1)西山彌太郎の精神と21世紀の企業経営 (JFE-HD・數土 文夫) 今日の鉄鋼精錬技術の礎を築いた一人で、且つ優れた経営者として臨海型高炉一貫製鉄所を発明し、実現に導いた西山彌太郎氏の業績とその人柄を紹介する。また、私自身が入社式で西山社長から受けた訓示や、技術者時代に出会った忘れえぬ人々との交流エピソード等から、鉄鋼精錬技術の核心とも言える“攪拌のメタラジー”について述べる。次いで、現代の企業経営に通じる西山彌太郎氏の経営思想を、経営資源の効率活用、CSR、MOTの視点から述べる。将来の日本鉄鋼業を支える学生や若き研究者諸君に向けて、中国の古典の至言を交えながら、リーダーに求められる資質・志を持つことの大切さについて、メッセージを贈る。
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2)「課題先進国」日本~Vision2050~ (東大・小宮山 宏) 現在、経済発展の著しい国々において急速にインフラが整備され、鉄を主原料とする自動車、家電などが大量に生産され蓄積されている。そのため地下資源は枯渇の危機が言われ、価格が高騰している。しかし、2050年頃には発展途上の国々も完成し、人工物は社会に行き渡り、鉄鋼など鉱物資源の需要の伸びは止まると考えられる。日本においては、横這いの自動車保有台数に見られるように、既に多くの人工物は飽和状態となっている。世界の国々が成熟し、日本と同じ様な状況となったとき、人類はまだ鉱物資源を地下に頼り続けるのか。地下資源を永く利用するために、世界に先駆けて人工物が飽和状態となっている日本は何をすべきか。かねてより物質とエネルギーの観点から提案している、2050年の長期を見据えた地球持続のためのビジョンを紹介する。
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3)鉄鋼技術における非平衡鉄合金開発の意義と将来性 (東北大・井上 明久) 大学院生として研究の緒についた修士・博士課程時の研究テーマは鉄鋼材料に関するものであり、これらの課題研究を通して鉄鋼研究の魅力に取り付かれた一人である。この若い時の体験、記憶は、現在の研究推進の原点になっており、今日でもガラス相やナノ結晶構造の非平衡鉄合金の研究を行っている。特定の条件を満たした成分の鉄合金では徐冷凝固によりバルク形状の非平衡鉄合金を創製でき、これらの合金が通常の結晶鉄合金では得られないユニークな特性を示し、工業材料の仲間入りを果たしている。この種の鉄合金開発の経緯、現状、将来性について紹介し、鉄鋼技術の一手法としての意義について検討する。
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4)日本の科学技術政策 (総合科学技術会議・奥村 直樹) 政府は、国の科学技術政策として、3つの国家理念、6つの大政策目標を掲げ第3期科学技術基本計画(2006~2010)を推進してきている。そのフレームワークのもと、分野別推進戦略に並行して個別の政策プログラム「革新的技術戦略」「環境エネルギー技術革新計画」「社会還元加速プロジェクト」等も実施している。鉄鋼業界には「環境エネルギー技術革新計画」に参画して活発な活動をしていただいている。国立大学や研究開発独立法人等の公的研究機関の研究開発をより効果的・効率的に推進すべく「研究開発強化法」が昨年施行され、官民の交流を促進する基盤の整備も進んでいる。これは、イノベーション創出による日本の国際競争力を向上させることを意図した基本的な法律であり、その主旨に基づく実効が求められている。他方、世界へ目を転じれば、グローバル競争が一段と激しくなった背景をもとに世界各国とも基礎研究の強化やイノベーション創出による国際競争力強化や社会の実現などを目指した科学技術政策を強力に推進している。このように世界での「知の大競争」時代を迎えた中でのわが国の科学技術政策の現状と課題および将来への展望について紹介する。
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5)国研から独法へ 物質・材料研究機構の材料研究の革新 (物材機構・岸 輝雄) 国立研究所から独立行政法人へ移行して8年が経過した。その間、NIMSは一貫して経営改革に取り組み、運営、中核機関機能、人材育成、国際化、人事制度などで多くの変革を成し遂げてきた。その結果、研究成果と国際環境を基準に、現在では、日本における5つの世界トップレベル研究拠点の一つに位置づけられるようになった。本講座では、NIMSの経営革新と成果、さらに、材料研究の未来へ向けての取り組みを紹介する。
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6)鋼の加工熱処理の変遷と最近の動向 (新日鐵・牧 正志) 加工熱処理は鋼の強靱化に極めて有効である。約50年前に鋼の加工熱処理が登場して以来、オースフォーム、TRIP、制御圧延など数多くの加工熱処理が開発され、いつの時代にも中心となる加工熱処理が存在し鉄鋼材料研究を活性化してきた。本講座では、鋼の加工熱処理の50年前から現在に至るまでの変遷をまとめるとともに、代表的ないくつかの加工熱処理の特徴と強靱化原理について説明し、ついで最近の動向と将来の展望について述べる。とくに、1960年代に登場したオースフォームとTRIPが当時大きな注目を浴び精力的に研究されたにもかかわらず実用化しなかった理由、そして、約30年後にこれらが再び注目を浴びるようになり最近は実用鋼に適用されるようになった理由について、時代背景の移り変わりおよびメタラジーの進歩と関連させて述べる。
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7)現場は宝の山-掘るも掘らぬも腕次第- (住金・友野 宏) これは私が入社して最初に配属された先の製鋼工場長の言葉である。入社後の教育で多くの先輩から様々なお話を伺った中で、最も鮮烈に胸に残っており、そして永年、鉄鋼業で働いてきた今日でも、益々その感が強くなってきている言葉である。ここでいう「現場」とは、勿論、製造現場とは限らない。「物事が実際に起きている処」であり、製造、営業、研究等々、ビジネスの全分野に共通する「現場」である。一方、鉄鋼ほど面白い金属材料は見当たらないし、その可能性は無限である。この鉄鋼のまた、製造や研究といったビジネスの「現場」でも、まだまだ判らない事、理解し難い事も多く、まさに発見と発展といった鉄と同様に無限の可能性を秘めたこれらも併せて「宝の山」である。ここは一番、腕をまくって、脳味噌を振り絞って無限の可能性を引き出すすべを、皆さんと共に考えてみたい。 |