(一社)日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 | Technical Devision of Process Evaluation & Material Characterization

評価・分析・解析部会

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今までのPEMACニュースレターズ(1997.8.1 - 2020.3.10)
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No.25 No.26 No.27 No.28 No.29 No.30 No.31 No.32 No.33 No.34 No.35
No.36 No.37 No.38 No.39 No.40 No.41 No.42 No.43 No.44 No.45 No.46

2024.02.07 研究会報告

関西分析研究会報告
取材:小田啓介(コベルコ科研)

2023年度第2回例会が2023年12月18日(月)に龍谷大学大阪梅田キャンパス研修室において開催され、20名が参加した。最初に委員長の藤原学先生(龍谷大)による開催挨拶の後、大阪大学 桒原泰隆先生による依頼講演が行われた。依頼講演は下記の通りである。

「モリブデン酸化物の酸素欠陥エンジニアリングに基づくCO2変換触媒の開発」
(大阪大学大学院工学研究科 桒原 泰隆)
水素ドープされ酸素欠陥を持つモリブデン酸化物(HxMoO3-y)は酸素欠陥の働きにより脱酸素反応を起こす。また、広い波長の光を吸収し熱エネルギーを発生させる。この性質を利用し、有用な化学原料であるCOをCO2から生成する逆水性ガスシフト反応(反応式:CO2 + H2 → CO + H2O)の触媒に用いることで、従来よりも低温でCOが生成できることを見出した。さらに触媒に可視光を照射すると反応速度が向上することも見出した。

エネルギー問題やカーボンニュートラルに関わる研究であり、活発に質疑応答があった。
この他、5件の学生発表が行われた。発表内容は以下のとおりである。
(1)「過酸化水素生成反応を駆動する欠陥導入Hf-MOF光触媒の開発」
  (大阪大学 本田 虎太郎)
(2)「第一原理計算による窒素含有芳香族化合物のXANES解析」
  (兵庫県立大学 山田 咲樹)
(3)「フランドル地方の中世装飾写本の微小部蛍光X線分析」
  (大阪公立大学 藤井 蓮唯羅)
(4)「Pd系触媒を用いた水中でのギ酸合成反応におけるCo3O4添加効果」
  (大阪大学 志野木 純)
(5)「白金(II)および白金(IV)錯体のXPSスペクトルと分子軌道計算」
  (龍谷大学 田中 凌)

発表後、関西分析研究会役員による投票が行われ、志野木 純さんが最優秀発表者となった。次世代エネルギーとして期待される水素の安全・安定な輸送方法の確立を目指した研究であり、ここでもエネルギー問題に関わる研究に関心が集まった。
2024年度は、第1回例会はオンライン開催、第2回例会は対面による開催が予定されている。役員会では、最近はコロナ禍もあり講演や学生発表が主であったが、過去に本研究会で標準物質を作製したような業界のニーズに応えるような活動もしていきたいとの意見があり、本研究会の更なる活性化が期待される。最後に、例会開催にあたり多大なるご配慮とご尽力をいただいた、龍谷大学 藤原学先生、糟野潤先生を始め関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。

2024.2.7 第186回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第186回秋季講演大会学生ポスター発表(2023年9月21日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞および奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。

優秀賞

講演番号 氏名 所属 題目
PS-49 淡路 亮 千葉大学 オペランド陽電子寿命測定によるオーステナイト系ステンレス鋼の水素誘起欠陥
PS-109 中澤礼香 東京都市大学 CO2固定反応の促進を目的とした鉄組織の評価と反応過程の観察

奨励賞

講演番号 氏名 所属 題目
PS-110 山本航大 千葉大学 α鉄の水素誘起欠陥のための水素添加・応力負荷オペランド陽電子消滅法の開発

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・淡路 亮様(千葉大学 修士2年)

