評価・分析・解析部会
広報 -2021-
2021.11.30 研究室紹介
徳島大学 理工学部理工学科 応用理数コース
環境物理化学研究室 (山本孝)
本学理工学部は工学部,教育学部と教養部を源流とする総合科学部の組織改編により2016年に設置された1学科の学部であり、理学系1コースと工学系5コースから構成されています。理学系である応用理数コースは数理科学系と自然科学系に分かれ、筆者はその自然科学系化学分野に所属しています。本キャンパスはJR徳島駅から徒歩20分程度、徳島空港からのリムジンバスや関西・四国各地発着の高速バスが停車する大変立地の良い場所に位置し、総合科学部(現在は文系のみ)、組織改編の際に設立された理工学部および生物資源学部があります。当地は四国三郎の名を持つ吉野川河口域の中州上にあることから周辺には支流が運河のように幾本も流れています。これらの水位は潮汐により1m近く変動し、大学横でも時にクラゲが漂い、エイを見かけることもあります。本キャンパスと徳島駅との間には明治維新まで300年徳島を治めた徳島藩蜂須賀家の居城跡が公園として整備されており、歴代藩主の墓所も徒歩圏内にあります。コロナ禍によりこの二年間は開催が制限されていますが、初夏の夕刻になれば阿波踊りの練習の音があちらこちらで響いています。
当研究室は徳島大学常三島キャンパスにある准教授1名、修士課程1名、学部4年生1名の小所帯であり、10月から学部3年生2名が加わっています。2009年4月に着任以降、以下の「1: 複合酸化物、多孔質、酸塩基触媒の開発および構造解析」、「2: X線吸収分光法に関する基礎研究および応用」、「3: 小型分光分析装置の応用」に関する研究を行っています。
1:複合酸化物、多孔質,酸塩基触媒の開発および構造解析
多元系複合酸化物では構成元素の単独酸化物と異なる物性を示すことが多く、触媒材料においても組成、作成条件、結晶相、使用前の処理条件等がその性能に対して著しく影響することが知られています。その中で酸化ジルコニウムはその表面上に酸性と塩基性の相反する性質を示すサイトが共存することによる酸塩基が協奏的に作用する特異な触媒特性を示し、複合化による多機能化が顕著な材料として多くの系で実用化されています。私たちはジルコニウムを中心とした前周期遷移金属と異種元素を組み合わせた多元系酸化物触媒について状態図を活用した触媒設計を行い、バルクおよび原子レベル局所構造、酸塩基性、組み合わせにより生じる100%硫酸に匹敵する強い酸性質に着目した検討を行っています。また温度変化に伴い数十kVもの電圧が発生することがある焦電結晶を用い、その焦電特性の分子活性化および物質転換反応への活用を目指した基礎研究を行っています。
2:X線吸収分光法に関する基礎研究および応用
X線吸収分光法(XANES/EXAFS)は元素選択的な局所構造、化学状態評価手法であり、長周期構造を必要とせず、試料形態および測定環境の自由度が大きく、時にppmレベルの低濃度でも評価可能である実用性の高い分光分析手法です。XAFS実験はシンクロトロン放射光の強力なX線を利用して行われることが一般的です。高強度・高輝度をそれほど必要としない系では実験室系装置でも遜色ない結果を得ることが可能であり、現在私たちは主に徳島大学に2010年度に設置された装置を用い、触媒材料および環境試料の分析を行っています。またXANESスペクトル形状、とくにK端およびL1端XANESに観察されるプリエッジピーク、見かけ上および真の化学シフトを包括する規則、未知試料の酸化数評価に適用するための簡便かつ任意性の低い解析手法の開発に関する研究も行っています。
3:小型分光分析装置の応用 近年開発された液体電極プラズマ発光分光法(LEP-AES)に基づく市販のハンディ元素分析装置は供給ガス不要、交流電源に接続することなく100 μl以下の試料溶液量で分析可能であることが利点の一つです。私たちはオンサイト分析を行うための装置特性の把握、分析条件の検討および環境試料分析を試みており、水素原子発光線を内部標準として利用すると分析精度が向上すること、銅廃鉱山坑排水中堆積物からの酸抽出液の分析では標準添加法で定量することにより原子吸光法での分析値と良好な一致を得ることを確認しています。また高校生対象の体験講座として、市販飲料の発光スペクトル測定およびミネラル成分の分析にも利用しています。
