【俵論文賞】(4件)
回転強度試験における時系列3D scanningと固気液三相の移動解析によるコークス変形が及ぼす充填層内流れ特性評価 鉄と鋼, Vol.104, No.7, pp.347-357 夏井俊悟, 澤田旺成(北大), 照井光輝, 柏原佑介(JFEスチール), 菊地竜也, 鈴木亮輔(北大)
-受賞理由-本論文は、高炉内充填層構造体としてのコークスの炉内変形挙動が通気・通液性へ与える影響を空間的に理解することを目的として、コークスの変形に伴う三次元形状変化を追跡し、Euler-Lagrange型動力学モデルに反映することで、変形を伴うコークス充填層内部の液体・気体の流れを計算した革新的な試みである。 本論文の独創性は、高炉内充填層構成要素であるコークス塊の炉内変形挙動を定量化するために、コークスの表面破壊と体積破壊を回転強度試験と3D-scanningを組み合わせて評価し、充填層を構成するための離散要素として数値シミュレーションへ組み入れた点にある。コークス形状を離散要素へ反映したこの試みは技術上だけでなく学術上も有用であると言える。 本論文の著者らは、コークスの変形挙動が充填層内の局所空隙形状および液ホールドアップサイトに多大な影響を与えることを明らかにした。さらに充填層内部における固気液間の相互作用をSPH-DEM連成解析し、コークスの変形が充填層内の液体滞留形態ならびに局所ガス圧力損失に与える寄与について系統的かつ論理的な考察を行なっており論文としての完成度は高い。 本論文の成果は、高炉安定操業において極めて重要な固気液が共存する高炉炉下部における非定常状態の理解や改善に資すると考えられ、その産業的な寄与は非常に大きい。以上より、本論文は俵論文賞にふさわしい論文であると評価できる。 閉じる
銅キレート剤を用いた鋼中硫化物分析法の開発 鉄と鋼, Vol.104, No.11, pp.634-639 水上和実(新日鐵住金,日鉄住金テクノロジー),板橋大輔, 相本道宏, 西藤将之(新日鐵住金)
-受賞理由-鉄鋼材料を1500Kほどの高温から急冷させSPEED法で電解エッチングして観察すると硫化銅の析出が観察されるが化学熱力学的計算から予測される析出温度より高温であり予測と一致しない。 本論文ではSPEED法電解エッチングにより、鋼中に存在しない硫化銅がMnS周囲に新たに生成するメカニズムと、硫化銅の偽装的な生成を防止する電解液・方法について検討した。その結果、電解時の硫化物間の溶解度積の桁数比が大きいほど偽装硫化物が生成されやすいことを実験により明らかにした。この偽装硫化物生成を防止する対策として、キレート剤、特にトリエチレンテトラミンを中心としたポリエチレンアミン類により銅イオンのみならず、Ag、Pb、Co、Ni、Znイオン等の偽装硫化物生成を防止できることを新たに提案した。また、Arガスバブリングによるキレート剤の攪拌が偽装硫化物発生の抑制に有効であることを見出し、繰り返し分析精度に優れた定量分析法の開発にも成功した。 本論文は電解エッチング時の析出物への交換析出メカニズムの明確化、およびその抑制が可能な析出物分析方法の開発は材料評価や新材料開発のために有用であり、俵論文賞にふさわしい論文と評価できる。 閉じる
熱延鋼板におけるSiおよびMn選択外部酸化がFe-Mn合金反応に及ぼす影響 鉄と鋼, Vol.104, No.11, pp.646-654 木庭正貴, 伏脇祐介, 長滝康伸(JFEスチール)
-受賞理由-近年の自動車軽量化に対応するために高強度鋼板の適用が増大している。高強度鋼板の多くはSi、Mnを含有し、このため溶融めっき性に劣る。この事象に対してこれまで多くの取組みがなされてきたが、大部分は冷延鋼板を対象としたもので、熱延鋼板についての検討は少なく、特に高強度鋼板に対するものは殆どない。 本論文はこのような背景の中、連続めっき(焼鈍)工程における熱延鋼板の表面元素濃化挙動に着目し、めっき性との関係について検討したものである。熱延鋼板は冷延鋼板と異なり再結晶させる必要がないために相対的に低温で焼鈍される。このため本論文では特に600~700℃における鋼表面のSi、Mnの選択酸化挙動に加えてFeの自然酸化皮膜の還元挙動に着目し、熱力学的側面、速度論的側面の両面から検討し、高強度熱延鋼板のめっき性が特に低温領域で冷延鋼板と比較して低下する理由を解明した。これは従来の軟鋼の熱延鋼板で提唱されているめっき性劣化機構とは異なるもので、高強度鋼板の低温焼鈍下におけるめっき性の支配因子を提唱するものとも言える。 本論文は上記のような学術的な点に加えて、工業的にも今後益々増大する熱延高強度鋼板の製造性を高める契機になることが期待され、俵論文賞にふさわしいと判断する。 閉じる
