評価・分析・解析部会
広報 -2022-
2022.12.27 第184回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第184回秋季講演大会学生ポスター発表(2022年9月22日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-64 | 佐藤昂平 | 東京都市大学 | Fe-Ga単結晶合金の磁歪量磁場印加方向依存性を利用した3次元的な初期磁区構造の決定 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・佐藤昂平様(東京都市大学 修士2年)
日本鉄鋼協会第184回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「Fe-Ga単結晶合金の磁歪量磁場印可方向依存性を利用した3次元的な初期磁区構造の決定」という題目で発表を行い、優秀賞をいただいた。
Fe-Ga単結晶合金は、磁場を印可することで純鉄よりも一桁大きい約200 ppmのひずみが生じる磁歪材料として知られている。ここで磁歪とは、磁性体に磁場を印可することで生じるひずみのことを指す。これに対し、磁歪材料に力学的負荷を加え、外形を歪ませることで周囲の磁気的性質が変化する逆磁歪という効果がある。近年、この逆磁歪効果を応用した振動発電技術に注目が集まっている。この技術は身の回りに存在するわずかな振動から無線送信可能な電力を高効率に発電できるため、革新的なエネルギーハーベスティング技術としてIoTの電力源に応用が期待されている。発電のカギを握るのが「磁歪特性」であり、振動発電デバイス量産化を見据えて特性の安定化と再現性が求められる。
我々は磁歪特性の安定化と再現性を確認する第一歩として、製造プロセスの違いや単結晶インゴットからの試料切り出し位置の違いが磁歪特性にもたらす影響について評価した。その結果、同じ組成、結晶構造をもつ試料においても、発現する特性に大きな差異がある事が明らかになった。これはFe-Ga単結晶合金を商業化する上で重大な課題である。そこで、この原因を磁歪の理論に基づき考察した。
評価方法については、磁歪の古典式を現象論に基づき改良していき、実現象を表現可能な理論式を再構築した。この理論式を用いて実験で得られたひずみデータを最適化分析することで磁歪特性の重要因子である「初期磁区構造」を決定した。また、こうしたことを詰めていくことで、磁歪特性に影響を及ぼす磁弾性パラメータを変化させた際の3次元的な磁歪予測まで可能となった。これらを基に材料設計を行うことで、材料のポテンシャルを最大限活かした特性発現に繋がると言える。
ポスターを作成する際は図を多用し、視覚的にわかりやすくなるように意識した。また単に結果を発表するだけでなく、その結果に至った過程を段階的に説明することで、研究に対するアプローチが伝わるように努めた。また、少しでも興味を持っていいただけるように、持参したPCを用いて動きのある3D磁歪シミュレーションを補足説明した。
本発表で優秀賞をいただけたのは、研究室メンバーからの率直なアドバイスや指導教員である今福宗行教授の温かいご指導をいただけたおかげである。心から感謝を申し上げると共に、今回の経験を糧に今後も研究活動に邁進していく所存である。
2022.7.14 第183回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第183回春季講演大会学生ポスター発表(2022年3月16日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが努力賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-70 | 松野明未 | 千葉大学 | ⽔素添加 in situ 陽電⼦寿命測定によるα鉄の⽔素誘起⽋陥 |
PS-71 | 宮原知也 | 大阪市立大学 | X線用CCDカメラを用いた層構造試料の深さ方向元素分析 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・松野明未様(千葉大学 修士1年)
日本鉄鋼協会第183回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「水素添加 in situ 陽電子寿命測定によるα鉄の水素誘起欠陥」という題目で発表を行い、努力賞をいただいた。
