評価・分析・解析部会
広報
2024.11.11 第188回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第188回秋季講演大会学生ポスター発表(2024年9月19日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。
奨励賞
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-38 | 阿部帆花 | 千葉大学 | 陽電子プローブマイクロアナライザーによる粒界破壊金属破断面直下の原子空孔測定 |
PS-73 | 黒見柊蔵 | 北海道大学 | 波長分解型中性子イメージングによる多軸応力と転位密度の同時解析 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・阿部帆花様(千葉大学 修士2年)
日本鉄鋼協会第 188 回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「陽電子プローブ マイクロアナライザーによる粒界破壊金属破断面直下の原子空孔測定」の題目で発表した。水素脆化は金属材料中の水素が延性低下や遅れ破壊を引き起こす現象であり、水素をエネルギー資源として活用するにあたって、この問題の解決は必要不可欠である。水素脆化した焼戻しマルテンサイト鋼は弾性領域で粒界破壊を呈し、その際水素の粒界への拡散は応力負荷によって発現するが、その過程に空孔が関与しているかどうかは不明である。その実証のため本研究では高感度欠陥分析法である陽電子消滅法において、陽電子マイクロビームを破断面直下の欠陥分析に適用することを着想した。そして、同一破面上に粒界破壊部とディンプル部を含む水素脆化焼戻しマルテンサイト鋼を試料として、破断面直下の欠陥二次元マップの測定を実現した。
その結果、粒界破壊部、ディンプル部ともに空孔クラスターの形成が認められた。弾性領域においても局所的に塑性変形が起こっており、粒界近傍に空孔が形成していることが初めて実験的に示された。また、粒界破壊部ではディンプル部よりも肥大化した空孔クラスターが検出され、粒界近傍での空孔高密度形成を実証した。このことから水素脆化による粒界破壊において、粒界近傍で空孔が水素と結合し集積することで、粒界に拡散する水素の供給源になっていると考察した。
発表に当たって、自分の研究はあまり多くの方には馴染みのない分析法を用いているため、インパクトのあるイメージングの結果で目を引き、興味を持ってもらえるようにポスターの構成を考えた。その甲斐あってか当日は多くの方と議論することができて、実りある発表にできたと感じている。このポスターセッションは、鉄鋼という大きな枠組みの中で分野交流をする絶好の機会であった。研究の流行や注目されている材料のリサーチをしながら、その専門家に話を聞くことができ、また多角的な視点から意見をもらえるので、それが課題解決への糸口になることもあると感じた。研究の位置づけや方針で悩んでいる方こそ積極的に参加してほしいと思う会であった。
最後に日頃からご指導ご鞭撻を賜っている藤浪先生をはじめ、上智大の高井先生、齋藤様、産総研の満汐様に厚くお礼申し上げる。
・黒見柊蔵様(北海道大学 修士2年)
日本鉄鋼協会第188回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「波長分解型中性子イメージングによる多軸応力と転位密度の同時解析」という題目で発表を行い、奨励賞をいただいた。
バルク結晶組織構造情報を広範囲に渡り空間分解能を持って測定できる手法として、中性子透過ブラッグエッジイメージング法がある。これまで我々は、本手法では導出不可能であった応力、さらには多軸の応力の解析を実現するため、マルチブラッグエッジ同時シフト(MBE-S)解析法を開発した。これは、マルチブラッグエッジ(MBE)に対する同時フィッティング解析を通じて、多軸応力を精密化する手法である。他方、MBEに対する同時フィッティング解析の手法として、MBE同時ブロードニング(MBE-B)解析法が開発され、ミクロひずみ/転位密度や結晶子サイズの解析が行われている。そこで本研究では、多軸応力と転位密度の同時解析のために、MBE同時シフト&ブロードニング(MBE-S&B)解析法を開発した。