私は2006年10月に京都大学工学研究科材料工学専攻河合潤教授が主宰する研究室に助手として採用いただき、X線分析、ポータブル分析、帯電によるX線発生を学ぶとともに鉄鋼協会に入会、関西分析研究会にも参加いたしました。四半世紀さかのぼる卒業研究では鉄鋼スラグを有効利用するための基礎物性調査研究の一環としてカルシウム鉄複合酸化物の生成エンタルピーを実測するテーマをいただき、溶融塩に対する溶解エンタルピー測定を大型のTian-Calvet型熱量計にて試みました。先生のご退官が翌年に控えておりましたので大学院は評価手法の一つとしてX線吸収分光法を利用する固体触媒の研究室に進学し、多くの恩師、皆様、学生にご指導、助けていただき現在に至っております。最後に、卒業研究をご指導いただいた北海道大学名誉教授横川敏雄先生が令和3年2月に89歳でご逝去されました。温かく見守り、お導きいただきましたことに感謝申し上げますとともに、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
2021.11.30 第182回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第182回秋季講演大会学生ポスター発表(2021年9月3日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞および努力賞を受賞されました。おめでとうございます。また受賞者の方からの声を掲載しております。
優秀賞
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-37 | 有馬勇太 | 徳島大学 | LS-DP-LIBSを用いた鉄鋼中の複数元素の計測特性評価 |
PS-42 | 関根大海 | 東京都市大学 | ニューラルネットワークを用いた炭素鋼の鋼種識別における解析パラメータの影響 |
PS-46 | 花木愛子 | 大阪大学 | 転炉スラグを原料とした機能性材料変換プロセスの開発とCO2吸着への応用 |
努力賞
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-38 | 鎌田康平 | 東京都市大学 | 残留応力のインバース解析のためのX線応力シミュレータの開発 |
PS-43 | 勅使河原広貴 | 千葉大学 | 陽電子消滅法による純Ni中の水素誘起欠陥と水素脆化 |
PS-44 | 徳久朝佳 | 九州大学 | V添加非調質鋼におけるナノ析出物の微構造解析 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・有馬勇太様(徳島大学 修士2年)
日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「LS-DP-LIBSを用いた鉄鋼中の複数元素の計測特性評価」という題目で発表した。
近年、様々な産業プロセスにおいて物質の元素組成をリアルタイム計測可能な技術の開発が必要とされている。製鉄・製鋼のプロセスでは、限られた時間の中で化学成分を制御する精度の向上は、高品質の鋼材を大量生産する上で極めて重要である。計測を求められる元素はC、 Si、 Mn、 P、 S、 Cu、 Ni、 Cr、 Al、 Mo、 Ti、 Nb、 Bなどがある。しかし、未だ鉄鋼材料や高温材料における短時間計測技術、リアルタイムでの溶融金属の組成を計測する技術は実用化されていない。そこで、高感度でリアルタイム計測を可能にする LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)が注目されている。本研究では、LIBSで溶融金属中の組成をリアルタイム計測する技術の実用化に向けて、高感度計測が可能であるLS-DP-LIBS(Long short double pulse LIBS)技術を用い、鉄鋼材料に含有されるCr元素・Al元素のスペクトル計測と定量評価を実施した。Cr元素は波長357.9nm、 359.5nmにて、Al元素は波長308.2nm、 309.3nmにて計測可能であることが確認できた。また、Cr元素に関しては、元素濃度が異なる5つの鉄鋼サンプルを溶融し計測・定量評価を行ったところ、R2=0.9437と良好な線形性が得られた。
