第190回西山記念技術講座 「窒素が拓く鋼の新しい展開とその利用」
1.日時・場所: 第190回 2006年11月22日(水) 9:30~16:55 (東 京) 工学院大学 新宿校舎3階0312号室 (東京都新宿区西新宿1-24-2 TEL.03-3342-1211(代)) 2.プログラム: ※講演の概要はタイトルをクリックすると見ることができます。 9:30~10:30 窒素鋼のメタラジーと特性 宮城工業高等専門学校名誉教授 坂本 政祀 10:30~11:15 窒素鋼の製造 (独)物質・材料研究機構共用基盤部門材料創製支援ステーション長 片田 康行 11:15~12:15 窒素鋼の強度特性とその発現機構 茨城大学大学院理工学研究科応用粒子線科学専攻教授 友田 陽 13:15~14:05 窒素鋼の耐食特性-特にステンレス鋼に関して 元日本冶金工業(株) 遅沢 浩一郎 14:05~14:55 窒素鋼の溶接・接合における課題 東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻教授 粉川 博之 15:15~16:05 高合金の表面窒化処理技術の現状と発展 関西大学工学部先端マテリアル工学科専任講師 市井 一男 16:05~16:55 窒素鋼の利用の現状と今後の展開 大同特殊鋼(株)技術開発研究所特殊鋼研究部長 野田 俊治 3.事前申込み: 不要 4.参加費: 会員(含協賛団体個人会員) 7,000円、 一般 14,000円、 学生会員 1,000円、 学生非会員 2,000円 ※参加者には講演テキスト1冊を無料でさしあげます。 なお、当日入会の申込をし、会費と入会金(正会員10,700円、準会員4,900円、学生会員3,000円)をお支払いいただいた方は、会員参加費または学生会員参加費で参加できます。 ※会員割引は個人の会員のみ有効です。 受付で本会あるいは協賛団体の会員証をご提示下さい。 ★テキストは、最終講座終了後(2006年11月24日以降)残部がある場合、 会員7,000円、一般14,000円で販売いたします。 テキスト購入のお申込みは、本会の販売委託先である海外新聞普及(株)へ直接ご連絡下さい。 海外新聞普及(株) 連絡先:TEL:03-5476-8437 FAX:03-3453-4341 E-mail:sales1@ocs.co.jp 〒108-8701 東京都港区芝浦2-9-13
鉄鋼中の窒素は、これまでは実用上問題になる種々の脆化現象引き起こすことなどから有害元素として除去されてきた。最近では多くの優れた特性を示す有効性の高い元素として認められてきている。ここでは、基本であるFe-N系において同じ侵入型元素であるC元素と基本的に異なる特性について考察する。鉄窒化物(Fe16N2,Fe4N)の結晶構造が各固溶体(α´とγ)と同一であること。またこれら鉄窒化物はフェライト(α)の体積と比較すると著しく大きく、マルテンサイト相よりも大きいこと。これらを基にFe-N二元系の状態図、繰返析出・2段析出・恒温変態、磁気特性、時効、相変態について概説する。 2)窒素鋼の製造 (物材機構・片田康行) 鉄鋼材料への窒素の添加方法としては、加圧溶融法および固相窒素吸収法の2種に大別される。より多くの窒素を添加するための加圧溶解法については古くから検討されており、研究室規模では1960年頃から誘導炉やエレクトロスラグ溶解炉(ESR)での研究が行われ、これらの結果をベースとして1980年代に欧州で量産規模の加圧型ESRが開発された。これらの装置を用いて開発されたMn-Cr系オーステナイト鋼では1mass%程度、Cr系マルテンサイト鋼では0.4mass%程度まで窒素を含有する鋼種が実用化されてきている。一方、固相窒素吸収法は、鋼材を高温の窒素ガス中に保持することで材料表面から窒素原子を固相内(オーステナイト相)に拡散させ、材料表面近傍、または材料全体の高窒素化を図る一種の化学熱処理法である。本手法をステンレス鋼に適用することで、通常の溶製法では添加が困難な高濃度の窒素を容易に合金化できるため、高窒素鋼の製造プロセスとして実用的にも有効な手段である。