活躍する女性研究者・技術者-7 「多くの人に支えられて」
高橋 有紀子 Yukiko Takahashi 独立行政法人 物質・材料研究機構 磁性材料センター さきがけ-JST 主任研究員 多くの人に支えられて研究と育児を両立できている、というのが今の私の率直な気持ちです。望めばどうにか両立できることを少しでも多くの方に知って欲し いという気持ちから筆をとりました。 私は現在、物質・材料研究機構(のち物材機構)で磁気デバイス用磁性薄膜の微細構造と磁気特性の相関についての研究をしています。磁気デバイスに用いら れる磁気特性は、多くの場合、微細構造に依存して変化する構造敏感量です。高い磁気特性を得るためには、微細構造を制御する必要があります。微細構造と磁 気特性の相関を検討し、その知見をプロセスへフィードバックすることにより微細構造を制御し、さらに高い特性を得るという研究を行っています。研究対象と しているのはデバイスに使われるような磁性薄膜で、次世代の磁気記録媒体として期待されているFePt、更なる高特性化が求められているNd2Fe14B 永久磁石、ハーフメタルとしてスピントロニクス分野で注目されているCo基ホイスラー合金などです。これらの磁性薄膜をスパッタ法で作製し、その微細構造 をTEMで観察し、その結果と磁気特性を比較し高い特性を得るにはどうしたらよいかということを検討するといったことを毎日やっています。うまい具合に行 かないことのほうが多いのですが、プロセスを制御して狙い通りの微細構造が得られ、高い磁気特性が得られた時はとても達成感があります。 6年前に大学の博士課程を修了して、物材機構でポスドクとして研究を続ける機会を得ました。そこで目の当たりにしたのは、研究と育児を両立させてがん ばっている女性研究者の姿でした。大学を卒業したばかりの私には、彼女達の生活はとても衝撃的でした。しかし将来自分が体験することになるであろうことが 想像できたのは時期的にはよかったのかもしれません。時間の制約なしに自由に実験できるのは今だけという思いから、時間の使い方が学生のころとはずいぶん 変わり、子供ができるまでの間納得のいく時間の使い方ができたと思っています。 2006年2月に第1子を出産して、産休を頂いた後に仕事に復帰しました。ちょうど私が出産するくらいの時期に物材機構が女性研究者の支援を本格的に始 めており、現在もこの支援に助けられて研究を続けています。この支援の影にはこれまでの多くの女性研究者達の地道な活動があることを思うと、支援制度を大 いに活用して研究を進める姿が後に続く女性研究者にとってロールモデルの一例になればと思っています。 さて私の日常ですが、朝起きてから夜寝るまでそれこそ時間に追い立てられるような生活の毎日です。忙しい毎日ですが、何とか研究を続けられているのは、 一緒に研究をしている研究者、ポスドク、学生の協力のおかげです。多くの研究者が夜遅くまで研究をしているのですが、実験や打ち合わせなどを昼間にずらし て頂いたり、装置のトラブルに対応して頂いたりととても助けられています。また家庭では、夫が保育園に子供を迎えに行き夕食・お風呂を済ませてくれる等の 協力があります。このような多くの人の支えによって、少しずつではありますが自分の研究を進められることに感謝しています。また、第2子出産にも踏み切れ ました。本稿が掲載されるころには新しい生命を抱いていることでしょう。 これから数年は研究と育児に忙しい毎日を送ることになるのですが、私が今できることは後輩の女性研究者にエールを送ることだと思っています。確かに仕事 と育児の両立は時間的・体力的にとても大変です。しかし、今は人の意識の変化、制度の充実によって、望めば両立が可能な時代です。臆することなく、両方を 選んでほしいと思います。最後に、育児に積極的に協力してくれる夫、小さい子供がいるということを理解してくれる物材機構と職場の研究者達に感謝いたしま す。 (2007年8月31日受付) 「ふぇらむvol.13 No.2掲載」 |