織と、(b)応力ひずみ曲線、の２つの情報を基に、へき開破壊靭性の定量的予測を試みたところに新規性が認められる。へき開破壊は次の３段階の微視的過程を経て発生すると仮定されている。Stage-I: セメンタイト割れによるき裂の核発生、 Stage-II: セメンタイト割れのフェライト・マルテンサイトへの伝播によるへき開の形成、Stage-III: へき開き裂のフェライト結晶粒界突破。そして、各段階の破壊条件は，系統的な実験結果と、局所破壊応力に基づく理論を組み合わせて定式化されている。そして、これらの微視的破壊条件とマクロな有限要素解析を連成することで、破壊靭性の予測を机上で実現させた点は評価に値する。
　以上のように、本論文は、理論・実験・計算力学の手法を融合することで、へき開破壊靭性の定量的予測モデルを新たに提案したものである。複雑な組織を有する高強度鋼などへの拡張や、破壊靭性のばらつきの予測などへの発展が今後期待できる。これらの理由により、俵論文賞に値する論文であると評価できる。

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　連続鋳造鋳片中心部や大型鋼塊にマクロ偏析が生じると鋼材製品品質が低下するため、種々の偏析低減技術開発が行われてきた。鋼本来の材質を発揮させるために、さらなる技術開発が期待される所である。そもそもマクロ偏析は、凝固中のデンドライト間の濃化溶鋼の流動とその集積により生じる。近年の計算科学の進歩により、伝熱凝固と固液分配、溶鋼流動を連成したマクロ偏析シミュレーションモデルの研究が進展しているが、実現象の高精度の再現や最適条件の定量検討方法は未だ確立されていない。その主たる原因は、固液共存状態におけるデンドライト間濃化溶鋼の透過率の評価精度が不十分な点にある。透過率は1980年代に実験的な評価が盛んに行われたが、統一的な評価がなされていない。そこで、著者らは、実際の複雑形状のデンドライトをフェーズフィールド法とCADを用いて再現し、3次元数値流体解析により透過率を算出する独創的な手法を考案した。研究結果は、これまでに報告された範囲の実測の透過率と精度良く一致しており、実験では得られない広い範囲の透過率について、物理的根拠に基づいた信頼性の高い推定を可能にした。本論文で提案されたデンドライト組織形態を考慮した透過率の評価手法と評価式には汎用性があり、今後のマクロ偏析モデルの高精度化と新たな偏析低減技術開発に大きく寄与するものと期待される。　上記の理由より、本論文は俵論文賞に相応しいと判断された。

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　資源の有効利用促進の観点から、鉄鋼スラグの一層の品質向上が重要課題となっている。特に、製鋼スラグは、その水硬性から道路用路盤材として用いられることが多いが、含有するフリーライム(f-CaO)やフリーマグネシア(f-MgO)が水和反応によって膨張し亀裂等を発生させるため、同相を一定値以下に制御する必要がある。そのため、これらの高精度な定量分析手法が重要であるが、f-CaOについてはエチレングリコール抽出法が標準分析法となっているものの、f-MgO定量分析については統一的な分析法はなく、課題となっていた。
　本研究では、従来の溶媒抽出法等の分析精度の問題点である事前の分離・濃縮処理等を省略し、固体スラグ中の膨張原因であるf-MgOのみを精度よく定量分析する方法として、固体核磁気共鳴(NMR)に着眼し、25Mg核のみの構造情報を抽出して、結晶構造の配向性や形態に依存することなく、高い精度で分析する手法を構築した。同手法は、過去に例のない新しい分析法であるとともに、スラグの表面・内部を問わず定量できるなど、従来の分析手法の課題を克服している。加えて、検証されたその高い精度から、f-CaOの定量分析にも展開可能であるとともに、より汎用的な分析法探索の上での精度評価にも役立つものと期待される。以上より、俵論文賞に値すると評価されたものである。


