第182回西山記念技術講座「介在物制御と高清浄度鋼製造技術」
[講演概要] 1)介在物組成制御と晶出の熱力学 (東北大・日野光兀) ここ30数年間、高純度、高清浄鋼製造技術は目を見張る発展を遂げてきている。精錬工程では、酸化、還元反応を利用して不純物除去が行われているので、溶鋼中の酸素濃度をいかに制御するかということが高純度、高清浄鋼製造技術のためのキー・テクノロジーとなる。極最近では、脱酸工程で生成する介在物は、脱酸工程とそれに引き続く精錬工程で有害なものとして除去するだけではなく、組織制御、材質改善のため除去せずに鋼中に残留、分散させ、積極的に有効利用されつつある。本講義では、普通鋼ならびに高合金鋼の脱酸平衡と、その時の生成介在物晶出の熱力学、ならびに脱酸工程における溶鋼は実は耐火物と反応していて、予期していない反応生成物が出現しているという事実を化学的側面から取り上げて論じてみたい。2)介在物の凝集と分布 (東北大・水渡英昭) 一次脱酸生成物の微細化条件として有効な介在物組成、脱酸剤添加方法について微細生成物(0.1μm以下)の粒径分布を含めて検討し、その粒子の測定方法について紹介する。さらに、凝固過程における介在物粒子の捕捉および排出に及ぼす種種の因子(溶質S、O濃度、凝固速度等)についての実験的および理論的考察をおこない、介在物粒子の均一分散化条件についての知見を述べる。また、脱酸生成物存在下でのTiN、MnSおよびMgS粒子の晶析出挙動について凝固モードとの関連を考慮して説明する。介在物粒子と結晶粒界との相互作用および介在物粒子による粒成長抑制効果について述べ、この分野の今後の発展のための課題について整理する。 3)極低炭素鋼製造プロセスにおける高清浄度化と介在物制御技術 (JFE・竹内秀次) 自動車用薄鋼板を始めとして広範囲に使用される極低炭素鋼は、製品の表面品質に厳格な要求がされる代表的鋼種である。製品表面欠陥をゼロとする目標を達成するため、連続鋳造プロセスから製造工程を遡り、2次精錬、転炉精錬、溶銑予備処理の各プロセスにおいて、最終的に高清浄度極低炭素鋼を得るための各種技術開発がなされてきた。本講演では、(1)精錬から連続鋳造に至る製鋼工程を一貫した高清浄度鋼製造のための技術、(2)極低炭素鋼の介在物制御技術、(3)これらの技術開発の基礎となる要素技術と理論研究、および(4)介在物の評価、解析技術など、について最近の進歩を体系的に整理し、今後の課題について述べる。 4)高性能厚鋼板の技術動向-介在物制御の進歩とともに- (新日鐵・植森龍治) 近年の厚鋼板の開発においては、連続鋳造、加工熱処理プロセスを前提に、マイクロアロイニング技術の最適化や変態・析出制御技術の極限的な利用により、高性能化が図られている。そのような中で、厚鋼板の材質特性の向上は、不純物元素の低減や種々の介在物の形態並びに組成のコントロール技術など製鋼技術の高度化によるところが大きい。本講演では、高性能厚鋼板の技術動向を主として材質と介在物制御の観点から総括し、次いで、介在物の利用技術として重用されているオキサイドメタラジーや近年新たに提案されている結晶粒微細化技術などの現況を簡単に紹介した上で、本分野の今後の展望について述べる。 5)タイヤコード鋼、弁ばね鋼の介在物制御 (神鋼・三村毅) 自動車タイヤ補強用に用いられるタイヤコード鋼と、エンジンの吸排気弁に用いられる弁ばね鋼は、線材製品において高精度な介在物制御が求められる代表的な品種である。いずれも軽量化、小型化に伴う高強度化が進展し、介在物に対する感受性が高まっているため、一層の微細化・無害化が要求されている。本講演では、破壊の起点となる介在物と熱間加工、冷間加工時の介在物の展伸・破壊挙動に関する知見をまとめるとともに、製鋼段階における介在物挙動とその熱力学的・速度論的な基礎、および最適な介在物組成に制御するための製造技術について述べる。6)軸受鋼の清浄化 (山特・川上潔) タイトルの「清浄化」は高純度化を意味するものではない。生産技術の観点では「トータル酸素の低減」や「酸化物系介在物の最小化」を、材料機能的には「長寿命化」を意味している。すなわち、SUJ2を中心にSNCM420系を含む軸受鋼に求められる「材料特性」及びその「評価技術」と低酸素化を中心とした「製鋼技術」の高度化について最近およそ10年間の進歩をまとめる。特に「製鋼技術」については酸化精錬工程、還元精錬工程、真空脱ガス処理工程、TD精錬工程、鋳造工程に分けて各工程毎の現在の技術について述べる。7)快削鋼の介在物制御と最近の切削技術の動向 (住金・岡田康孝) 快削鋼については1984年に西山記念技術講座で取り上げられて以来20年が経過している。その時点で、現在ある快削鋼の基本骨格は出来上がっていたといってよいが、その後の20年間に連鋳化や自動車を中心としたユーザーの生産性向上・コスト低減要求に対応した技術開発が進められてきたので、その結果を以下の内容でレビューする。1) MnSを主体とした快削鋼における介在物制御技術 2) 介在物(形態・組成)やPb、S、Ca、Bi、Te等の合金元素と被削性の関連性 3) Pbフリ-化を含む最近の各種の快削鋼 4) 工具(材質・コ-テイング)やドライ加工法等の材料以外の最近の切削技術の紹介 8)ステンレス鋼、高合金鋼の介在物制御 (日冶・稲田爽一、轟秀和) ステンレス鋼、Fe-Ni系合金、Ni基合金等の特殊鋼に要求される清浄性は、鋼種や用途によって様々である。ステンレス鋼では、100μm程の介在物が問題となる場合が多いが、シャドウマスク用Fe-36%Ni合金では、10μm程の介在物がエッチング時の孔形状不良の原因となる場合がある。また、耐食性に対しては、Ca、Mg系介在物が影響を与える場合もある。このように、従来から実施されてきた介在物量低減の他、組成制御による無害化の必要性が高まっており、産学で鋭意取組んでいる。また、介在物の評価、分析等の課題についても述べるとともに、機械的性質の向上や凝固組織制御の目的で、介在物を積極的に利用する事例についても解説する。 |