本年度の発表は昨年度とは異なり、口頭での発表であった。そのため、ポスター作成時には、当日は口頭で説明できることから文字は少なく、図を多用し、視覚的に分かりやすくなるように意識した。また、事前に予想される質問を考え、回答を準備していたので本番ではスムーズに返答することができた。その際、専門家の方々からの貴重なご意見を得られ、非常に実りのある機会となった。自身の発表に関して、このような素晴らしい賞をいただくことができ、しっかり準備をして良かったと非常に嬉しく思うと同時に、今後の研究活動に対してさらに精進しようと思った。最後に日頃からご指導ご鞭撻を賜っております、出口祥啓教授をはじめ、ご尽力いただいた関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
・関根大海様(東京都市大学 学士4年)
日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「ニューラルネットワークを用いた炭素鋼の鋼種識別における解析パラメータの影響」という題目で発表した。近年、ニューラルネットワーク(NN)の開発環境が急速に整ってきており、比較的簡単にNNを利用することができるようになってきている。こういった開発環境を活用して組織画像の解析を行い、組織の特徴を抽出できれば材料開発の効率向上に繋がると考えられる。そこで、私たちの研究グループでは昨年度からNNを用いた組織解析技術の研究を行っている。
NNの中で、画像解析に強いとされているのがConvolutional NNである。モデル構造の特徴として、畳み込み層とプーリング層を有している。畳み込み層では入力画像に対して、あるサイズのフィルタにかけて出力する。プーリング層では畳み込み層で得られた特徴マップに対して、小領域に分割を行う。この時、分割する大きさがプーリングサイズである。その小領域内で輝度値の最大値を抽出する。この2つの層にはハイパーパラメータと呼ばれ、NNの設計者が任意に決める変数がある。畳み込み層ではフィルタサイズ、プーリング層ではプーリングサイズがあげられる。この2つのハイパーパラメータはNNを用いた評価結果(私の研究では鋼種の識別における正解率)に大きな影響があるため、ハイパーパラメータが正解率に及ぼす影響についての検討を行い、本ポスターセッションにて発表した。
フィルタサイズでは、平均結晶粒径に対して45%~50%の大きさの時に正解率が高くなる傾向があった。ウィンドサイズでは、サイズを大きくするほど正解率が高くなる傾向があった。また、両サイズ共に見られた傾向として対物レンズ5倍、10倍の低倍率での最高正解率は約100%であった。対して20倍、50倍の高倍率時の正解率は最高でも約90%にとどまった。
当日はオンラインでの開催ではあったが、口頭での説明ができたため、文字での記述を減らし、図などを使い短時間で内容が伝わるようにすることを意識してポスターを作成した。発表時には、様々な方から貴重な意見を伺うことができ、今後の研究の参考となった。初めての学外での発表であったが、とても有意義な時間を過ごすことができた。発表する機会をもうけて下さった日本鉄鋼協会関係者の皆様にこの場を借りお礼申し上げます。
なお、本研究は上記の通り昨年度スタートした研究を引き継ぎ発展させたものであり、研究を立ち上げ、研究の礎を築かれた石田渉先輩と共にいただいた賞である。最後に、日頃からご指導いただいている熊谷正芳准教授に心より感謝申し上げます。
・花木愛子様(大阪大学 修士2年)
日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会 学生ポスターセッションにおいて「転炉スラグを原料とした機能性材料変換プロセスの開発とCO2吸着への応用」という題目で発表した。