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　フェライト母相組織中にパーライトやマルテンサイト組織が分散した複合組織鋼の強度や延性は、各構成組織そのものの機械的性質のみならず、それらの不均一性、形状、体積率や分布状態など、組織形態に強く影響される。複合組織鋼における特性の発現機構を理解するには、これら構成組織の微視的組織特性が有機的にどのように関係しているのかを解明する必要がある。本研究は、フェライト・パーライト鋼について、フェライトおよびパーライトの機械的性質と複合組織形態の情報から強度・延性破壊限界を予測することを目標とし、独創的な数理損傷モデルを用いたシミュレーション手法を提案している。他の数値シミュレーションとは異なり、延性損傷進展を支配する機械的性質の理解に基づいて、簡単な機械的特性試験の情報のみからシミュレーションに必要なパラメータを一義的に決定できる点に本手法の独創性がある。この手法を用いて、巨視的な負荷モードの違いによって異なる延性破壊モードや破壊限界が、組織不均一に起因した応力/ひずみの局在化によるものであることが解明され、実験によってその妥当性も検証されている。
　本研究の成果は、強度と延性のバランスに優れた革新的な複合組織鋼を開発するために、各構成組織の特性制御指針における指導原理を与える有力な手段として期待されるものであり、俵論文賞に値する論文であると評価される。


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　アルミナクラスターの抑制は、介在物に起因する鋳造欠陥を低減するために重要な課題である。従来、溶鋼中で衝突により凝集した微小アルミナ粒子が焼結し、アルミナクラスターが形成されると考えられてきた。一方、この凝集と焼結のみでは、十分に説明できない現象もあった。本論文は、脱ガスプロセス後の溶鋼中および連鋳鋳片中のアルミナクラスターをSEM、TEMにより詳細に観察し、液相FeOがクラスター形成に寄与していることを見いだしている。さらに、液相FeOの形成を熱力学的に考察し、微量の液相FeOがキャピラリー効果によりアルミナ粒子の合体を著しく促進する機構を提案している。観察結果に基づいたアルミナクラスターの形成機構は、これまでの疑点を科学的にかつ明快に解き明かしている。さらに、アルミナクラスターの形成を抑制するための具体的な指針も提示している。今後、提案されたアルミナクラスターの形成機構は、鉄鋼の鋳造分野において基盤的知見となると期待される。
　本論文が提示した鋳造欠陥抑制のためのクラスターの形成機構とアルミナクラスターの形成を抑制する指針は、鋳造プロセスの研究・開発の発展に大きく寄与する。したがって、学術的かつ工業的に高く評価でき、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。

  To control alumina cluster formation has been one of the important issues to avoid casting defects attributed to inclusions in the motel steel. It has been accepted that clustering was proceeded by sintering of agglomerated alumina particles. On the other hand, there were still ambiguities in understanding the formation by sintering. In this study, SEM and TEM observations were extensively performed for alumina clusters produced in the molten steel after the degassing process and in the CC slab. The significant finding is contribution of liquid FeO on alumina particles to rapid formation of rigid alumina clusters. The paper thermodynamically proves that liquid FeO can be formed in some conditions. A new mechanism of alumina clustering due to the capillary effect of liquid FeO between alumina particles is proposed. The study clearly shows the physics behind the alumina cluster formation and eliminates the ambiguities. In addition, applicable guides to avoid the alumina cluster formation are also pointed out. This study will surely develop fundamentals of steel solidification and improve the casting processes. 
  The mechanism of alumina cluster formation and the guides to avoid clustering are significant achievements in the field of steel making. From viewpoints of both scientific and industrial contributions, this paper is highly appreciated and deserves Sawamura award.


