第55回白石記念講座「鉄鋼の飛躍をリードする評価・分析技術の最前線」
[講演概要] 1)超微量分析技術の最前線 (千葉大・小熊幸一) 近年、従来の純鉄とは異なる高純度の電解鉄が生産されるようになり、これを用いた新特性の合金が作られている。このような高純度鉄の研究開発には、微量不純物元素の正確な測定が要求される。さらに、スクラップ利用製錬技術の確立の上でも鋼中不純物元素の管理が重要課題になってきている。一方、最近の分析機器の進歩発展にはめざましいものがあり、特にICP発光分析とICP質量分析の出現により微量元素分析が格段に容易になった。また、機器分析の進歩と相まって分離濃縮技術も著しい進展を遂げている。本講演では、鉄鋼を対象とした微量元素分析の現状を紹介し、将来を展望する。2)鉄鋼工程分析技術の最前線 (東北大・我妻和明) 鉄鋼産業においては、生産鋼材の品質管理・保証のためオンサイト運用ができる迅速分析法を必要としている。現行法としてはスパーク放電発光法が広範に使用されており、製鋼プロセスを支える基盤として、戦後の鉄鋼産業の隆盛に貢献してきた。しかしながら、最近の精錬技術の進歩に伴い、より高度な分析技術開発への期待が高まっている。本講では、発光分光を中心とする現行分析法の概要、迅速・高精度化に向けた最近の取り組み、及びレーザ誘起プラズマ発光法等の新しい励起源開発の現状について解説する。3)鉄鋼製造プロセスにおける化学構造・反応解析の最前線 (新日鐵・齋藤公児) 鉄鋼製造プロセスは、多くの天然資源を利用し高温反応を伴う非常に重要で且つ興味深い工程であるが、従来の評価・分析技術は主に製鋼工程のみに適用されてきた。最近、利用資源の多様化やプロセスの効率化が進んでおり、そういった観点から新たな評価・分析技術の開発と実用プロセスへの展開が望まれてきている。そこで、最近我々が開発してきた当該分野にとって新しい化学構造・反応解析手段であるNMR(核磁気共鳴)、高温IR、ガスモニタリング法を紹介し、当該分野への実際の応用例を解説しながら、今後の展開を議論したい。 4)鋼中介在物・析出物分析技術の最前線 (JFE・千野淳) 鋼中に存在する介在物・析出物が鋼の特性に与える影響は極めて大きく、鋼の清浄性向上や材質向上のためにこれら介在物・析出物の析出挙動を制御する研究が現在も数多く実施されている。そのため、これら介在物・析出物を高精度で分析する技術も極めて重要であり、古くから研究が実施されてきた。本講座では、上記のような背景を踏まえ、1990年以降に開発された介在物・析出物手法を整理して概説すると同時に、製造プロセス・材料開発サイドからの分析技術に対するニーズも合わせて整理することで今後の介在物・析出物分析の技術開発の進むべき方向を提示する。5)表面解析技術の最前線 (住金テクノ・薄木智亮) 材料の表面物性、たとえば、耐食性や接着性などの支配要因を元素の組成、分布、結合状態の観点で解析する手法として、電子線マイクロアナライザー(EPMA)やX線光電子分光(XPS)、オージェ電子分光(AES)、二次イオン質量分析(SIMS、TOF-SIMS)などの表面解析技術が、ここ30年来、さかんに用いられてきた。これら装置も、より微小部、より表面層を、より高分解能で解析できるように発展してきている。本講演では、これら手法の現状を概括するとともに、鉄鋼・金属材料への応用例について述べる。 6)材料微細構造解析技術の最前線 (東北大・進藤大輔) 最近ハード・ソフト面で著しい進展を遂げている透過電子顕微鏡を用いた材料の微細構造解析技術について紹介する。まず、最新の透過電子顕微鏡の性能について述べるとともに、高分解能電子顕微鏡法や分析電子顕微鏡法の基礎と応用について概説する。分析電子顕微鏡法、特に電子エネルギー損失分光法では、オメガ型のエネルギーフィルターを用いた定量的な電子回折法に加え、元素マッピング技法について述べ、鋼中の析出物の評価への応用について解説する。また、最近注目を集めている電子線ホログラフィーの原理とそれによる電場や磁場の評価についても触れ、最後にその鉄鋼関連材料への応用について紹介する。7)環境分析技術の最前線(仮題) (コベルコ科研・今北毅) 環境有害物質の分析はダイオキシン類に代表されるように極微量濃度の測定がますます重要となってきている。排水および排ガス中のダイオキシン類の分析法は1999年にJISに定められたが、近年は、バイオアッセイによる簡便で迅速な分析法の開発、あるいはクリーンアップ等の前処理自動化による安価な分析法が検討されている。これら分析法の研究事例を紹介するとともに、新規化学物質としての臭素系難燃剤、PCB、PCB-OH体等の有害有機物極微量分析技術、新分析技術として活用されつつあるLC-MS法等の研究動向を紹介する。 |