第193回西山記念技術講座 「鉄鋼業における最新の計測・制御・システム技術」
[講演概要] 1)計測技術の最近の展 開・原動力とその具体例 (東大・安藤繁) 現代の科学技術や産業技術の中での計測の役割は本質的で幅広い。ここでは鉄鋼の製造と品質管理の技術に関連するものしそうなものに限定しつつ、以下の三つの観点からそれらの要点や今後の展開の可能性について論じる。物理信号変換原理上の発展:例えば、光利用技術の多様化、オンライン分析技術、2次元同時計測、磁気センシング技術の高度化、光と電磁波の遷移領域の活用など。センサのデバイス上の発展:例えば、低価格で超小型高性能のマイクロセンサ、それらの信号処理機能、無線インターフェース、遠隔エネルギー供給の内蔵、使い捨て化など。センシングシステム構成上の発展:センサネットワーク、センシングの自律化と自己組織化、大型構造物の保全とリスク管理、視覚聴覚の認識技術の実世界への広がりなど。2)最近の制御・システム技術と今後の動向 (東大・原辰次) 近年、ネットワーク技術の発展・普及に伴い、我々が取り扱うべきシス テムは多数の異種要素・機能を持つサブシステムから構成され、それらが開かれた環境の中で相互作用を及ぼしあって大規模・複雑化してきている。そのため、このようなシステムが抱える様々な問題を解決していくためには、個別分野の研究の発展だけでは対応できない状況にある。本講座では、この20年余りの間にシステム論としての体系化と実応用での検証の両者において成功をもたらしたロバスト制御の考え方を出発点として、ポストロバスト制御理論の方向性を幾つか紹介するとともに、「最適性とロバスト性のトレードオフ」と「局所最適化と大域最適化のコンフリクト」の2つの観点から安全性・保全性に優れたシステム化技術の動向について考察する。3)計測技術の応用と今後の展開 (住金・窪 田淳之) 近年の鉄鋼業における計測技術への要求は、製品の 高付加価値化、高品質化、検査の自動化への対応等、益々高度になりつつある。一方、近年の計測技術は、IT技術の進展に伴い、センサの高性能化、データ処理の高速化・高度化及び大容量化が進み、鉄鋼業においても計測要求の高度化に対応すべく、従来技術では実現できなかった計測が可能になるなど利用方法を含めて著しい進展がみられた。本講では、近年の鉄鋼業における計測技術について、プロセス・製品の計測および製品の非破壊検査に関する技術動向と最新技術の応用および今後の展開について述べる。4)制御技術の応用と今後の展開 (新日鐵・ 橋爪健次) 鉄鋼製品の品質向上、短納期化要請等を背景として、高品質・安定製造を 狙いとした制御技術開発、導入が進められている。操業上最重要と位置づけられる高炉においては、炉内状況の3次元可視化技術や大量データベース情報を利用したガイダンス技術が開発され、安定操業を支えている。また、製鋼工程においては、成分制御の高度化、鋳造流動制御への最新制御理論や電磁力応用など、品質の安定化を重視した制御技術が進展してきた。さらに安定性と高品質の両立を求められる圧延工程においては、寸法制御はもとより、圧延形状の安定化、工程温度制御の高度化による材質作りこみに主眼を置いた技術の開発・実用化により高品質・大量生産を実現している。本稿では、これら制御技術高度化の進展と今後の展望について述べる。5)システム技術の応用と今後の展開 (JFE・石川好蔵) 計算機及びネットワーク技術の飛躍的な性能向上に加え、抜本的な設備費削減を図るため、従来は専用の計算機システムにより実行されていた製鉄所のプロセス制御、生産管理システムが、汎用サーバ、パソコンに置き換わりつつある。また、性能向上に合わせ汎用化、オープン化も進展しており、更には標準化、オブジェクト指向など効率的な開発環境整備も進化している。加えて、こうした計算機技術の進展により大量の情報を高速でリアルタイムに処理が可能となったことから、複雑な鉄鋼製造プロセスや生産システムに対する各種の解析やシミュレーションが実用化され、更には生産計画、物流計画の全体最適化などの大規模最適問題への展開がされつつある。本稿では、これらのシステム構築技術およびその応用技術の進歩と展望について述べる。6)電気設備技術の発展と適用状況 (東芝三 菱電産システム・町田精孝) 本講座では、電気設備における各要素技術の近年のめざましい発展と 適用状況に関して将来動向を視野に入れ、ドライブ装置、PLC、ネットワークそれぞれについて述べる。ドライブ装置の章では、素子の発展、低圧・高圧インバータ等に関して触れ、PLCは様々なコンポーネントの動向、汎用PLCと専用PLCの比較に加え、HMIに関しても述べる。ネットワークはEthernet主体のネットワークの特徴、世界標準の適用状況、汎用フィールドバス等を比較・紹介する。更に上記、要素技術の適用を軸に専用技術を駆使した電気システムにおいて、近年、汎用技術がどのように導入され、どのような変遷を遂げてきたか各要素の特性を考慮しながら述べる。また、電気設備技術としての今後の課題、設備安全、機能安全問題への取り組み、RoHS対応などにも触れている。7)電力流通設備における保全技術の現状と変 革への取組み (東電・小林隆幸) 送電線や変電所など電力流通設備においては、高経年設備の比率が高まる一方で、電力ネットワークのパフォーマンスを向上するため設備に要求される責務も変化しており、保全技術の高度化と合理化が求められている。このため、電力会社では異常予知技術の向上と設備管理技術の向上など保全業務の変革に向けた様々な取組みを行っている。本講座では、設備の異常予知や劣化状態を診断するためのメンテナンス技術、五感の定量化など監視技術の高度化、過負荷運用など設備稼働率を向上するための運用技術について最新の取組み事例を紹介する。また、設備データ管理システムの構築と活用方法、ナレッジデータベースの構築など、大量の設備に対してCBM/RCMを支援するツールについても紹介する。 |