「鉄鋼材料の溶接」(社)日本鉄鋼協会 第185回西山記念技術講座開催のお知らせ
[講演概要] 1)溶接割れの発生機構とその防止対策 (広大・篠﨑賢二) 溶接割れは疲労破壊、脆性破壊、遅れ破壊、クリープ破壊、応力腐食割れなどの破壊につながるため、構造物の溶接では重要な問題となる。溶接割れは、発生温度並びに環境により、主として高温割れ、低温割れ、再熱割れ、亜鉛メッキ割れなどに分類されている。本講義ではこれらの溶接割れの典型的な割れ現象を紹介し、その発生機構について現在明らかにされていることをレビュー的に述べる。また、構造物の溶接施工で重要となる、材料選択、溶接パラメータ設定(開先条件、溶接条件など)には溶接割れ感受性の評価試験法が必要である。そこで、従来より用いられている主な割れ感受性評価試験方法を挙げ、その特徴を説明する。さらに、割れ発生機構から考えられる割れ発生防止対策法についての考え方を解説する。 2)溶接部の経年変化と安全性 (九工大・増山不二光) 高温機器の溶接部には経年変化にともなう種々の損傷が発生するが、中でもクリープ損傷はそれが生じた場合の重大さを考えると極めて重要な問題であり、従来から多くの研究がなされている。すでに多くの研究成果が得られ、機器の安全性・信頼性向上に貢献しているが、現在でもなお、新しい技術開発と実用化のための研究が続けられており、将来への課題も多い。ここでは主として高温機器溶接部のクリープ損傷および疲労損傷を対象として、その発生・成長メカニズムと劣化・損傷の検出・評価技術の現状と課題について述べるとともに、最近開発された高強度耐熱鋼溶接部の経年劣化挙動および安全性確保のための維持基準・規格の動向について紹介する。3)ワイブル応力を用いた溶接鋼構造物の破壊安全性評価手法 (阪大・南二三吉) 鋼構造物の安全性確保にとって不安定破壊の発生を防ぐことは極めて重要で、破壊力学的手法はそれに大きな役割を果たしてきた。しかし、製鋼技術の進歩によって多岐の鋼材が開発され、構造様式も変化に富むようになると、従来法では十分に対応できなくなってきた(従来法は過度に安全側評価となりがち)。その主な原因は、破壊靭性試験片と構造要素のき裂先端近傍の拘束度の違いにある(構造要素は塑性拘束緩和を生みやすく応力レベルが破壊靭性試験片ほど高くならない)。本講演では、このような破壊靭性試験片と構造要素の応力状態の差を反映できるワイブル応力を指標とした、溶接鋼構造物の破壊安全性評価手法について紹介する。ワイブル応力の考え方とその有効性について溶接部を含む種々の脆性破壊問題への適用例を示す。さらに、ワイブル応力が取り入れられた世界初の規格「日本溶接協会規格WES2808」を概説し、その後の国プロを通した破壊安全性評価手法の標準化の動きを紹介する。 4)最近の厚鋼板溶接部の組織と特性 (新日鐵・大北茂) 溶接構造物は近年大型化傾向が続き、その使用環境も引続き苛酷化傾向にある。そのため、使用される鋼板には、軽量化を目的として従来以上に高強度でかつ高品質が要求されてきている。これらの構造物の溶接部には鋼材と同等の品質が必要とされるが、低コスト化のため、溶接施工に対して大入熱溶接・高能率溶接施工等、従来に比べて品質確保が厳しい状況となっている。本講演では、造船、土木、エネルギー分野などで素材として使用される厚鋼板の溶接による組織・靭性の変化について解説し、近年開発され建築分野などで採用されている高HAZ靭性鋼や各産業分野において採用されている高強度鋼などいくつかの厚鋼板溶接部とそれに対応した溶接技術・溶接金属の特徴について組織と靭性を中心にして紹介する。5)薄鋼板・表面処理鋼板の溶接 (JFE・小野守章) 自動車産業では、地球環境問題によるCO2排出規制や衝突安全基準の強化および防錆性能強化等の要求の高まりから、自動車車体の軽量・高強化および高防錆化を進めてきた。このようなニーズに対応して鉄鋼産業では高強度薄鋼板や高防錆表面処理鋼板の開発を進めてきた。また、接合技術に関しては、従来スポット溶接法を代表とする電気抵抗溶接法が用いられてきたが、近年、レーザ溶接法をはじめとして接着法(ウエルドボンド)および機械締結法等、種々の接合法が適用されるようになってきた。本講演では、高強度薄鋼板および表面処理鋼板の開発動向を概説すると同時に、溶接継手強度性能および溶接施工性からみた材料開発(材料成分および表面処理皮膜設計)への関わりおよび各種溶接法での溶接継手性能を紹介する。くわえて、各種溶接法の自動車への最新適用事例を紹介する。6)ガスシールドアーク溶接の進展-最近のアーク溶接プロセス・機器- (日立ビアメカニクス・三田常夫) インバータ制御溶接電源の出現によって、従来の溶接電源では不可能とされていた溶接電流・アーク電圧の複雑な波形制御も比較的容易に実現できるようになり、新しい溶接プロセスや溶接電源が次々に開発・実用化されてきた。例えば、板厚1mm以下の極薄板にも適用可能な低周波交流マグ溶接、50A以下の小電流域でも適用可能な使用電流パルスミグ溶接、ほぼ矩形のパルス電流波形が得られる新パルス溶接電源、アルミ溶接を主眼にした交流パルスミグ溶接、作業性改善を目的としたティグ溶接における交流周波数制御、あるいはプラズマ溶接の短所を改良したセミプラズマ溶接などであり、これらの特徴・特性などを説明する。また近年普及が著しい溶接電源・機器のデジタル制御について、その種類・内容・特徴などを紹介する。7)薄板の高速溶接-極低炭素鋼からアルミニウム合金との異種継手まで- (名大・沓名宗春) 0.002%C極低炭素鋼から0.72%C高炭素鋼を数m/minで高速レーザ溶接した時の溶接割れ、組織変化、加熱冷却速度の影響、硬さ分布、引張試験結果、割れ防止、などを、従来のアーク溶接(三田氏が紹介するような)などと比較して超高速溶接であるリモートレーザ溶接の時の溶接性、アルミニウムおよびアルミニウム合金と低炭素鋼や高張力鋼のレーザロール溶接の特性。ますます、高速溶接したときにどのような溶接の問題が生じるか論じたい。また、自動車産業や造船でのレーザーアークハイブリッド溶接などの実用化の現状などを紹介したい。 |