パーライト鋼の格子ひずみと強度に及ぼすV添加の影響 鉄と鋼, Vol.104, No.11, pp.673-682 前島健人, 米村光治, 河野佳織(新日鐵住金), 宮本吾郎(東北大)
-受賞理由-自動車の足回り等に用いられる鍛造部品には、鍛造成型後の熱処理を省略したVを添加した高強度非調質鋼の開発が進んでいる。従来知見では、Vを0.2%以上添加し、VCを相界面析出させて析出強化する機構が知られている。 本論文の著者らは、VCの相界面析出を生じない微量のV添加量を選択し、パーライト組織を変化させる目的の等温保持実験行い、硬度測定、引張試験、組織、析出物観察、および3D-APを用いたV, Cの分布調査を行った。その結果、短時間保持材については、1.4nmまでの微細VC析出物が観察されないにも拘らず、強度上昇が確認され、従来知見である析出強化以外の強化機構が示唆された。そこで、著者らは、X線回折線のプロフィール解析を実施し、パーライト中のフェライト部の格子歪量と、0.2%耐力の間には、明確な相関があることを見出した。そして、Vの添加については、フェライト、セメンタイト相界面でのV濃化による格子定数差の増大により、界面での格子ミスフィットが増大して、格子歪量が増大する新しい強化機構を提案した点は、学術的に高く評価できる。 本論文では、複数の強化因子である、析出強化、固溶強化、パーライト組織のラメラ間隔、セメンタイト球状化度の影響を、できる限り定量的に考察することで、従来知見であるVCによる析出強化とは異なる新たなV添加による強化機構を提案しており、少量の合金添加でも高強度、高延性の非調質鋼の開発可能性を示唆するものであり、結論の技術的な有用性も大きく、完成度の高い論文である。よって、俵論文賞にふさわしいと判断できる。 閉じる
【澤村論文賞】(6件)
Recovery of Phosphorus from Modified Steelmaking Slag with High P2O5 Content via Leaching and Precipitation ISIJ International, Vol.58, No.5, pp. 833-841 Chuan-ming, DU, Xu GAO(東北大学), 植田 滋, 北村信也(東北大学)
-受賞理由-製鋼スラグからのりんの分離回収は、スラグ発生量の低減や資源活用に関わる重要な研究課題である。一方、近い将来には高りん鉄鉱石の利用が想定され、高い酸化りん濃度の製鋼スラグの発生が予想されることから、りん回収は益々重要となる。スラグ中の酸化りんは、溶解しやすいC2S–C3P固溶体に濃縮することから、りんの選択溶出を行うことが可能である。本論文では、りん酸を高濃度に含有する製鋼スラグを用い、リーチングによるりん回収に及ぼすK2O添加の影響を調査するとともに、高P鉱石を使用する場合の製鋼プロセスを提案している。緻密な実験により、浸出・析出過程における影響因子を調査し、りん回収に関する制御法について明らかにした。析出物の分離および焼成によって酸化りんを30%含む固体が回収でき、りん酸肥料として利用する可能性が示された。また、浸出残渣についてもリサイクルの可能性が示された。 本論文は、高炉一貫製鉄所における製鋼プロセスを意識した、工学的に非常に重要なテーマを取扱い、実験も詳細でかつ実用化に際しての展開も明確であり、評価できる。学術上、技術上の両面において高く評価することができ、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。 閉じる
Mechanism of Mild Cooling by Crystallisation of Mould Flux for Continuous Casting of Steel - A View from Apparent Thermal Conductivity under Steep Temperature Gradient – ISIJ International, Vol.58, No.5, pp.905-914 高橋俊介, 遠藤理恵, 渡邊 玄, 林 幸, 須佐匡裕(東工大)