鉄鉱石から鉄を得る際に、還元剤としてコークスを添加することで大量のCO2が発生する。脱炭素社会実現への機運が高まっている現在、持続可能な鉄鋼産業の発展のためには「CO2回収・削減技術の開発」が求められている。また、鉄鋼製錬プロセスにおいて、鉄鉱石に石灰石・コークスを加え製錬する高炉プロセスでは高炉スラグが、銑鉄を鋼に製錬する製鋼プロセスでは製鋼スラグが副生成される。高炉スラグ・製鋼スラグは合わせて鉄鋼スラグと呼ばれており、毎年大量に副生成されている。鉄鋼スラグはそれらの含有成分から、一般的にセメントやコンクリートといった路盤材に利用されている。特に転炉スラグは高炉スラグと比較してFeO含有量が多いことや路盤材の原料として利用する際に予備処理が必要であるといった欠点を抱えている。また、環境基準の厳格化による鉄鋼スラグ処分場不足といった観点から、「廃スラグの有効利用法の開発」が求められている。
本研究では、鉄鋼産業における「CO2回収・削減」と「廃スラグの有効利用法の開発」という二つの課題を同時に解決するために、転炉スラグの再利用法の開発に取り組んだ。転炉スラグの含有成分であるシリカやカルシア成分の特性を活かし、ギ酸を用いた簡便な化学プロセスにより機能性酸化物複合体へと変換し、CO2吸着への応用を実施した。合成した試料はXRD測定より、CaO相とFe3O4相を含有することが確認された。また、窒素吸脱着測定から比表面積は約64 m2/gと見積もられ、高い比表面積を有していることが分かった。CO2吸脱着測定から、転炉スラグを用いて合成した試料は可逆的にCO2を吸脱着できることが確認された。以上の結果より、本研究は製鋼スラグの一種である転炉スラグの新しい利用法を提案するとともに、鉄鋼産業で排出されるCO2分離回収のための吸着材を提供できる可能性を見出した。
本学会はオンライン上でのポスター発表であったため、どのような予稿やポスターであれば発表を聞きたいと感じてもらえるかを意識して作成した。また、ポスターの他にも質疑応答時にスライドを活用することで、対面のときと同じような臨場感で研究成果を伝えることができた。本発表では多くの方に足を運んでいただき有益なアドバイスをいただくことができた。この場をお借りして御礼申し上げます。また、本発表で優秀賞をいただけたのは、日ごろからの研究室のメンバーからの率直なアドバイスや、指導教員の先生方からの厳しくも温かいご指導をいただけたおかげである。心から感謝を申し上げると共に、今回の経験を糧に、今後も研究活動に邁進していく所存である。
・鎌田康平様(東京都市大学 修士1年)
日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「残留応力のインバース解析のためのX線応力シミュレータの開発」という題目で発表を行い、 努力賞をいただいた。
均質等方の多結晶材料に一定波長のX線を入射するとデバイリングが観測される。デバイリングは材料が無応力状態でX線入射方向と直行する面内に真円状となり、応力負荷状態でゆがみが生じる。このデバイリングの形状変化を解析することで応力状態を明らかにすることができる。これまで、その一部を利用した 法、2D法、cos 法、フーリエ解析法が開発されてきた。近年我々は、実験的には独立して発展してきたこれらの手法間の整合性を数値解析的アプローチにより検証している。また 法、2D法、cos 法は同じ基礎方程式を用いたX線応力測定法であり、各測定法の違いは、回折ベクトルの選び方と測定値からの応力計算法のみになる。また 法、cos 法の回折ベクトルは2D法の回折ベクトルの特殊な場合であり、2D法の表現が全方向を包含することができるため、2D法の回折ベクトル表現でシミュレータを作成した。
本シミュレータはMATLABを用いて作成し、GUI(Graphical User Interface)を導入することで直接ウィンドウ内に直接「測定方法・材料データ」「応力状態」「試料回転角」を入力すれば解析結果のグラフと応力値を同一ウィンドウ上に表示できるように設計した。さらに、本シミュレータは、応力状態を設定すると、デバイリング解析、線図作成、cos、sin 線図作成とこれに基づく逆解析をワンステップで行える機能も有している。
