活躍する女性研究者・技術者-4 「男女共同参画活動元年に際して」
山下孝子 Takako Yamashita JFEスチール(株) スチール研究所 主任研究員 ご存知ない会員の方も多いかもしれないが、日本鉄鋼協会では、2006年1月に男女共同参画委員会準備会をスタートさせた。これは、各学協会単位で積極的に活動されている男女共同参画推進活動について、鉄鋼協会としてどのように取り組むべきかを検討する会である。筆者は、日本金属学会の同委員会の委員であり、金属学会の活動の目玉が、学会開催時における託児室の設置であったため、同一場所で学会を開催している両学協会の橋渡しになるべきとの思いで、鉄鋼協会の準備会委員就任も承諾した。 ここで、昨年、準備会として活動してきたことを少し紹介したい。 準備会と言っても、何をすべきか検討する会なので、まずは、世の中の動き、特に「男女共同参画学協会連絡会」の活動内容把握と理解を行い、会員の意見を収集するために、託児所設置に関するアンケート調査と、2006年3月の講演大会(早稲田大学)で“女性技術者・研究者の集い”を実施した。この集いには、大学・国研から7名、企業から15名の参加があり、各人が体験した様々なケースが報告された。筆者は、入社は旧川崎製鐵(株)であり、女性の採用については1973年から実績のある会社であったため、ロールモデルも身近にあり、仕事を続けることには抵抗がなかった。しかし、旧川鉄は、女性の配属先は研究所かシステム部門に限定されていたが、男女雇用機会均等法以降に採用を開始した会社では製鉄所採用などもあり、まさに、雇う側も初めての経験であるため暗中模索で採用に対応しているケースもある事を知り、驚いた。 また、2006年9月の講演大会では(新潟大学)、金属学会との共同シンポジウム「男女共同参画活動の取り組み~魅力ある職場作り~」を開催した。さらに、金属学会で2005年広島大会より設置されている託児室を共同開催した。 (詳しくは「ふぇらむ」Vol.12 No.2(2007)101ページを参照。) 余談ではあるが、託児室は必要のない方にはご理解されないかもしれないが、筆者は昔、苦い経験をしたことがある。学会への出張は比較的長期であり、親へ子供を預けるのも体力的に親への負担が大きい。ということで、もう、15年以上前になるが、北海道大学での講演大会に長男を連れて行ったことがある。出張といえども子連れであるので、会社は年休扱いにしてもらって、自分の発表の時は主人(同じく学会に参加)に子守りをしてもらっての参加だった。もちろん、他の発表を聞きたくとも聴講はできない。主人との子守りの交代待ちをしながら、北大のキャンパスで子供と馬を見ていたのを鮮明に覚えている。託児室設置は 1回の予算にして数万円のことであるが、託児室があるのとないのとでは雲泥の差がある。この件がよくない思い出になったのは、後で、当時の部長には学会に子供を連れて行ったことが理解されず、問題視された。2005年の託児室設置で、ふと思い出した些細な出来事であるが、今は学会で託児室が設置され、子供を預けることには問題がなくなったはずである。子供を連れて歩くのは非常に大変なことではあるが、安心して学会に参加できることを思えば、こんなにありがたいことはない。 以上のような活動を経て、準備会は、この春、金属学会との合同委員会として再スタートする。とりあえず、“託児室運営”が課題であり、シンポジウムなど学会会期中における啓蒙活動は、金属学会と合同で行っていく予定である。それ以外に何を行うかは、金属学会・鉄鋼協会とも今後の課題であろう。 ところで、準備会の活動の中で問題が大きいと認識されたのは、男女比率格差である。鉄鋼協会における女性会員数は全体の1.5%弱であり、学協会連絡会に参加している団体の中でも最下位に近い。大学の材料系学科の女子学生数は年々上昇しているので、やはり、企業の女性の採用数が限られるためと考えざるを得ない。 今や、終身雇用制度は崩れかけているので、いつまで勤めるかは男も女もない。女性が仕事をする上でのネックは、1つは力仕事であり、2つ目は産休・育児休暇を含めての、およそ10年近いペースダウンであろう。力仕事は頭脳労働でカバー、ペースダウンは男性も分かち合って、というのが男女共同参画の主旨である。2006年秋のシンポジウムで、今後、女性を積極的に採用しようとしているとおっしゃっていた鉄鋼会社の人事担当者がおられた。女性採用で業界全体が少しでも活性化されればと思う。男女問わず、優秀な人材が集まって欲しい。 最後になるが、昨年、筆者は中国で開催された日中合同合金状態図シンポジウムに参加した。中国国内の全国相図会議も同時開催されたため、中国全土から合金状態図の研究者が集まってきたが、参加者の半分が女性であった。中国の女性は非常に若く見えるため、シンポジウム会場で隣に座った中国人を小学生と間違えてドキッとしたり(大学生だったが、パンダの髪飾りをつけていた)、非常に新鮮であった。日本も早く女性が働くことがあたりまえな社会になってほしい。 今後の男女共同参画活動も、1.5%の少ない対象者のために何をするか? ではなく、優秀な人材確保のために、女性でも魅力だと感じる鉄鋼協会・鉄鋼業界を模索する場だと認識するのもいいのではないかと思う。話題のTBSドラマ「華麗なる一族」で、キムタク演じる鉄鋼マンがかっこいいと思ってこの業界に入る若者が多くなることを期待しつつ……。 2006年秋季新潟大会で開催された男女共同参画共同シンポジウム風景 (筆者 撮影) 学会会期中における託児室風景(2005年秋季広島大会) 写真御提供:日本金属学会男女共同参画委員会 (2007年2月19日受付) 「ふぇらむvol.12 No.6掲載」 |