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　本論文では、Fe-Mn-C 基Twinning-Induced Plasticity(TWIP)鋼を室温で変形した後の負荷応力下で生じる静的ひずみ時効に着目し、静的ひずみ時効の強化量に及ぼす諸因子の影響を系統的な実験と詳細な理論解析によって明らかにしている。本鋼が室温変形時に動的ひずみ時効を示し、それが後の静的ひずみ時効に影響を与えることも考慮した上で、予ひずみ，予ひずみ速度，時効時間，および負荷応力を静的ひずみ時効挙動の影響因子として抽出し、個々の影響に対して明快な説明を与えている。また、本鋼のひずみ時効が水素脆化と密接に関連することにも注目し，固溶水素の増加が静的ひずみ時効の強化量低下につながることを示している。さらに、これまで複雑とされてきたTWIP鋼における静的ひずみ時効の機構を、炭素原子の3種の運動，(1)転位や積層欠陥への拡散、(2)予ひずみ変形中の可動転位との相互作用、(3)応力下での正四面体位置から正八面体位置への再配列，を考慮した理論解析によって見事に解明している。
本論文は、オーステナイト鋼の静的ひずみ時効を本質的に理解するための重要かつ有用な知見を示しているとともに、水素脆化感受性を議論するための基礎的な情報を包含していることから、学術的，工学的に極めて高く評価でき、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

　This paper focuses on static strain aging under load stress in an Fe-Mn-C twinning-induced plasticity (TWIP) steel deformed at room temperature.  The effects of the factors affecting the extent of strengthening through static strain aging were elucidated by systematic experiments and detailed theoretical analysis.  By considering the existence of dynamic strain aging during deformation at room temperature, the effects of pre-strain, pre-strain rate, aging time and load stress were individually evaluated as factors affecting static strain aging behavior, and clear explanation of the effects was provided.  The paper also focused on the close relationship between strain aging and hydrogen embrittlement in the steel, and showed that increasing solute hydrogen is associated with reduction in strengthening efficiency through static strain aging.  While the mechanism of static strain aging in the TWIP steels has not yet been elucidated, the theoretical analysis in the paper provides an elegant explanation for static strain aging based on three types of motion of the carbon atoms: (1) Segregation to dislocation and stacking faults, (2) Interaction with mobile dislocation during pre-straining, and (3) Reordering under stress from tetrahedral to octahedral sites.
　This paper presents important and useful information for the substantial understanding of static strain aging in austenitic steels, and includes information fundamental to any discussion of susceptibility to hydrogen embrittlement.  The paper is of significant value from the academic and industrial aspects, and is indeed worthy of the Sawamura Award



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　結晶粒径を微細化するほどオーステナイト（γ）の熱的安定性が増大し、熱的なマルテンサイト（α’）変態が抑制されることが、経験的によく知られている。本論文では、結晶粒径を1 ~ 80 μmの広い範囲で変化させた準安定γ鋼（Fe-16%Cr-10%Ni）における、熱的なγ→α’変態および引張変形に伴う加工誘起γ→α’変態に及ぼすγ粒径の影響について、調査・考察している。
　γ粒径を20 μm以下に微細化することで、熱的なγ→α’変態が抑制されることを明らかにした。また、引張変形におけるγの安定度は、熱的なγ→α’変態の場合とは異なり、γ粒径の影響がほとんど無いことを明らかにした。生成したα’について結晶学的な解析（EBSD解析）を行ない、熱的γ→α’変態については、γ粒径が小さくなることで、粒内において互いの変態ひずみを緩和し合うマルチバリアント変態が起こりにくくなることによってγ粒径依存性が説明できることを示した。一方、加工誘起γ→α’変態については、変形方位に依存した優先的なバリアントのα’のみが選択的に生成することを示し、γ粒径がγ→α’変態に直接関与しなくなるためγ粒径依存性が発現しなくなるというメカニズムを提案した。
　本研究成果は、加工誘起γ→α’変態を利用したTRIP鋼などの高張力鋼板の設計指針に繋がる重要な知見を与えるものである。