-受賞理由-本論文は製鋼の連続鋳造プロセスで使用されているモールドパウダーの熱伝達に関する結晶化の影響について、実験・解析より基礎的な熱物性値をまとめ、そのメカニズムについて考察した貴重な論文である。 物性値の測定に際して、急な温度勾配を可能とした新たな平行平板モデル実験装置を製作し、輻射伝導を含めたモールドパウダーの見かけの熱伝導率を測定した。実験においては、比較のためインコネル600、フューズドシリカの見かけの熱伝導率の測定を行っている。また得られた熱物性値を元に、固体モールドパウダーのフラックスフィルムの熱伝達計算モデルを作成し考察を行っている。特に室温から350℃までの温度域においては、結晶化率の増加に伴い、熱伝導率が増加すること、また500℃~600℃においては、見かけの熱伝導率は、結晶層の1.32(W/m/K)に対して、ガラス層は1.54(W/m/K)と大きくなることなどを明らかにし、輻射による影響があることを定量的に明らかにした。 以上により独自の実験設備を構築することにより、実プロセスにより近い形での基礎データを数多く採取し解析したことは、実用的かつ学術的にいずれにおいても高く評価される。従って、本論文は澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。 閉じる
Oxidation of Ti Added ULC Steel by CO Gas Simulating Interfacial Reaction between the Steel and SEN during Continuous Casting ISIJ International, Vol.58, No.7, pp.1257-1266 Joo-Hyeok LEE(POSTECH), Myeong-Hun KANG, Sung-Kwang KIM(POSCO), Youn-Bae KANG(POSTECH)
-受賞理由-連続鋳造工程における浸漬ノズル閉塞は製造効率と製品品質に直結する重要な技術的課題であり、これまでにも多くの研究が行われてきた。ノズル閉塞の理由として様々な機構が提唱されているが、未だ統一見解は得られていない。一方、近年、極低炭素鋼に限らず種々のTi添加鋼種が開発されており、効率的な生産技術の確立が希求されている。 本論文では、上記の問題についての数多くの先行研究を精査した結果に基づき、ノズル材に含まれるCとSiO2の反応によりCOガスが発生し、溶鋼に含まれるTiやAlを酸化する可能性に着目した。還元雰囲気を考慮したFetO-Al2O3-TiOx系状態図をCALPHAD法により推算し、従来から数多くの議論があった液相酸化物の生成等を熱力学的に予測した。そのうえで、溶鋼-ノズル材界面での反応挙動と生成物分布を調査するため、ラボスケール実験を行い、1560 ℃,CO雰囲気下で、Fe,Fe-Al,Fe-Ti,およびFe-Al-Ti溶融合金とAl2O3るつぼの界面での酸化物生成と付着状況を観察した。Fe-Al-Ti溶融合金の場合に、推算された状態図と一致するFetO- Al2O3-TiOx系液相酸化物が生成し、さらにAl2O3が取り込まれてるつぼに付着する様子が確認された。以上の実験事実と予測された状態図を基に反応機構を推論して、ノズル閉塞機構を提唱した。
本論文はノズル閉塞防止へ向けた根本的かつ具体的な対応策を提示しうる優れた知見を報告しており、学術面と実務面のいずれからも高く評価される。したがって、本論文は澤村論文賞にふさわしい論文である。
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In-situ Evaluation Method for Crack Generation and Propagation Behaviors of Iron Ore Burden during Low Temperature Reduction by Applying Acoustic Emission Method ISIJ International, Vol.58, No.8, pp.1413-1419 水谷守利, 西村恒久, 折本 隆, 樋口謙一, 野村誠治, 齋藤公児(新日鐵住金),葛西栄輝(東北大)