回折ピーク/ブラッグエッジのブロードニング量からミクロひずみ/転位密度、結晶子サイズを導出できる手法として、classical Williamson-Hall(cWH)法がある。本研究では、ブロードニングの結晶弾性異方性の効果を補正できるcorrected cWH(ccWH)法をMBE-S解析に組み込み、MBE-S&B解析法を開発した。データ解析では、パラメータとして多軸応力に加えミクロひずみ/転位密度と結晶子サイズを用いて、中性子透過率スペクトルにMBE同時フィッティング解析を適用した。解析対象の実験データは、J-PARC MLF BL19「匠」において、上下に切欠を持つ厚さ5 mmのα-Fe鋼板に対して、引張荷重を水平方向に変化させながら測定した。また、得られた応力解析結果の正確度の検証のために、有限要素解析ソフトウェアANSYSを用いて、引張実験における応力のシミュレーション計算を行った。その結果、得られた多軸応力の解析結果は、シミュレーション計算結果と装置分解能程度で一致した。また、転位密度のイメージング結果は、確立した手法であるMBE-B解析による結果と同様な転位密度イメージを得られた。これらから、多軸応力と転位密度の同時解析は可能であることが分かった。
ポスター発表では、専門外の方でも理解していただけるように、できるだけ専門用語を使わずに説明を行った。その結果、多くの方々に興味を持って発表を聞いていただき、多くのご意見をいただくことができた。しかし、いくつかの質問に対して自身の知識不足・勉強不足を感じた時もあったため、専門知識をより深めていく必要があると感じた。
最後に、日頃よりご指導賜っている佐藤博隆先生や加美山隆先生、共同研究者の茨城大学・岩瀬謙二先生に御礼を申し上げます。今後とも何卒ご指導の程、よろしくお願い申し上げます。
2024.02.07 研究会報告
関西分析研究会報告
取材:小田啓介(コベルコ科研)
「モリブデン酸化物の酸素欠陥エンジニアリングに基づくCO2変換触媒の開発」
(大阪大学大学院工学研究科 桒原 泰隆)
水素ドープされ酸素欠陥を持つモリブデン酸化物(HxMoO3-y)は酸素欠陥の働きにより脱酸素反応を起こす。また、広い波長の光を吸収し熱エネルギーを発生させる。この性質を利用し、有用な化学原料であるCOをCO2から生成する逆水性ガスシフト反応(反応式:CO2 + H2 → CO + H2O)の触媒に用いることで、従来よりも低温でCOが生成できることを見出した。さらに触媒に可視光を照射すると反応速度が向上することも見出した。
エネルギー問題やカーボンニュートラルに関わる研究であり、活発に質疑応答があった。
この他、5件の学生発表が行われた。発表内容は以下のとおりである。
(1)「過酸化水素生成反応を駆動する欠陥導入Hf-MOF光触媒の開発」
(大阪大学 本田 虎太郎)
(2)「第一原理計算による窒素含有芳香族化合物のXANES解析」
(兵庫県立大学 山田 咲樹)
(3)「フランドル地方の中世装飾写本の微小部蛍光X線分析」
(大阪公立大学 藤井 蓮唯羅)
(4)「Pd系触媒を用いた水中でのギ酸合成反応におけるCo3O4添加効果」
(大阪大学 志野木 純)
(5)「白金(II)および白金(IV)錯体のXPSスペクトルと分子軌道計算」
(龍谷大学 田中 凌)
発表後、関西分析研究会役員による投票が行われ、志野木 純さんが最優秀発表者となった。次世代エネルギーとして期待される水素の安全・安定な輸送方法の確立を目指した研究であり、ここでもエネルギー問題に関わる研究に関心が集まった。
2024年度は、第1回例会はオンライン開催、第2回例会は対面による開催が予定されている。役員会では、最近はコロナ禍もあり講演や学生発表が主であったが、過去に本研究会で標準物質を作製したような業界のニーズに応えるような活動もしていきたいとの意見があり、本研究会の更なる活性化が期待される。最後に、例会開催にあたり多大なるご配慮とご尽力をいただいた、龍谷大学 藤原学先生、糟野潤先生を始め関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。
2024.2.7 第186回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第186回秋季講演大会学生ポスター発表(2023年9月21日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞および奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。
