第58回白石記念講座 「技術者育成教育への新たな取り組みとその将来展望」
[講演概要] 司会: 東工大・須佐匡裕 1)【基調講演】 国際的に通用する技術者教育-日本技術者教育認定機構の活動とともに(阪産大・大中逸雄) 経済のグローバル化と国際的に通用する技術者の育成がますます重要となっている。従って、大学においては研究のみならず教育においても「国際的に通用する教育」を実践せねばならない。しかし、日本で一流と自慢している大学でも、それは国内比較での話しであり、国際的に比較しても一流と言える教育は極めて少ない。また、ゆとり教育が大学にも及んでいる可能性がある。本講では、欧米とアジアにおける技術者教育と教育の質保証に関する最近の動向、および日本における取り組みとしての日本技術者教育認定機構(JABEE)の活動状況と問題点、将来について述べる。 2)【学部教育】 大学が日本技術者教育認定機構(JABEE)認証を受ける意義と課題(東北大・長坂徹也) ISO-9001は製品に対する品質保証システムについての国際規格であり、現在では多くの企業が自社製品の品質を保証するお墨付きとして認証取得している。これに対してJABEEは、工学部の学科が、自ら掲げた教育目的を達成するための教育システムを完備し、それが正しく機能して目的通りの人材育成が果たされているかどうかを審査するものであり、いわば工学部卒業生に対する品質保証制度であるとみなせる。JABEEの認証を得ることは、教員にとっても学生にとっても決して楽なことではないが、教育をする側と受ける側の間の明確な契約関係を認識かつ履行させ、様々な形でプラスの波及効果をもたらせている。本講では、筆者の所属する学科プログラムでのJABEE制度に対する取り組み例について、教員と学生の意識の変化を交えて紹介する。 3)【博士前期課程(修士課程)教育】 大学院修士課程(博士前期課程)における技術者育成教育の現状とその課題(東工大・里達雄) 近年、大学院修士課程学生数は急増し、特に、理工系分野の大学院進学率はきわめて高い。また、修士課程修了者の大部分はそのまま就職するため、企業等への就職者の中で修士課程修了者の割合は増大している。一方、若手技術系人材の現状として、「基礎学力の不足」、「問題設定能力の不足」、「目的意識の欠如」など、様々な問題点が指摘されている。このような状況において、修士課程教育の質をいかに高め、保証するかが大きな課題となっている。現在、JABEEでは大学院修士課程プログラムの認定の必要性から認定基準を策定し、2007年度から実施することになっている。本講演では、理工系大学院修士課程での教育の現状ならびにJABEEの修士課程認定基準の考え方を紹介し、今後の課題について述べる。 4)【博士後期課程(博士課程)教育】 東工大・博士課程(博士後期課程)教育におけるプロジェクトマネージングコースの試みとその成果(東工大・三島良直) 東京工業大学の材料系4専攻(大岡山キャンパスの材料工学専攻と有機・高分子物質専攻、すずかけ台キャンパスの材料物理科学専攻と物質科学創造専攻)は博士後期課程(定員約60名)に「プロジェクトマネージングコース」を設置し、学位を取得要件として、研究による学位論文の提出の他に、ビジネス、経営、起業、プレゼンテーションスキルなどに関する講義を初年度に5科目9単位必須としている。ビジネス関連の講義はすべてその分野の第一戦で活躍中の外部特任教授(5名)が担当し、経営者と話の出来る研究者の育成を目指す。本コースのねらい、設置から3年を経過した現状と将来展望について述べる。 5)【企業内教育】 企業が求める技術者像へのアプローチ(新日鐵・村瀬賢芳) 産業と社会の発展に貢献する人材を育成し、モノづくりを通してあらたな価値を創造していくことは企業(製造業)の成長にかかわる最も重要な命題である。本講では新人・中堅社員教育、応用工学コースなどの人材育成メニューに触れた上で、「育成PDCA」に基づいた上司(指導者)と部下との日常的な「育成対話」の活動状況を紹介する。また、「求める技術者像」へのアプローチの一例として採用活動における取組みや、研究系列を対象とした独自の人事制度等についても言及し、優秀な人材の育成・確保に向けた企業としての現状と将来方向について述べる。 6)【学協会での教育】 技術者育成教育における学協会の役割と今後の課題(新日鐵・松宮徹) 技術者育成教育として鉄鋼協会では大学卒業後数年の技術者・研究者を対象に鉄鋼製造の理論を製銑、製鋼、材料・圧延のコースに分けて体系的に教育する鉄鋼工学セミナーを、また、これらの専門性を特定分野で補強する鉄鋼工学セミナー専科を、さらに、10~15年の実務経験を積んだ技術者・研究者が蓄積した知識をベースに相互討論を主体に技術思考再構築を目指す鉄鋼工学アドバンストセミナーを設けている。また、鉄鋼コア技術の集大成のための技術講座:西山記念技術講座と、必要性の高い周辺技術情報を体系化する講座:白石記念講座を適宜開催している。技術士等の資格認定の継続が必要な教育システムの場合には、これらと併せて、関連他学協会の行うセミナーを補完的に組み入れて、俯瞰的・一貫性のある継続教育システムが構築されるよう、当協会の教育プログラムを常に見直し、発展させて行くべきだと考える。 7)【パネルディスカッション】 材料系工学教育の現状の問題点と今後の方向 -日本鉄鋼協会および企業の技術者育成教育への関わり方など (司会:物材機構・長井寿、パネリスト:東工大・三島良直、JFE・影近博、住金・外山和男、神鋼・大西功一) |