-受賞理由-鉄鉱石価格の上昇、高品位鉱石の枯渇化などから、Al2O3やSiO2などの脈石成分を多く含むもの、あるいは微粉化した低品位な鉄鉱石を高炉で使用する必要性が高まっている。高炉において低品位鉱石の比率を上げた場合、ヘマタイトからマグネタイトの還元段階で鉱石内に亀裂が発生し、通常よりも還元粉化が起こりやすく、通気性の悪化、それに伴う圧損の増加が懸念される。これらが生じた場合、高炉の生産性の低下と共に操業の不安定性につながる。このような還元粉化は、これまで亀裂生成過程などのin-situで観察することは困難であったが、著者らは新たにアコースティックエミッション法(AE法)を用いて、還元初期、後期、冷却過程における亀裂の生成様式、長さの分布に対する還元ガス種の影響を解析することに初めて成功した。また、本論文では還元粉化の管理指標であるRDI試験では、上記手法を用いて冷却過程での粒子内の亀裂生成が粉化量に影響することを初めて定量的に解析し報告した。これらの得られた知見は、還元粉化推定技術の評価に繋がり、高炉の安定操業技術の確立に大きく貢献することが期待できる。 以上、本論文は独創性が極めて高く、学術的かつ工学的に優れており、特に製銑分野においてその波及効果が期待でき、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。 閉じる
Anisotropy in Hydrogen Embrittlement Resistance of Drawn Pearlitic Steel Investigated by in-situ Microbending Test during Cathodic Hydrogen Charging ISIJ International, Vol.58, No.2, pp.340-348 富松宏太, 網野岳文, 千田徹志, 宇治舜矢, 小此木真, 川田光, 大村朋彦, 丸山直紀,西山佳孝(新日鐵住金)
-受賞理由-伸線パーライト鋼の優れた耐水素脆性について、伸線方向に配向したラメラ組織が重要な因子であることが従来から指摘されてきた。しかしながら、マクロな力学試験を実施する際、断面積の小さな伸線材から、ラメラ組織の異方性を考慮して試験片を採取することは困難であり、上記の指摘を支持する実験的証拠は得られていなかった。これに対して、本研究では、集束イオンビーム加工と押し込み試験機を用いて陰極水素チャージ中でのミクロな曲げ試験を実施することで、伸線パーライト鋼の耐水素脆性の組織異方性を調査したものである。その結果、陰極チャージによって水素を導入した材料では、き裂はラメラ界面と平行方向に伝播するが、垂直方向にはほとんど伝播しないことを見出し、ラメラ組織の配向が伸線パーライト鋼の優れた耐水素脆性を実現することを実証した。さらに、電子顕微鏡による格子像観察を実施することで、ラメラ界面がき裂の伝播経路であることを直接観察し、ミクロ曲げ試験の結果と併せることで、その破壊靭性値などを評価することにも成功した。 以上のように、ミクロな力学試験と高分解能組織観察を融合した本研究は、水素脆化機構の解明に向けた研究を加速する新規的なものであり、澤村論文賞に相応しいと判断される。 閉じる
In-situ Neutron Diffraction Study on Ferrite and Pearlite Transformations for a 1.5Mn-1.5Si-0.2C Steel ISIJ International, Vol.58, No.11, pp. 2125-2132 友田 陽, Yan Xu WANG, 大村孝仁(物質・材料研究機構), 関戸信彰(東北大), Stefanus HARJO, 川崎卓郎(日本原子力研究開発機構), Wu GONG(京都大), 谷山 明(新日鐵住金)