さらに、いくつかの材料、応力状態についてのインバース解析を行い、手法間の数値的検証を行った。
ポスター発表では、前半にX線応力測定法の考え方と歴史、回折ベクトル表現法の理論的関係性についての説明を行い研究の意義を明確にした。後半にシミュレータについての説明では専門外の人にも理解できるように図表を交えてポスターを作成し発表を行った。
最後に、日頃よりご指導賜っている今福宗行教授に御礼申し上げる。
・勅使河原広貴様(千葉大学 修士2年)
日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「陽電子消滅法による純 Ni 中の水素誘起欠陥と水素脆化」という題目で発表した。
Niはα鉄やオーステナイト系ステンレス鋼と異なり、水素添加のみで水素化物形成に伴う原子空孔形成が誘起され、室温で水素脱離とともに空孔クラスターへ成長することが報告されている。また、水素による延性低下が起こる。その Ni における水素脆性において、水素・転位・原子空孔が延性低下にどのように影響を与えているのか明らかになっていない。また水素脆化に関する従来知見では、FCC構造をもつ純Niの水素脆化では粒界破壊することが知られている。粒界破壊の要因は、粒界強度の低下や粒界応力集中が考えられる。粒界応力集中では水素による空孔形成促進と局所高密度化が関係することから、その考察には空孔型欠陥の分析とその挙動が必須である。
そこで本研究では、水素脆化において粒界破壊を示す純Niにおいて、空孔型欠陥の高感度プローブである陽電子を用いて空孔クラスター形成の観察を行い、破壊形態の差を議論した。先行研究による報告通り、純Niにおいて水素添加のみで水素濃化層領域に空孔クラスターが形成されることを確認した。また水素添加後に延伸することで水素がより深い領域まで拡散し、空孔クラスター形成が促進されたことを確認した。これより転位運動にともなう水素拡散の促進を実証した。また転位運動により拡散した水素による破壊形態と延性低下への影響を調べた。結果、転位運動により拡散した水素による、粒界破壊を伴う大きな延性低下がみられた。これは水素により積層欠陥エネルギー低下が起こり、多くの転位が粒界に蓄積し局所空孔密度の上昇や水素の蓄積が起きたためと考察した。一方、水素を脱離させた試料においても数パーセント程度の延性低下がみられた。これは拡散した水素により形成された空孔クラスターによる塑性不安定性によるものと考察した。
今回の発表では、陽電子を用いた測定結果が内容の過半を占めており、この測定の性質や結果についてわかりやすく説明することに苦労した。測定方法について詳しく伝えることも大事であるが、それ以上に得られた結果からどのように考えることができるかなどをしっかりと伝えるように心がけた。発表を通じて様々な質問をいただき、今までになかった疑問が生まれたり、改めて自分の結果を捉え直す機会が多くあった。このような貴重な機会を下さった日本鉄鋼協会の関係者の皆様、そして発表を聞いてくださった多くの先生方に感謝申し上げたい。そして今回このような賞を頂けたのは、藤浪真紀教授をはじめ指導教員の先生方の丁寧なご指導をいただけたからだと思っている。このご指導を無駄にせぬよう、今回の経験を活かし日々の研究に邁進したい所存である。
・徳久朝佳様(九州大学 修士1年)
令和3年9月3日に開催された日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「V添加非調質鋼におけるナノ析出物の微構造解析」という題目で発表を行い、努力賞をいただいた。題目にある非調質鋼とは、 γ/α界面でナノ析出物が発生する相界面析出現象を利用し、調質鋼と同等の特性を可能とした鋼である。生産性の向上、コスト削減とともに高強度化が期待できることから、近年、注目が集まっている。非調質鋼は、一般に中炭素鋼にV、Nb、Tiなどを微量添加したものを基本組成としている。オーステナイト中への固溶温度はV、Nb、Tiの順に高いが、NbやTiは通常の熱間鍛造温度である1200 °Cでは十分に固溶しないので、非調質鋼には素地に固溶しやすいVが主に利用されている。本研究ではV添加での相界面析出現象を利用した非調質鋼を用いた研究を行った。また、熱処理の最終過程である冷却過程において、内部組織が制御されるため、冷却過程の理解が大変重要である。