優秀賞
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-49 | 淡路 亮 | 千葉大学 | オペランド陽電子寿命測定によるオーステナイト系ステンレス鋼の水素誘起欠陥 |
PS-109 | 中澤礼香 | 東京都市大学 | CO2固定反応の促進を目的とした鉄組織の評価と反応過程の観察 |
奨励賞
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-110 | 山本航大 | 千葉大学 | α鉄の水素誘起欠陥のための水素添加・応力負荷オペランド陽電子消滅法の開発 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・淡路 亮様(千葉大学 修士2年)
この度、日本鉄鋼協会第186回秋季講演大会学生ポスターセッションで「オペランド陽電子寿命測定によるオーステナイト系ステンレス鋼の水素誘起欠陥」の題目で発表し、優秀賞をいただいた。
オーステナイト系ステンレス鋼は水素の貯蔵材料等で使用されているが、使用条件によっては水素脆化という力学特性の低下を引き起こす。水素環境下での応力負荷により空孔形成がみられることから、転位・空孔・水素の相互作用が機構解明において重要である。これまで、非破壊高感度な空孔型欠陥分析法である陽電子消滅寿命法により、オーステナイト系ステンレス鋼において空孔-水素複合体の形成が水素脆化に関連していることを明らかにしてきた。一方、空孔-水素複合体は不安定であり、また実際の水素脆化は水素環境下かつ応力負荷状態で起こっており、従来法の結果は本来の欠陥種を反映していない可能性があった。そこで本研究では、より実際の構造材での環境を模擬した水素添加+応力負荷しながら陽電子消滅寿命測定を行うオペランド法を開発し、水素誘起欠陥のその場計測を試みた。その結果、準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304では水素環境下かつ応力負荷状態において、転位成分と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分の検出に成功した。水素のない環境下では転位成分しか検出されないことから、水素環境下では水素の存在により、水素が空孔を安定化させることで、空孔-水素複合体を形成していると考察した。さらに水素添加を停止し、大気環境下かつ応力負荷でも空孔-水素複合体の形成がみられ、応力負荷状態も重要なことがわかった。オペランド測定により空孔-水素複合体は水素存在下や応力負荷状態では安定であることを新規に明らかにし、本法が水素脆化の素過程を解明する上で有用であることを示した。
発表では、陽電子消滅法がそれほど汎用的手法ではないため、多くの人に理解いただけるように、本測定法を開発する上での問題点を紹介し、その解決策とその根拠の説明をわかりやすくするよう心がけた。また、今回の結果を踏まえた考察に至った流れに重点をおいて説明した。この度このような賞をいただけたのは、日頃からご指導ご鞭撻を賜っております藤浪眞紀教授をはじめ、日鉄ステンレス社の秦野正治様、菅生三月様との議論や示唆によるものである。自身の考えを整理し、周りの方々との議論の過程が非常に重要と考え、今後とも研究に対して一意専心していく所存である。
・中澤礼香様(東京都市大学 修士1年)
日本鉄鋼協会第186回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「CO2固定反応の促進を目的とした鉄組織の評価と反応過程の観察」という題目で発表を行い、優秀賞をいただいた。
