1)鉄鋼製錬の状態図と熱力学 (京大・岩瀬正則) 高温では多くの反応は短時間で平衡に達するので、冶金反応を理解するには熱化学の手法が非常に有効である。熱化学データは、少量のるつぼ実験で得られたデータが大容量の製鋼反応の解析に利用できるところに最大の利点がある。しかしMetallurgist is defined as a person who thinks of everything in terms of phase diagramとすら言われるように、熱化学データの活用には状態図に関する基礎知識が不可欠である。さもなければ、とんでもない誤解が生じる。本講座では、状態図を援用しながら鉄鋼製錬反応を考える。
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2)最近の溶接冶金研究-溶接部の高温割れと脆化- (阪大・西本和俊) 最近、溶接冶金学の分野では、溶接部における材料諸特性の変化や溶接欠陥の生成機構にかかわる材料挙動の解明をより精緻に解明するため、数値計算による定量的解析やそれを応用した予測手法の開発が行われている。本講座では、ステンレス鋼や耐熱超合金の溶接部で問題となる高温割れ及び脆化相の析出に伴う脆化現象の予測につながる材料要因の定量的解析事例について紹介する。
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3)合金設計と組織制御 (東北大・石田清仁) 鉄鋼材料をはじめ、Ni基、Co基合金などの構造及び機能材料について状態図に基づいた合金設計と組織制御について解説するとともに材料開発への応用例について述べる。具体的には、計算状態図とそのデータベースの現状、鋼中の硫化物の安定性や組織・形態制御法及びPbフリー快削鋼への適用、炭化物を利用した高硬度・耐摩耗鋼や低比重鋼への展開、マルテンサイト変態や金属間化合物を利用した形状記憶合金や耐熱合金などである。
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4)鉄鋼材料の組織と強度の関係 (九大・高木節雄) 鉄鋼材料の最大の特徴は、高温のオーステナイト単相域から冷却する過程で生ずる様々な相変態を利用して機械的特性を多種多様に変えられるところにある。しかしながら、それだけに材料の強化機構は複雑であり、組織と強度の関係についてはいまだに不明な点も多く残されている。金属材料の強化機構は、基本的には固溶強化、転位強化、粒子分散強化、結晶粒微細化強化の4つであり、複雑な組織を有する鉄鋼材料では、まず個々の機構による強化挙動や強化限界を把握しておくことが重要である。本講座では、個々の基本的な強化機構に関して、強化則の実例や強化限界を紹介するとともに、パーライトやマルテンサイトなどの鉄鋼材料に特徴的な組織と強度の関係について概説する。
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5)安全性、耐久性、環境親和性を目指す鉄鋼材料 (東工大・水流 徹) 蓄積された社会資本、あるいはこれから建造される社会資本の劣化は、資源・エネルギーの無駄ばかりでなく社会の安全性を著しく損なうこととなる。身近な存在である自動車や家電製品の安全性、耐久性についても同様のことがいえる。また、クロメート処理の規制に限らず、環境に有害な物質や環境負荷を増大させる材料や処理の規制は今後ますます広がっていくと考えられる。本講座では、今後の社会において鉄鋼材料に求められる安全性、耐久性、環境親和性について、鋼材表面の機能化を中心にこれまでの研究・開発の流れを概観し、今後の発展の方向性を探る。
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6)鍛造技術の現状と動向 (名大・石川孝司) 日本の鍛造業は自動車産業の重要なパートナーとして、自動車関連技術の進歩に対応しながら発達し、世界を牽引してきた。最近では、世界的な資源確保やCO2抑制などの環境保護・改善のために、自動車部品などの軽量化・燃費改善のための更なる高強度化、加工工程の改善・省略が求められている。今後は自動車だけでなく多様な製品群に部品を供給していくため、材料、鍛造、後加工の三位一体の研究開発が今まで以上に必要である。本講座では、バルク鍛造、板鍛造、複合鍛造、制御鍛造などの技術をベースに部品の高機能化、高精度化、高強度化、高品質化、低コスト化、省工程化による環境保護・改善を目指した鍛造加工技術の現状を探るとともに、将来の可能性を紹介する。 |