本研究では、炉冷及び空冷を施したV添加鋼を用い、冷却過程が相界面析出組織に与える影響を解明することを目的とした。ナノサイズの析出物を観察するために、透過型電子顕微鏡を用い、明視野像、暗視野像及び電子回折図形を取得した。また、マイクロビッカーズ硬さ試験を行い、フェライト相の硬さを測定し、観察した析出物の分散状態との関係を整理した。空冷材において、非常に微細な析出物が発現し、その結果として強度が著しく上昇したことが判明した。透過型電子顕微鏡観察において、試料作製に非常に苦戦したが、条件を変えて複数回行うなどして対処した。
今回の発表においては、できる限り図や写真を増やすように努め、オンラインでも伝わりやすいように工夫した。今回このような素晴らしい賞をいただけたのも、研究室の先輩方や指導教員の先生方、共同研究者の方々からの温かいご指導をいただけたおかげであると思う。心から感謝申し上げると共に、今回の経験を糧に、今後とも研究に邁進してゆきたい所存である。
2021.09.14 第181回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第181回春季講演大会学生ポスター発表(2021年3月17日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが努力賞を受賞されました。おめでとうございます。また受賞者の方からの声を掲載しております。
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-60 | 河原康仁 | 九州大学 | その場引張TEM法によるCクラスターと転位の相互作用の解明 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・河原康仁様(九州大学 修士 2年)
日本鉄鋼協会第180回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「その場引張TEM法によるCクラスターと転位の相互作用の解明」という題目で発表した。
近年、省資源化を目指したレアメタルフリーな高強度化が鉄鋼材料に求められてきており、炭素(C)などのユビキタス元素を活用した高強度化が注目されている。鉄鋼材料中において、Cは固溶C、Cクラスター、炭化物といった様々な状態で存在することが知られている。中でも、フェライト域の高温から焼入れし、低温で時効処理を施すことで生ずるCクラスターが優れた強化能を有することが知られている。Cクラスターを効果的に活用することで、レアメタルフリーな高強度化を実現することができると考えられる。しかし、Cクラスターの強化機構を直接解明した例はなく、材料の強度と密接な関係を持つ転位との相互作用メカニズムの解明が望まれている。
本研究では、転位運動をリアルタイムで観察することのできるその場引張TEM法を用いることで、Cクラスターと転位の相互作用を直接観察した。転位がCクラスターに対して張り出している様子を観察することで、Cクラスターが転位とCutting型の相互作用を示すことを明らかにした。更に、強化量に及ぼすCクラスターの寄与分を転位の張り出しから定量的に算出し、Cクラスターの形成が著しい強度上昇をもたらすことを実証した。鉄由来の磁性の影響で、様々な問題に直面したが、オメガフィルターを用いた色収差の低減や試料作成法等、様々な工夫を凝らすことで対処した。
今回の発表は、オンライン上でのポスター発表であったため、参考資料を事前に準備し、質疑応答時に活用することで、オンライン発表特有の強みを発揮させることができたと考えている。今回このような素晴らしい賞をいただけたのも、研究室の先輩方や指導教員の先生方、共同研究者の方々からの厳しくも温かいご指導をいただけたおかげであると思う。心から感謝申し上げると共に、今回の経験を糧に、今後とも研究に邁進してゆきたい所存である。
2021.4.28 第1回運営委員会報告
1.研究会・フォーラム関連事項(1) 研究会I「LIBS実用場適用技術開発」の2020年度活動報告/2021年度活動計画書について、出口主査から説明があった。1年延期となったため、中間報告は来年になる。