二酸化炭素(CO2)を炭酸水として鉄スクラップ(Fe)と常温で反応させ、炭酸鉄(FeCO3)として固定化するプロセスを検討している。この反応では水素(H2)も生成するため、CO2を排出しないH2製法としても期待できる。原料の鉄スクラップにはさまざまな種類や組成、状態のものが想定されるため、本研究ではFeの形態や組織が反応速度に与える影響を調べることとした。製法の異なる純鉄粉による反応の比較を行ったところ、反応速度はガス吸着法により決定した比表面積と正の相関を示していた。しかし速度との間に明確な比例関係はなく、表面積に加えて、結晶子サイズや結晶歪みが反応速度に影響していると理解された。次に、原料の鉄粉を熱処理して反応の進行過程を観察した。NやCを多く含む鉄粉では、α-Feの他にFe3NやFe3Cなどの化合物相が含まれ、熱処理によって化合物相の析出がさらに進んだことが確認された。この鉄粉を用いて反応を行ったところ、反応速度と最終的な反応量が大きく向上した。反応にともなって析出するFeCO3の形態をSEMで観察すると、熱処理前の鉄粉を用いたときには鉄粉の表面全体を覆い尽くすように微細なFeCO3結晶が析出しており、このためFeと炭酸水の接触が妨害されて反応途中からほぼ停止してしまったと考えられる。一方で熱処理後の鉄粉では粗大なFeCO3が不規則に析出しておりFe表面は部分的に露出していた。熱処理による化合物相の析出により、化合物相とα-Feとの電位差による腐食が進行したことや、FeCO3が化合物相上に析出したことが考えられた。以上のことから、鉄粉製造時に付与された歪み、表面形状などの形態や、組織構造が反応速度に大きく影響することが確認され、鉄の選定や前処理方法を工夫すべきことがわかった。
ポスター作成時には、言葉は端的に最小限にし、グラフ、SEM画像、ポンチ絵を大きく分かりやすい配置にすることを心がけた。発表では、初めてこの研究を聞く方に簡単に把握していただけるように、研究背景からまとめまで流れを意識して端的に説明する練習を重ねた。本番では、多くの研究者の方から様々な観点で質問や助言をいただき、非常に有意義な時間となった。今後も謙虚に研究と向き合っていきたい。
最後に、日頃からご指導いただいている江場宏美教授に心より感謝申し上げます。
・山本航大様(千葉大学 修士1年)
日本鉄鋼協会第186回秋季講演大会学生ポスターセッションで「α鉄の水素誘起欠陥のための水素添加・応力負荷オペランド陽電子消滅法の開発」の発表を行い、奨励賞をいただいた。
α鉄の水素関与欠陥は、第一原理計算および低温昇温脱離分析によって単空孔レベルの欠陥の報告がされているが、直接的欠陥分析法である陽電子消滅寿命測定では空孔クラスター形成が報告されている。一方でその挙動と力学特性との相関は得られていない。この原因として大気中で測定を行う陽電子消滅寿命測定では、室温大気中で水素が脱離し欠陥種が変化するためと考えた。そこで私は水素環境下かつ応力負荷状態で測定が可能なオペランド陽電子消滅寿命測定装置を考案・構築し、鉄中の水素誘起欠陥挙動の観察を目的とした。
水素環境下で6%まで延伸し、水素添加かつ応力一定で行った測定では、転位と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分を検出した。一方で、空孔クラスターは検出されず、空孔凝集は起こっていなかった。これは水素による空孔安定性によるものと考察した。さらに水素添加を停止し、大気中で応力負荷状態でも転位と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分が検出された。水素添加を停止しても応力が印加状態では単・複空孔は安定して存在する、つまり水素と結合した状態であることが明らかになった。そして、大気中で応力を徐荷した測定で、初めて空孔クラスター成分が検出された。これは除荷により、水素の脱離に伴って単・複空孔が不安定になり拡散・凝集したことによると考察された。また、ひずみ量の増加に伴い空孔クラスターの成長、すなわち空孔量の形成増大が観察され、ひずみ量の増大により空孔密度上昇が示唆された。以上、水素添加・応力負荷オペランド陽電子消滅寿命法を開発し、鉄中の水素誘起欠陥挙動に新規知見を得ることができた。また、本結果は、水素関与欠陥は不安定で室温時効により変化するため、その測定にはその場分析が必要であることを強く示唆している。水素誘起欠陥は、水素脆化につながるものであり、今後本法により水素脆化支配欠陥の決定を目指していく予定である。
本研究にて奨励賞をいただけたのは、指導教員である藤浪眞紀教授のご指導や同僚からの激励、同発表会で一緒に発表を行った先輩の協力のお陰です。心から感謝を申し上げるとともに今後の研究にも精力的に取り組む所存である。
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