窒素の特性を生かして窒素を積極的に利用する鋼種開発は精力的に行われてきており、その製造方法も多種多様にわたっている。本章ではこれらの窒素利用鋼の製造方法について概説する。 3)窒素鋼の強度特性とその発現機構 (茨城大・友田陽) 固溶窒素の添加量が増加するにつれて強度の上昇が見られるのはよく知られている。固溶窒素の添加に伴う強度向上の発現機構を概説するにあたって、まず高窒素オーステナイト鋼中の窒素原子の存在形態、変形機構、高速変形特性に及ぼす窒素含有量の影響について論じる。それらの議論に基づいて実際の強度特性(極低温から常温までの引張強度特性、引張強度特性に及ぼすNおよびC量の影響、極低温から常温までの衝撃強度特性)、強度と結晶粒径の関係、高窒素鋼における結晶粒微細化強化の有効性、低温脆化と破壊機構、常温から高温までのクリープ特性等について概説する。 4)窒素鋼の耐食特性-特にステンレス鋼に関して (元日本冶金・遅沢浩一郎) 鋼の耐食性に対する窒素の影響は、鋼中に窒化物として存在するか、固溶しているかによって異なるが、ここでは特に固溶状態における窒素の影響に着目する。窒素の固溶量は合金元素としてCr,Mn等を含むときに大きく、必須元素としてCrを含むステンレス鋼の耐食性に対する影響が特に著しいので、多くの研究がなされてきており、最近は窒素量を多量含む鋼種も開発されている。そこで、はじめに耐食性全般に対する窒素の影響について概観した後、ステンレス鋼について、不動態ならびに各種耐食性(孔食、すきま腐食、応力腐食割れ、粒界腐食、酸化)に対する固溶窒素の影響についての最近10年間の研究を中心に、さらに窒素を含む鋼種の開発および適用例について、解説する。 5)窒素鋼の溶接・接合における課題 (東北大・粉川博之) 高窒素鋼の溶融溶接においては、溶接金属での窒素量減少とブローホール発生、熱影響部での顕著な窒化物析出などが懸念され、諸特性に大きな影響を及ぼす可能性がある。溶接金属の窒素量は、溶融溶接時における溶融溶接金属と雰囲気との間での窒素の移行(吸収・放出)挙動により決定されることから、高窒素鋼を含む鋼のアークおよびレーザ溶接過程における溶接金属による窒素ガスの吸収・放出挙動について概説する。また、ブローホールおよび窒化物形成抑制のための、入熱制限、レーザ溶接、摩擦圧接、摩擦撹拌接合、粒界制御など溶接・接合プロセスを考慮した様々な試みについても紹介し、メタラジーの観点から高窒素鋼の溶接・接合技術における課題を概説する。 6)高合金鋼の表面窒化処理技術の現状と発展 (関西大・市井一男) 鋼の諸特性に対する窒素の有効利用に表面改質処理技術を適用する場合、一般に知られている表面硬化法としての窒化処理技術が考えられる。本講座では、高合金鋼の中からステンレス鋼と工具鋼の表面窒化処理を取り上げる。これらへの窒化処理はこの技術が開発されてからおよそ50年後の1970年代から始まり、新しい窒化処理方法の開発と共に発展してきた。現在もなお、その処理方法、適用鋼種の検討が進められている。ここでは、表面窒化処理法を概説すると共に、ステンレス鋼と工具鋼の窒化特性および利用分野について述べる。 7)窒素鋼の利用の現状と今後の展開 (大同・野田俊治) 窒素鋼の具体的な利用について、国内外の産業界で実際に利用されている現状を鋼種、窒素濃度、強度、使用環境に対応した利用状況とそれぞれの課題について概説する。窒素はオーステナイト相の生成元素であるため、高濃度添加の場合ニッケルをフリーにしても同相を維持することが可能となる。このニッケルフリー高窒素鋼は、耐ニッケルアレルギー材として生体/医療分野で期待されている。生体材料も多種多様で、機械的特性や物理的特性が使用される部位によって異なっている。このことから、チタン合金だけでは、生体材料全てを網羅できない。その意味では、チタン合金では使用が難しい高強度、高耐食性の部位にはNiフリー高窒素鋼は興味ある材料と言える。本章では、生体/医療分野から見たニッケルフリー高窒素鋼への期待のみならず、窒素鋼の生体適合性や窒素と微生物の相互作用等について概説する。 |