(2) 研究会I「鉄鋼関連材料の非破壊・オンサイト分析法」活動計画書について、今宿主査から説明があった。
(3) 以下、4フォーラムの活動終了報告の説明があった。
- ・鉄鋼分析における誤差因子の検討:ブラックボックス化した分析装置の功罪(田中座長代理、今宿委員)
- ・多結晶材料の異方性の評価と予測技術(小貫座長)
- ・鉄鋼関連材料の化学状態分析の新しい展開(今宿座長)
- ・小型中性子源による鋼中非金属介在物評価法の検討(大竹座長)
(4) 以下、継続および新規の6フォーラムについて2020年度活動報告/2021年度活動計画書について説明があった。
- ・現在の製鋼関連技術における湿式分析の新領域を探る(上原座長)
- ・化学的または生物学的処理によるスラグの機能変化とその評価・分析(高橋座長)
- ・結晶性材料のマルチスケール解析(熊⾕座長)
- ・中性子を中心とした量子ビームによる鉄鋼内部の組織解析活用技術の検討(大竹座長)
- ・高温における最適な材料プロセス制御を目指した材料特性評価(西座長)
- ・鉄鋼関連材料の機能開発を志向した反応の探索と解析(江場座長)
2.学術部門・学術部会関連事項
(1) 研究会新規設立提案に向けての部会ロードマップと重点領域の見直し
評価・分析・解析部会ロードマップおよび学術部会ロードマップにおける2021年度研究会設立の重点領域(2020年5月更新)の確認を行った。
(2) 学術部会5年見直しへの対応
部門長・副部門長コメントと対応計画(2021~24年度)に基づき、藤浪部会長から2021~24年度の実施案(ISIJ International特集号、西山記念技術講座、分析技術部会との連携)について説明があり、他部会、分析技術部会と連携して進めることを確認した。
3.講演大会関連事項
事務局から、第181回春季講演大会 実施報告、第181回春季講演大会 学生ポスターセッション報告、第182回秋季講演大会 部会関連企画一覧、第182回秋季講演大会 開催までのスケジュール、今後の春秋講演大会の開催についての説明を行った。
4.その他
- ・事務局から、個人会員の「2021-2022年会費」減免についての説明があった。
- ・鈴木顧問から第246・247回西山記念技術講座の説明があった。
- ・藤浪部会長からISIJ International第62巻第5号特集号「Frontier in characterization of materials and processes for steel manufacturing」に積極的に投稿して欲しいとコメントがあった。投稿締切は2021年8⽉31⽇(⽕)。
2021.03.23 第180回秋季講演大会学生ポスターセッション奨励賞受賞者の声
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-51 | 有馬勇太 | 徳島大学 | LIBSを用いた鉄鋼中元素組成のリモート計測技術開発 |
PS-55 | 小林幸央 | 関西大学 | ステンレス鋼に成膜した種々の多層DLC膜の比較調査 |
・有馬勇太様 (徳島大学 修士1年)
日本鉄鋼協会第180回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「LIBSを用いた鉄鋼中元素組成のリモート計測技術開発」という題目で発表した。近年、様々な産業プロセスにおいて物質の元素組成をリアルタイム計測可能な技術の開発が必要とされている。製鉄・製鋼のプロセスでは、限られた時間の中で化学成分を制御する精度の向上は、高品質の鋼材を大量生産する上で極めて重要である。しかし、未だ鉄鋼材料や高温材料における短時間計測技術、リアルタイムでの溶融金属の組成を計測する技術は実用化されていない。そこで、高感度でリアルタイム計測を可能にする LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)が注目されている。実フィールドでは高温となる工程が多くあり、レーザや光学系を測定対象物の近くに配置することができない。