  It is well-known that the thermal stability of austenite is increased by grain refinement. In this paper, the effect of grain size on the thermal and the deformation stabilities of austenite was described in the metastable austenitic stainless steel (Fe-16%Cr-10%Ni) with the grain size of 1 ~ 80 μm.
  The martensitic transformation on cooling (athermal martensitic transformation) was suppressed by grain refinement (< 20 μm) of austenite. The thermal stability of austenite depends on the grain size. On the other hand, no effect of grain size was seen on the deformation-induced martensitic transformation during tensile deformation, which indicates that the mechanical stability of austenite is independent of the grain size. In the crystallographic analysis by means of EBSD (electron backscattering diffraction), it was found that some special martensite variants tend to be selected in an austenite grain on the deformation-induced martensitic transformation (near single-variant transformation) and this results in the formation of texture along tensile direction. This indicates that the most advantageous variants are selected in the deformation-induced martensitic transformation to release tensile strain and leads to the grain size independence of the mechanical stability of austenite.
  This paper is worthy of Sawamura Award not only by its academic contributions to the understanding the effect of grain size on the thermal and the mechanical stability of austenite but also by industrial suggestions for developing high strength steels, such as TRIP-assisted low-alloy steels.


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　従来から鉄鉱石焼結過程におけるカルシウムフェライト(CF)の生成に関する多くの研究が焼結鉱の品質改善の観点から行われてきたが、焼結過程での昇温過程・冷却過程(1473－1873)での滞留時間が1－2×10²と短時間であること、かつ、焼結反応が非等温・非平衡条件で進行することから、実験手法に多くの課題があった。
　本研究では、新たに開発した数秒の時間分解能を有する迅速X線回折法(QXRD)による結晶構造解析法とレーザー顕微鏡による組織解析法を、高温(1500℃)ガス雰囲気下での液相を伴う鉄鉱石の焼結反応に適用して、構造と組織の両面からのその場(in situ)観察を試みている。具体的には実際の焼結プロセスに相当する高温条件で進行する非平衡の反応ダイナミクスを観察して、従来から鋼材の熱処理や溶接用に作成されていたCCT線図を焼結過程のカルシウムフェライト(CF)の生成に適用し、CF生成に及ぼす冷却速度の影響を解明している。
　本研究成果は当該分野で行われてきた研究に新しい方向性を提示するものであり、独創的かつ挑戦的な手法として高く評価できる。同時に鉄鉱石等の原料の多様化・低品位化に対するプロセス改善の方向性を考える上での貴重な知見を与える可能性を秘めており、工学的価値が高い。澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

  Most of current studies focused on the phase stability of various types of calcium ferrites and SFCAs that are included in specimens prepared in equilibrium and isothermal conditions or in the obtained sinters. However, sintering in a real process progresses in short periods between 1-2×10² s in the temperature range T=1473-1873 K, and the sintering reaction progresses under a non-equilibrium and non-isothermal condition. Thus the final microstructure and type of coexisting phases of the sinter are highly susceptible to the heating conditions, especially the heating and cooling rates and gas atmosphere such as the oxygen partial pressure Po₂.
  This research describes pioneering investigation on in situ and real-time observation of the formation of calcium ferrites using a newly developed system, i.e. “quick X-ray diffraction (Q-XRD)” and an in situ laser microscope. In situ observation both of crystal structure and microstructure successfully reveals the effect of heating and cooling rates on the sintering reaction in the CaO-Fe₂O₃ system with attention to overheating and overcooling phenomena. The first continuous transformation (CCT) concept for iron ore sintering is proposed to understand overcooling phenomena when the molten oxide cooled down to room temperature and magnetite, hematite, and various types of calcium ferrite are formed. The CCT diagram for sintering provides crucial and fundamental information on the sintering accompanying solidification, precipitation, and formation of calcium ferrites from the molten oxides, and can be used as a guideline for controlling sintering processes.
  This paper contributes a lot to academic and industrial metallurgical fields.


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