第191回西山記念技術講座「21世紀を拓く高性能厚板」
[講演概要] 1)「降伏強度と組織」研究に関する最近の進歩 (九大・高木節雄) 鉄鋼材料の最大の特徴は、オーステナイトからの相変態を利用することによりパーライトやベイナイト、マルテンサイトなどの様々な組織が発現し、しかも成分や熱処理法を変えることによってこれらの組織が混在した複合組織が得られる点にある。平成15年4月から4年間に亘って活動してきた「降伏強度と組織研究会」では、様々な種類の鋼について降伏強度を支配する組織要因について調査・研究を行ってきた。本講演では、研究会の成果を織り込みながら、鉄鋼材料の降伏強度と組織に関する従来の知見や最新の情報を提供する。2)厚鋼板の溶接技術および鋼溶接部の信頼性に関する最近の進歩 (東大・小関敏彦) 厚鋼板の多くは溶接構造物として適用される。それゆえ溶接部の性能は構造物の信頼性に大きな影響を与え、また溶接の能率や鋼の溶接性は、構造物のコストや工期にも大きく影響する。このため、様々な分野で高能率溶接技術の開発とともに鋼構造物の信頼性の向上が強く求められるのに伴い、それに対応する溶接性や溶接部性能に優れた厚鋼板の開発が進められてきた。本報では、近年の厚鋼板の溶接技術の進歩と広がり、ならびに、それに対応する溶接部性能に優れた厚鋼板の進歩とその基盤となる鋼溶接部の信頼性の評価について概括する。3)大競争時代における厚板製造技術とその動向 (JFE・津山青史) 近年の厚板需要は、中国が牽引するアジア経済の好調に支えられ、造船やエネルギー分野を筆頭に拡大が続いている。これに対応し、日本ミルでは増強、韓国・中国ではさらに新ミル建設が続々と計画され、稼動し始めている。こういった状況下で、需要家からの品質要求は、ますます高度化、厳格化、多様化が進むとともに、中国・韓国ミルの追い上げの中で、日本ミルにとって生き残り・勝ち残りを賭けた商品開発を含めた厚板製造技術の一層の高度化が必須である。本講演では、厚板を取り巻く環境と製造技術動向を概説し、最近の技術進歩とそれらを活用した高性能厚板について紹介する。また、21世紀の日本の厚板製造技術の将来像についても展望する。4)造船分野における鉄鋼材料利用技術と課題 (三菱重・白木原浩) 船舶は、海洋環境を航行する大型構造物であり高い安全性が要求される。一方、製品競争力強化のために性能向上や工作生産性向上が大きな課題である。これらの課題に対して、設計・工作両面から多くの取り組みが続けられており、船体構造の主要材料である鉄鋼材料に対しては、強度的信頼性や工作性に関してより高機能な鋼材の開発・実用化に対する期待が大きい。本講演では、主要な船種における鋼材利用技術を概観し、高機能鋼材の実船適用の現状を紹介するとともに、構造設計・工作面からみた課題と期待を述べる。5)エネルギー、インフラ分野における鉄鋼材料利用技術および溶接技術の変遷と課題 (石播・中西保正) 日本で最初に溶接が主要構造物に採用されたのは大正末期~昭和初期であり、鉄鋼材料の進歩とともに溶接技術も大きく発展してきた。本稿では、エネルギー、インフラ分野を中心に、各種構造物におけるこれまでの鋼材および溶接技術の発展の経緯を紹介し、さらに現状および今後の動向、技術的課題、鉄鋼メーカへの要望などをファブリケータの立場から述べる。6)造船、インフラ、輸送分野の鋼材技術動向 (新日鐵・吉江淳彦) 地球規模での物流量の増加やエネルギー需要・原料需要の拡大、さらにはアジア地域諸国を中心とした社会資本拡充の動きを背景に、厚板の需要も急速に増大している。本報告では、造船、建設、橋梁、建設機械・産業機械等の各分野において、より安心・安全なインフラの提供、地球環境問題への対応、ライフサイクルコスト低減等を実現するための、厚板の高強度化、破壊・疲労安全性向上、耐食性・耐候性向上、大入熱溶接継手特性改善等に向けた研究開発の動向を概説し、あわせて近年の実用化の例について紹介する。7)エネルギー分野の鋼材技術動向 (住金・岡口秀治) 近年のエネルギー需要の急速な増加、とりわけ天然ガスや水力等のクリーンエネルギー利用の期待から、エネルギー開発に必要な高性能鋼材の需要が急速に高まっている。当該分野の厚板製品の開発・製造に対しては溶接部を含む構造体としての安全性の確保が極めて重要であるが、近年の高清浄度化技術、微細介在物利用技術を中心とした高度な製鋼技術やTMCP(熱加工制御)技術の発展によって、強度、靭性および溶接性が飛躍的に向上した厚鋼板が開発されている。本講演では、エネルギー分野を支える高強度・高靭性鋼の製造を支えるメタラジーの最近の進歩を総括すると共に、それにより生み出された最先端製品の一例を紹介する。8)耐食鋼、耐環境脆化鋼の技術動向 (神鋼・中山武典) 近年、鋼構造物においては、ライフサイクルコストの低減や長寿命化が要望されており、耐食鋼の開発やその利用技術の検討が活発化している。ちなみに、橋梁分野では、1990年代以降、耐候性鋼が見直されており、塩化物耐食性を高めたニッケル系高耐候性鋼が開発実用化されるとともに、腐食予測や簡易な現地試験などの提案がなされている。造船分野では、大型タンカーの原油タンクやバラストタンク用耐食鋼の開発が進められている。本講演では、海水やラインパイプ、石油・ガス精製装置などで利用されている耐食鋼、耐環境脆化鋼も含めて、最近の知見を整理するとともに、今後の課題について述べる。 |