活躍する女性研究者・技術者-16 「働く理由について」
小林由起子 Yukiko Kobayashi 新日本製鐵(株) 技術開発本部 先端技術研究所 解析科学研究部 主任研究員 鉄鋼メーカーに入社してから7年間、研究業務に従事しています。顕微鏡等を用いた材料組織解析を通して、鉄鋼材料の組織形成機構、特性発現機構の解明を目指して取り組んできました。入社する前には、大学で鉄基形状記憶合金の高強度化とその機構について研究しました。この研究を通して、材料の組織と特性とが深く関わることに興味を持ち、会社でもその関係を結びつける研究がしたいとの希望が叶った形になっています。対象とする材料は鉄鋼材料全般になり、その組織の多様さという魅力を存分に味わえる機会をいただいています。何故材料組織が変化するのか?特性はどこから生まれるのか?という答えを見つけるのは難しいですが、そのために一つずつ、その複雑難解な材料組織について調べる実験をし、こういうことなのでは?と少しずつわかってきたというプロセスが私には面白いです。このような研究に一貫して関わってくることができ、幸せに思います。一方でまだ勉強不足(=努力不足)のためになかなか力をつけられずにいます。しかし、何もしなければどんどん自分に甘くなってしまう性質なので、できるかどうかはわからないけれども自分を律するためにまず身を投じ、しぶとくしがみついているような状態です。それでも、少しずつ努力して前に進み、少しでも世の中の役に立てれば嬉しいと思っています。 さて私にとって働くことはまず、人格形成の意味を持っています。自分一人ではどうしても今までの考え方しか気付かないところを、仕事を通して様々な人と接すると、今までの自分とは異なる行動や考え方に触れることができます。人の考えをどう理解して受け入れるか、また自分をどのように表現したら理解してもらえるかを悩むことで人格が形成されていくように感じています。しかしなかなか自ら外に出てその機会を見つけてというのが苦手なので、仕事はとてもいい機会として利用させてもらっている面は大きいです。確かに大変な思いをすることもありますが、それも含めて人生の大切な一部になっています。 また家族のためと思って働いている面もあります。実際のところは人生何が起こるか分からず、誰でもその人の意志に反して働けなくなることはあると自分自身の体験からも感じてきました。そこで働ける今はとても有り難いことであり折角の機会なので働いておきたいし、また家族に何かが起きたときにもすぐ対応できるようにしておきたいという感覚を持っています。個々人が一プレイヤーとして役に立てればいいと思います。 一方で我が家庭での現実の専らの課題は、如何に早く帰宅して生活を安定化させるかになっています。結婚して2年半ほど共働きを続けてきましたが、家事と仕事との両立には二人してそれなりに大変さを感じています。私は母親がほとんどの期間専業主婦の家庭で育ったので、共働き家庭を近くで見ていたこともなく、その大変さを甘く見ているかもしれません。現在はまだ夫と私の二人暮しで、育児も家族の介護もないので、家の仕事の本当の大変さを知らないはずなのに、既にあまり余裕はないので、もっと工夫していかなくてはと思います。とりあえずは家事を全部一人でやろうとしても(そもそもしようと思いませんが)私の場合は到底無理なので、半分ずつ負担しています。いろいろ矛盾しているかもしれませんが、家族のためと思って働いても、逆に負担を掛け過ぎたり、押しつけられた方はたまらないとなってしまったりでは、本意ではありません。結局何が家族のためになるだろうか?と考えると、自分が元気でいることは少なくともためになると言って良いでしょうか。解決に至りませんが、家族としてのちょうど良い領域は、家族構成、各家族や各人の考えで変わるものと思いますので、これからも日々会話していくことが重要と感じています。 個々人の働き方としては、結局は効率とバランスが大事と思いますが、これに関しては私には課題が山積していますので、諸先輩方を目標に少しずつ改善していければと思います。とても大変なことだと思いますが、実践していらっしゃる方を何人も知っています。私にはまだまだ改善代はたくさんあると思いますので、生活の充実をモチベーションにして頑張っていきたいと思います。 話は変わりますが、採用活動に参加させていただき興味深く思うことがあります。学生方と接すると、興味の方向や大きさに男女差を感じることはありません。ただ女子学生には、自分はちゃんと働いていけるだろうか?実際のところ会社に入って大丈夫だろうか?と聞かれることが多いように思います。これは単に自信がないのではなく、生活も重視しつつ自分が働く将来像を現実のものとしてしっかり想い描いていることの現れではと思うので、採用する側にはその目でも見て欲しいです。その現実主義に個人的には共感することが多いです。 私自身は少し背伸びして社会に身を投じてみて、結果的に人生に楽しみを見出せているので、良かったと思っています。受け入れてくださっている方々に感謝し、関わりの中で恩返ししたり影響を与えたりしていければ嬉しいです。 写真1 講演大会にて (2011年11月30日受付) 「ふぇらむvol.17 No.3掲載」 |