-受賞理由-本論文では、1.5Mn-1.5Si-0.2C鋼を用いて、オーステナイト単相温度域からの冷却に伴うフェライトとパーライト変態挙動のその場計測を試みている。中性子回折実験結果と、高温X線回折実験,熱膨張測定結果との比較を行うとともに、その場中性子回折実験により、フェライトとオーステナイトの格子定数の変化が議論できることを示し、熱収縮と炭素濃度,相応力との関係を明らかにした。相応力は、変態ひずみ炭素濃度とeigenひずみを求め、Eshelbyの介在物理論を用いて算出した。また、パーライト変態開始時のオーステナイトの炭素濃度を推定し、フェライト・セメンタイト間の整合ひずみと微細ラメラ組織に起因する回折ピークブロードニングの発現を示した。これまでに定量的な計測と解析ができなかった現象を、中性子回折実験により初めて明らかにした。 以上、本論文は学術上,技術上の両面において高く評価できる内容となっており、澤村論文賞にふさわしい論文である。 閉じる
【ギマラエス賞】 該当なし
【卓越論文賞】(2件)
Fe-40 mass%Ni-5 mass%Cr合金溶製工程における非金属介在物の生成予測 鉄と鋼, Vol.95(2009), No.12, pp. 827-836 佐藤奈翁也(東北大), 谷口 徹, 三嶋節夫, 岡 照恭(日立金属), 三木貴博, 日野光兀(東北大)
-受賞理由-製鋼プロセスにおける生成介在物の組成を正確に制御するためには、溶鋼成分と介在物相との平衡関係を把握することが重要である。著者らは高合金を含む広い成分系における活量係数を表すために、Redlich-Kisterパラメータを用いた汎用性のある式を提案し、実際にその式で用いられる多くの熱力学パラメータを導出・決定している。本論文は、それらの著者らが提案した式とパラメータを用いて、複雑で予測しがたい高合金鋼中における溶鋼成分と介在物相との平衡関係について計算に成功し、実操業における介在物組成と溶鋼成分との関係を矛盾なく説明できることを示している。 第一義的に、Redlich-Kisterパラメータを用いた統一的な取り扱いにより高合金中の成分活量を計算可能としたことは学問的に優れている。さらに、実操業において問題のあった介在物組成と溶鋼成分との乖離を解決した点で技術的にも優れているといえる。本論文の対象である高合金鋼中における生成介在物の制御は、その広まりとともに年々重要性が増しており、今後も本手法と熱力学パラメータの利用やさらに多元系への展開・発展が期待される。 これら、学術上、技術上の両面において、長い期間にわたって非常に有益で、今後も影響力があり続けると高く評価することができ、卓越論文賞にふさわしい論文であると判断できる。 閉じる
High-strength Fe-20Mn-Al-C-based Alloys with Low Density ISIJ International, Vol.50(2010), No.6, pp. 893-899 須藤祐司, 神谷尚秀, 海野玲子, 大沼郁雄, 石田清仁(東北大)
-受賞理由-自動車の飛躍的な燃費向上やCO2排出量削減に向けて、車体の軽量化に直結する高比強度構造材料の開発に対するニーズが一層高まっている。鉄鋼材料の比強度を上げる方法として、高強度化とともに、低比重化につながるAlやSiなどの鉄よりも比重の低い元素の添加が有効であることは良く知られている。 著者らは、低比重鋼(密度7.0g/cm3未満)として開発してきたFe-20mass%Mn-Al-C4元系合金,さらに耐食性・耐酸化性を考慮してCrを添加したFe-20 mass%Mn-Al-C-5 mass%Cr 5元系合金について、構成相の比率や組織形態,硬さ,冷間加工性,室温引張特性に及ぼす合金成分と熱処理条件の影響を系統的に調査した。その結果、焼鈍温度と焼鈍後の冷却速度を制御するという単純な熱処理のみで、優れた高比強度-延性バランスを有する低比重鋼の開発に成功した。本論文では、状態図に基づいて、AlとC量を広範囲で変化させた高Al低比重鋼の金属組織と機械的性質の関係が明確にまとめられている。さらに焼鈍後の冷却過程で析出するナノサイズのκ炭化物が強化に寄与することやγ/α2相域ではα相の体積率が鋼材の機械的特性に重要な影響を及ぼすことが見出されている。これらの知見は高強度低比重鋼の開発に大きく寄与している。 本論文は、高強度低比強度鋼の分野において先駆的な研究の一つとして高く評価されており、卓越論文賞にふさわしいと判断できる。 閉じる |