そのため, 遠距離から計測できるリモート計測が求められる。また, LIBS計測を行う際に対象物にレーザ光を集光させる必要がある。 一般に、産業プロセスにおいてはレーザから対象物の表面までの距離が一定ではなく、焦点を自動に調整可能なオートフォーカス技術が求められる。本研究では、レーザから対象物までの距離が変化しても安定した計測可能なLIBSにおけるオートフォーカス計測技術の開発を実施した。LIBSではレーザ光を対象物表面に集光させることと、プラズマ光を光ファイバーへ集光させることが重要である。本研究のオートフォーカスシステムは、レーザ光を集光させるために集光レンズを、また、プラズマ光を集光させるために光ファイバーを、電動ステージを用い動かしオートフォーカスする仕様とし、構築した。その結果、本技術を用いることによって、計測対象までの距離が変化しても安定した計測が可能であることを確認することができた。今回の発表は口頭での発表は無く、ポスターのみによるものだったため、誰が見ても分かるような資料作りを心掛けた。その結果、このような素晴らしい奨励賞を頂き、工夫して良かったと非常に嬉しく思う。これを糧に、日々の研究に邁進したい所存である。 ・小林幸央様 (関西大学大学院 修士2年)
日本鉄鋼協会第180回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「ステンレス鋼に成膜した種々の多層DLC膜の比較調査」という題目で発表した。表面改質処理のなかでもダイヤモンドライクカーボン(以下DLC)膜は、高硬度かつ低い摩擦係数を示し、材料表面に優れた耐摩耗性や耐凝着性を付与する。しかし、DLC膜は化学的に安定であり、基材との親和性に乏しいため密着性に乏しく、基材との熱膨張係数の差が大きいため内部応力が増加することや、基材への炭素拡散によって耐久性が悪化する。そこで、金属含有DLC中間層を導入することで、密着性および機械的特性を向上させることができる。また、中間層とDLC膜を交互に成膜する多層構造を形成することで、さらに機械的特性が向上する報告例が存在する。本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304に高周波プラズマCVD装置を用いて、全膜厚1µmとなるように2層構造、4層構造および8層構造を形成させたDLC(a-C:H)膜を成膜した。基材表面の洗浄のためにArボンバード処理を施した後、Si-DLC中間層はSi(CH3)4とCH4の混合ガスで成膜し、その後DLC膜はCH4を用いて成膜した。成膜条件は、Si-DLC / DLC = 500 nm / 500 nmの2層構造、Si-DLC / DLC = 250 nm / 250 nmを2回繰り返した4層構造、Si-DLC / DLC / Si-DLC / DLC = 250 nm / 150 nm / 250 nm / 350 nmの4層構造、Si-DLC / DLC / Si-DLC / DLC = 250 nm / 350 nm / 250 nm / 150 nmの4層構造およびSi-DLC / DLC = 125 nm / 125 nmを4回繰り返した8層構造とし、1層あたりの膜厚を変化させることで密着性や耐摩耗性に及ぼす影響を調査した。結果として、DLC膜の硬さは多層構造にすることで小さくなり、膜厚比を変化させると最表面に厚い膜がある方が硬くなった。膜の密着性は多層構造にすることで向上し、膜厚比を変化させると基材側に厚い膜があるほうが密着性は優れていた。膜の耐久性は膜の数が増加すると向上し、1層あたりの膜の厚さが小さい層が存在すると悪化することが明らかとなった。今回の発表は書面審査であったことから、解りやすく伝えられるように文章や図表の配置を考え、ポスターを作成した。このたび奨励賞をいただいたことで、これまでの研究内容が評価されたことを嬉しく思うと同時に、今後の研究活動に対してさらに精進しようと思った。最後に、このような貴重な機会を下さった日本鉄鋼協会の関係者の皆様、日頃からご指導いただいている西本明生教授、研究を進めるにあたりご助力いただいた多くの方々に心より御礼申し上げます。