1)熱力学の適用による製銑プロセスの新しい展開の可能性 (東北大・日野光兀) G.Agricolaにより1556年著されたDe Re MetallicaLibriXII以来、A.Ledeburにより1883年初版が著作されたDas Hand- undLehrbuchderEisenhuttenkunde等数多くの鉄冶金学に関する教科書・専門書が世界中で出版されている。これらの専門書並びにこの時代以来の論文、技術報告書は、そのほとんど大部分が物質収支、エネルギー収支、並びに流体工学理論に基づいて体系化され、基礎的、理論的な考察が行われてきた。特にここ50年間における化学工学的考察は鉄鋼生産工程技術開発に多大の貢献をなしてきた。その結果、もはやなすべき基礎的研究はもはやなくなりつつあると思われている方々もいるが、本講座では、視点を変えて熱力学的観点から製銑プロセスを再考察して、熱力学を適用した場合新しい展開があり得るのかどうかということを紹介してみたい。
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2)鉄鋼における凝固現象の基礎 (東大・鈴木俊夫) 組成的過冷却理論の提案に始まる凝固現象の研究はMS理論、中立安定性基準の提案へと展開し、凝固組織形成に関する基礎的理解を深めてきた。特に、デンドライト成長の研究によるさまざまな知見は、工業的にも重要なデンドライト枝間隔の予測、準安定相成長、共晶成長などの凝固組織の定量的予測へと繋がり、ミクロ偏析、マクロ偏析の理解とともに、連続鋳造に関連した問題の解決に貢献してきた。本講座ではこのような凝固基礎研究の発展を概説するとともに、今後の連続鋳造研究の進展を展望する。
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3)強化機構の基礎理解 (東工大・加藤雅治) 鉄鋼材料では、考えられる全ての強化機構を駆使して材料開発が行われてきたことは言うまでもない。多種多様な熱処理、加工、成分調整等の結果、目的に応じた鉄鋼材料が実用に供されている。したがって、強化機構と銘打っても「何をいまさら」と思われる方が多いのではないだろうか?実際に、鉄鋼の強靱化に関する教科書、参考書、講座は数多くあり、研究会のテーマとしても頻繁に取り上げられている。本講座では、これら強化機構の根本をもう一度理解しておくことを目的として、確立された学問(弾性論、転位論、熱力学、速度論など)を使って、強化機構がどのように理解されているか、また、理論的な考察がどこまで適用できるか、などの問題を基礎に立ち戻って考えてみたい。
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4)鉄鋼板圧延の現状と展望 (横国大・小豆島明) 日本の鉄鋼業の圧延技術は1980年代に世界のトップに成長し、これまでそのリーディングを維持してきた。その維持してきた期間に開発された熱間板圧延および冷間板圧延の寸法・形状の制御などに関する研究および技術の現状を紹介し、それを支えてきたトライボロジーや冷却などの周辺の基盤技術についても説明する。更に、その開発されたトップの技術により創製されてきた高強度鋼板について説明するとともに、今後の展望について述べる。
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5)鉄鋼材料に関する分析・解析技術の研究展開 (東北大・我妻和明) 近年、資源循環型社会への転換が国家目標となり、それに伴い素材産業自身の体質にも大きな変革を迫るものとなってきている。関連する分析・解析技術も“製品”のみを対象とするものから周辺分野へ貢献が求められ、従来とは異なった視点からの分析・解析技術の研究開発が推進されている。特に、製造工程のあらゆる場面で適用可能なオンサイト・オンライン高速分析法の開発は、鉄鋼産業において重要視されるべき研究テーマである。本講座では、同分野の研究現状と将来展望について解説する。
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6)材料開発と計算材料科学 (物材機構・小野寺秀博) 近年の電子計算機、情報処理技術の発展を背景にして、計算科学シミュレーション技術は大規模化、高精度化を進め、単純な原子・分子や単結晶のシミュレーションから複雑な多数原子系のナノスケール構造のシミュレーションへ視野を広げており、物質・材料分野における計算科学手法の有効性、必要性は益々大きなものとなってきた。本講座では、材料設計研究の基盤技術として大きく期待される計算科学分野として、経験的な原子間ポテンシャルを用いた粒子シミュレーションや統計熱力学計算を活用した材料組織や特性の設計について、最近の動向と展望を概括報告する。 |