第71回白石記念講座 「地震と鋼材 -阪神・淡路大震災から25年を過ぎて」
講座の視点
1.日時・場所 2019年11月28日(木)9:30~17:00 受付時間 9:00~15:05 エッサム神田ホール2号館3階大会議室(2-301)(東京都千代田区内神田3-24-5) 2.講演題目・講演者,司会者
3.講演内容 1) 地震防災に欠かせない「予測」「予防」「対応」そしてその融合を促進するためのリスクとレジリエンス中島 正愛 災害の実相を知る「予測」、災害に負けない社会を造る「予防」、そして被害からいち早く立ち直る「対応」、の三要素が地震防災の根幹をなす。阪神・淡路大震災の教訓を経て、これら三要素はそれぞれの技術・施策を磨いてきた。その後東日本大震災に見舞われ、また南海トラフ巨大地震の到来が懸念され、さらに今後少子化が必至であるわが国において、この三要素の融合と連携が強く求められている。その実現手段としての「レジリエンス」という考え方、また三者を結ぶ共通言語としての「リスク評価」について、ICTを活用した災害関連情報の集約と共有や、フラジリティを駆使したインフラ損失期待値評価を例にとりつつ概説する。 2) 財産・事業継続を保証する建築物の損傷制御設計と鋼部材の利用竹内 徹 建物に加わる地震エネルギーは膨大であり、大地震に対し建築物は鋼材部分の塑性変形に伴うエネルギー吸収能力を耐震設計に利用している。鋼材は塑性変形能力に富む靭性材料であるが一定以上の塑性繰り返し歪が加わると破断に至る。1995年の阪神・淡路大震災では梁端部や柱等の破断が発生し大きな問題となった。その後、座屈を制御し高い繰り返し塑性変形能力を有する座屈拘束ブレース等に損傷を集中させ、生命だけではなく財産・機能を保全する損傷制御設計が発展してきた。本講座では免震・制振構造の発展と併せ、種々の鋼部材を組合せ大地震時の入力エネルギーを効率的に消費することで損傷を制御する近年の種々の構造計画手法を紹介する。 3) 大地震に対する耐震性の向上に資する新しい耐震鋼材開発の取り組み加村 久哉 我が国では、建築物の主要構造部を中小地震時には弾性範囲内に留めて機能を維持し、極めて稀に発生する大地震に対しては塑性化を許容しつつ倒壊を防止して人命を守るという耐震設計思想に基づいて来た。1995年の阪神・淡路大震災では鋼構造も大きな被害を受け、梁端部や柱等の塑性化後の破断や溶接部などからの脆性的破断が発生した。この被害を契機に、大地震に対しても主要構造部の塑性化を限定して建物の機能をできるだけ維持し、再使用や補修を容易にするという損傷制御設計が主流になり、エネルギー吸収部材を用いた制振構造が発展してきた。これに対応し、鉄鋼メーカーに於いても鋼材開発の分野で制振構造に適する高強度鋼やダンパー用鋼材を開発してきた。本講座では制振構造の発展に資する、種々の建築用鋼材の開発事例を紹介する。 4) 新しい耐疲労鋼と制振ダンパーの開発および高層ビルへの適用事例澤口 孝宏 損傷制御設計において地震動の吸収を担う各種制振ダンパーのうち、鋼材系制振ダンパーは低コスト、メインテナンスフリー、高剛性を特長として、当該技術普及の中心的な役割を担う。本講演では、制振ダンパー鋼材の開発・適用事例として、従来比約10倍の低サイクル疲労寿命を有する新鋼材、および長周期地震動や大地震後の大規模余震の繰り返し発生にも耐えられる新しい制振ダンパーとその高層ビルへの適用事例や量産化技術の開発状況を紹介する。また、新鋼材の開発のベースとなった、高Mnオーステナイト鋼やFe-Mn-Si系形状記憶合金の力学・疲労特性と比較しながら、新しい制振ダンパー鋼材の疲労寿命改善メカニズムを解説する。 5) 鋼構造におけるモニタリング技術の発展とBCPへの活用に向けた課題倉田 真宏 センサーを用いて構造物の状態を監視するモニタリング技術は,超過外力(地震荷重や風荷重など)に対する最大応答や塑性変形量を観測する手法と損傷の定量化を直接試みる手法に大きく分けられる。特に,その特性として靱性や冗長性に富む鋼構造においては,モニタリングが提供する構造物の健全性に関する工学的な情報を根拠として,被災後にも社会活動の根幹となる都市インフラを継続して提供できる可能性が高い。本講演では,モニタリング技術の実用化例ならびに近年の研究の進展を紹介する。また災害に対するレジリエンシー向上を目指した,事業継続性計画(BCP)等への同技術の活用を展望し,課題を探る。 6) 規準や規格の国際比較から見える日本の先進性と課題岡崎太一郎 ひと口に建築鋼構造と言っても、鋼材や部材の種類、性能目標、設計法、施工法に至るまで、国や地域によって様々な違いがある。日本の鋼構造技術は、20世紀末にヨーロッパやアメリカから習得したものであるが、時代を経て、日本の需要や技術、風土、文化に適応して独自の発展を遂げてきた。頻発する被害地震を背景に、耐震設計の要求が厳しく、品質管理が徹底される一方で、鋼材から耐震要素、設計法などの技術革新が活発であることが、日本の建築鋼構造の特徴である。本講座では、諸外国の設計規準や鋼材規格との比較を通して、日本の先進性や特異性を交えて、日本の建築鋼構造に残された課題を紹介する。 7) 設計と施工とのバランスを望む―法令と実務とのアナロジー―西山 功 阪神・淡路大震災以降、鋼構造建築物は、大局的には良好な耐震性能を発揮してきた。その後の進展・変化では、微修正はあったが、地震後継続使用性などより高い性能実現に向け応答制御装置を組み込んだ構造システムの普及、鋼材の更なる高強度化、モニタリングなど付加価値付与の努力が進められてきた。これらを進める上で、スピード感という点で法令運用上の制約があるのも事実であるが、研究・開発を進める側として、設計と施工とのバランスをとったものづくりの必要性も望まれる。これらの点について、お話したい。 5.参加費(税込,テキスト付) 会員8,000円,一般15,000円,学生会員1,000円,学生一般2,000円 ★テキストは,講座終了後残部がある場合,鉄鋼協会会員価格,一般価格で販売いたします.注)会員割引は個人の会員のみ有効です.協賛団体の個人会員,学生会員も含みます. 受付で本会あるいは協賛団体の会員証をご提示下さい. テキスト購入のお申込みは,本会HPをご覧下さい.
(会場案内)
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