<産業への応用>
午前は産業に対する数学からのアプローチについて二件の講義を行う。材料科学における組織の形状や諸特性に関係する様々な要素の利用に対し、数学者が果たしている役割およびコラボレーションの展開について説明する。 |
1) 産業に息づく数学と数学研究(若山 正人) ガリレオ・ガリレイに戻るまでもなく、数学は科学や技術の発展に優れた言葉を提供し続けてきた。応用成果を目指す際、たとえば産業における数学モデリングにおいても、解けるように問題を定式化することが重要である。ビッグデータに対しても、収集段階の工夫が必要であり、さらにそのデータをどう見るか、が肝心である。ビッグデータは、おそらく幾何学的対象と捉えるのがよい。数学と計算は切り離せないが、着目すべきは、対象の性格を反映した不変量などであり、それにより判定尺度も備わる。本講では、応用例を踏まえその考え方を示す。 |
2) AIMRにおける実験ー数学と材料科学の連携(小谷 元子) 東北大学AIMRは文部科学省の世界トップレベル研究拠点形成の支援をうけ、東北大学に設置された材料科学研究所である。特に、数学と材料科学が連携することで、これまでとは異なる材料科学へのアプローチを行い、材料開発の新手法を見出すことを目的としている。ターゲットプロジェクトとして、力学系理論に基づく非平衡材料、トポロジカル機能材料、離散幾何解析学による非平衡構造材料の研究を実施している。いくつかの萌芽的成果が生まれているので、それを紹介する。 |
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<基本的な考え方>
第二部の講演は「かたちの数学」に関する基本についてのレクチャーを行う。この二件の講演は互いに連携しており、この講義を聴講することで数学的解釈の概念と実用の際の使いどころを理解して頂く。 |
3) 不安定化がパターンを生む(栄 伸一郎) 自然界には様々なパターンが存在するが、パターンの構造や運動を理論的に解析することは、一般に大変難しいのが現状である。しかし、パターンがまさに生じ始める、その近傍に注目することにより、パターンの生じるメカニズムや複雑な運動を解析できる場合がある。これは分岐理論と呼ばれる考え方の一つであり、本講演ではこの分岐理論の考え方を元に複雑な時・空間パターンの解析の一端を出来るだけ平易に講義する。 |
4) 組織構造の斬新な数学的解析手法 ~ トポロジーとその考え方(佐伯 修) 幾何学、特に位相幾何学(トポロジー)は、物質の空間的な構造を解析するにはうってつけの数学理論である。たとえば2種類の組織からなる物質があって、それらの質量比や体積比が分かったとしても、2種類の組織がどのように空間内で絡み合って混ざっているかといったことが分からなければ、物性の詳細な解析はできないであろう。本講演ではそうした空間的な絡み方、配置のし方などを数学的に解析したり評価したりする際の考え方、具体的な道具などについて、できるだけ平易に講義する。 |
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<実際に使っている分野の紹介>
最後の二件は、実際に「かたちの数学」を取り入れた研究が進んでいる領域での研究事例の講義となる。生物分野での数学の活用事例から鉄鋼材料の研究に数学を活用するヒントを得ることを目的とする。 |
5) バイオメカニクス:かたちと動きを描く数学と物理学(和田 浩史) 生物の動きと形が生まれる原理に、マクロな物理学の視点から光をあてようという研究について紹介する。生物の3次元的な形態と運動を取り扱うには,運動する曲線や曲面として構造を理想化し、曲率をもつ曲がった空間上の連続体力学を考察する必要がある。理論の骨格は「座標の取り方に依存しない不変量だけで構成する」ことであるといえる。では、実際にはどのような数学的概念を応用して理論モデルを構築するのか?具体的な現象を例にとり、最も基本的な事柄について丁寧に解説することを通じて、全体像のイメージが浮かびあがるような講義構成にすることを心がける。 |
6) 生物のかたちを数学で理解する(三浦 岳) 私たちの体は複雑な形をしている。この形づくりのメカニズムを研究するのが発生生物学という学問である。最近になってこの分野では、分子遺伝学的手法による遺伝子改変、蛍光タンパクによる生きた組織の働きの可視化とともに、数理モデル化とその解析がよく用いられるようになってきた。数学とこれらの技術の組み合わせで生物の形づくりの何がわかるのか、肺と骨の2つを例にとって説明する。 |