α鉄において低温昇温脱離分析による空孔帰属の報告がされているが、欠陥種の直接的な実証には至っていない。直接的欠陥分析手法として陽電子寿命測定があり、クラスター形成の促進が報告されているが、その結果は昇温脱離分析による結果と一致せず、力学特性との相関も得られていない。水素脆化支配欠陥は不安定であり、その実態を反映した測定法の必要性が示唆されている。そこで、生成欠陥を凍結し温度可変陽電子寿命測定したところ、単空孔・複空孔レベルの欠陥が生成していることが報告されている。
そこで本研究では、より水素脆化支配欠陥の実態を観察するために室温で水素添加 in situ 陽電子寿命測定法を開発し、適用することで、水素感受性が異なるα鉄試料間の欠陥挙動を比較した。水素感受性が低い高速延伸材では、水素添加測定と大気測定の結果に変化はなく空孔クラスター成分が検出された。この結果は、従来の報告と同様で水素添加しながら延伸することで空孔クラスターが形成されている。一方、水素感受性が高い低速延伸材では水素添加測定において空孔クラスター成分が検出されず、転位成分と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分を確認した。その後、水素添加を停止して大気測定すると3時間後から空孔クラスター成分が検出され始め、10時間後まで空孔クラスターが成長した。これは単・複空孔は室温では不安定であるが、水素と結合することで安定化しており、水素の脱離に伴い単空孔が不安定になり拡散・凝集したことで空孔クラスターに成長したと考察した。一方、高速延伸材では転位移動が速く、水素の結合前に空孔が拡散・凝集するため空孔クラスターとして安定化すると考察した。水素添加 in situ 陽電子寿命測定により、初めて水素感受性が高い低速延伸材のみで空孔と水素が結合した複合体の形成を検出した。
今回の発表においては、陽電子を用いた新規測定方法とその結果についてオンラインでも伝わりやすい説明をすることに努めた。今回このような賞をいただけたのも、藤浪真紀教授をはじめ指導教員の先生方や共同研究者の方々からの温かいご指導をいただけたおかげであると思う。心から感謝申し上げると共に、今回の経験を活かし今後とも研究に邁進してゆきたい所存である。
・宮原知也様(大阪市立大学 学士4年)
日本鉄鋼協会第183回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて、「X線用CCDカメラを用いた層構造試料の深さ方向分析」という題目で発表した。
蛍光X線イメージング法は、測定試料中の元素分布を非破壊的に取得することができる。これを用いることで、試料中の化学反応挙動の追跡や鉄鋼試料の非破壊的な分析が可能である。近年、シングルフォトンカウンティング解析を利用したエネルギー分散型の蛍光X線イメージング法の開発がされている。シングルフォトンカウンティング解析とは、X線を遮蔽できるシャッターなどを用いることで、一フレーム中にCCDカメラの一素子に入るX線光子数を一光子以下に制御することで、CCDカメラを用いた蛍光X線イメージング法にエネルギー分解能を付与する手法である。この手法により短時間での多元素同時イメージングを実現できる。これは、試料の表面近傍の平面に対する元素イメージングに利用されているが、深さ方向分析への適用例はない。
本研究では、X線用CCDカメラを利用した全視野型蛍光X線分析法 (二次元の蛍光X線イメージング法) を層構造試料に対しての深さ方向分析に利用できると考え、シート状のX線ビームと直線型ポリキャピラリーを用いることで深さ方向の元素イメージングを試みた。層構造試料を亜鉛基板上にポリイミド膜と銅薄膜とチタン薄膜を接着することで作製し、実際に測定を行い、深さ方向の元素イメージング像を取得した。元素イメージング像を解析することで、実際に深さ方向に対しての元素分布を確認することができた。また、一次X線の入射角度と蛍光X線の出射角度を調整することによって深さ方向の測定領域と深さ方向の空間分解能を調整可能であることを確認した。二次元検出器を利用した深さ方向元素分析は、各測定点おける元素分布が取得できるためX線反射率法では不可能である深さ方向の局所的な分析が可能であることが利点として挙げられる。
本学会はオンラインでのポスター発表であったが、発表中は拡大表示しながら説明することができたため、説明している部分を明確にすることができた。また、質疑応答では多くの研究者の方に研究に関する質問や助言をいただき、今後の研究活動を行う上で、有意義な時間を過ごすことができた。
最後に、本研究を進めるにあたり日頃よりご指導いただいている辻 幸一教授に心から感謝申し上げます。