第53回白石記念講座 「鉄鋼材料の進歩を支えるナノテクノロジー」
[講演概要] 1)ナノマテリアル研究の最前線:新規ナノチューブの合成と物性 (物材機構・板東義雄) ナノテクノロジーは新産業を創出する革新的な基盤技術として、今世界的な関心が寄せられている。特にカーボンナノチューブは電子源や水素貯蔵素子などとして次世代の情報通信や環境・エネルギーなどの重点分野を支える基盤材料として注目されている。われわれはカーボンナノチューブを利用して、「ナノ温度計」を開発した。カーボンナノチューブの中に金属ガリウムを注入し、液体となったガリウムの温度変化による体積膨張の差を利用して測定するものである。これまで困難とされた、ナノ電子回路などの微小空間での温度測定、しかも、1000℃までの測定が可能であり、幅広い分野での応用が期待されている。本講座ではナノ温度計をはじめ、BNナノチューブなどナノテクノロジーの魅力的な世界を解説したい。2)金属材料のナノ組織解析 (物材機構・宝野和博) 微細組織制御は金属材料に強度や機能特性を与えるために古くから利用されてきたが、近年微細組織をナノスケール化することにより、従来のマクロ組織からは得られなかったような優れた磁気特性や力学特性が得られることが見いだされている。ナノ組織を利用した新しい材料を開発するためには、組織と特性を関連づけて、プロセス条件が組織に及ぼす影響、組織が特性を支配するメカニズムを解明する必要があり、そのためにはナノ組織を定量的に解析する必要がある。本講演ではナノ組織金属材料を3次元アトムプローブを用いて定量的に解析し、ナノ組織形成メカニズムを解明することによって磁気特性や力学特性を改善するための指針を確立した例を紹介する。3)ナノレベルプロセス解析 (日立サイエンスシステムズ・上野武夫) 透過電子顕微鏡(TEM)や走査透過電子顕微鏡(STEM)はナノレベルの構造解析に不可欠な装置である。TEMやSTEMの観察には薄膜試料の作製が必要であるが、最近、この目的にピンポイント加工が可能な集束イオンビーム(FIB)加工法が多く用いられるようになった。また、FIB加工により材料から直接観察試料を摘出する方法、試料を回転しながら観察する三次元構造解析法、ナノテク材料の構造の微細化に合わせた高位置精度薄膜試料作製法など、加工、観察技術には多くの進歩が見られる。今回はFIB-STEMシステムとその周辺機器を用いた最新の解析技術とそのナノレベル構造解析への応用について述べる。4)鉄鋼材料のナノ-メゾ-マクロ多階層強度解析 (物材機構・松岡三郎) 鉄鋼材料において最も重要な強度特性をナノレベルで測定できる手法として、現状では超微小硬さ試験機しかない。この超微小硬さ試験機を用いたナノレベル力学特性測定技術に原子間力顕微鏡を用いたナノレベル組織解析技術を組み合わせることにより、鉄鋼材料における強度特性と組織パラメータの階層構造をナノ-メゾ-マクロ領域に渡って評価できるようになってきた。その結果、鉄鋼材料の新しい強度発現メカニズムを描くことができるようになってきたことに加え、遅れ破壊や疲労に強い高強度マルテンサイト鋼のような超鉄鋼の創製指針を見出すことが可能になってきたことを報告する。5)強加工によるナノ結晶鉄鋼材料の開発 (豊橋技科大・梅本実) 鉄鋼材料においては結晶粒の微細化は長年のテーマであり、スーパーメタルや超鉄鋼のプロジェクトにおいても1μmを目標に研究が行われた。その後もECAPや重ね圧延などを使って0.2μm程度までの微細化の研究が行われている。ここでは更に先の0.1μm以下のナノ結晶を対象とした微細化を取り上げる。鉄鋼材料にショットピーニングなどの方法で強加工を施すと、材料の組織や組成によらず表面にナノ結晶組織を作ることができる。このような強加工方法を利用すれば構造材料でもナノ結晶化による特性の向上が期待できる。講演ではナノ結晶を作り出す加工方法、ナノ結晶の特徴、期待される応用分野などについて説明する。 |