この度、日本鉄鋼協会第186回秋季講演大会学生ポスターセッションで「オペランド陽電子寿命測定によるオーステナイト系ステンレス鋼の水素誘起欠陥」の題目で発表し、優秀賞をいただいた。
オーステナイト系ステンレス鋼は水素の貯蔵材料等で使用されているが、使用条件によっては水素脆化という力学特性の低下を引き起こす。水素環境下での応力負荷により空孔形成がみられることから、転位・空孔・水素の相互作用が機構解明において重要である。これまで、非破壊高感度な空孔型欠陥分析法である陽電子消滅寿命法により、オーステナイト系ステンレス鋼において空孔-水素複合体の形成が水素脆化に関連していることを明らかにしてきた。一方、空孔-水素複合体は不安定であり、また実際の水素脆化は水素環境下かつ応力負荷状態で起こっており、従来法の結果は本来の欠陥種を反映していない可能性があった。そこで本研究では、より実際の構造材での環境を模擬した水素添加+応力負荷しながら陽電子消滅寿命測定を行うオペランド法を開発し、水素誘起欠陥のその場計測を試みた。その結果、準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304では水素環境下かつ応力負荷状態において、転位成分と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分の検出に成功した。水素のない環境下では転位成分しか検出されないことから、水素環境下では水素の存在により、水素が空孔を安定化させることで、空孔-水素複合体を形成していると考察した。さらに水素添加を停止し、大気環境下かつ応力負荷でも空孔-水素複合体の形成がみられ、応力負荷状態も重要なことがわかった。オペランド測定により空孔-水素複合体は水素存在下や応力負荷状態では安定であることを新規に明らかにし、本法が水素脆化の素過程を解明する上で有用であることを示した。
発表では、陽電子消滅法がそれほど汎用的手法ではないため、多くの人に理解いただけるように、本測定法を開発する上での問題点を紹介し、その解決策とその根拠の説明をわかりやすくするよう心がけた。また、今回の結果を踏まえた考察に至った流れに重点をおいて説明した。この度このような賞をいただけたのは、日頃からご指導ご鞭撻を賜っております藤浪眞紀教授をはじめ、日鉄ステンレス社の秦野正治様、菅生三月様との議論や示唆によるものである。自身の考えを整理し、周りの方々との議論の過程が非常に重要と考え、今後とも研究に対して一意専心していく所存である。

・中澤礼香様(東京都市大学 修士1年)

日本鉄鋼協会第186回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「CO2固定反応の促進を目的とした鉄組織の評価と反応過程の観察」という題目で発表を行い、優秀賞をいただいた。
二酸化炭素(CO2)を炭酸水として鉄スクラップ(Fe)と常温で反応させ、炭酸鉄(FeCO3)として固定化するプロセスを検討している。この反応では水素(H2)も生成するため、CO2を排出しないH2製法としても期待できる。原料の鉄スクラップにはさまざまな種類や組成、状態のものが想定されるため、本研究ではFeの形態や組織が反応速度に与える影響を調べることとした。製法の異なる純鉄粉による反応の比較を行ったところ、反応速度はガス吸着法により決定した比表面積と正の相関を示していた。しかし速度との間に明確な比例関係はなく、表面積に加えて、結晶子サイズや結晶歪みが反応速度に影響していると理解された。次に、原料の鉄粉を熱処理して反応の進行過程を観察した。NやCを多く含む鉄粉では、α-Feの他にFe3NやFe3Cなどの化合物相が含まれ、熱処理によって化合物相の析出がさらに進んだことが確認された。この鉄粉を用いて反応を行ったところ、反応速度と最終的な反応量が大きく向上した。反応にともなって析出するFeCO3の形態をSEMで観察すると、熱処理前の鉄粉を用いたときには鉄粉の表面全体を覆い尽くすように微細なFeCO3結晶が析出しており、このためFeと炭酸水の接触が妨害されて反応途中からほぼ停止してしまったと考えられる。一方で熱処理後の鉄粉では粗大なFeCO3が不規則に析出しておりFe表面は部分的に露出していた。熱処理による化合物相の析出により、化合物相とα-Feとの電位差による腐食が進行したことや、FeCO3が化合物相上に析出したことが考えられた。以上のことから、鉄粉製造時に付与された歪み、表面形状などの形態や、組織構造が反応速度に大きく影響することが確認され、鉄の選定や前処理方法を工夫すべきことがわかった。
ポスター作成時には、言葉は端的に最小限にし、グラフ、SEM画像、ポンチ絵を大きく分かりやすい配置にすることを心がけた。発表では、初めてこの研究を聞く方に簡単に把握していただけるように、研究背景からまとめまで流れを意識して端的に説明する練習を重ねた。本番では、多くの研究者の方から様々な観点で質問や助言をいただき、非常に有意義な時間となった。今後も謙虚に研究と向き合っていきたい。
最後に、日頃からご指導いただいている江場宏美教授に心より感謝申し上げます。

・山本航大様(千葉大学 修士1年)

日本鉄鋼協会第186回秋季講演大会学生ポスターセッションで「α鉄の水素誘起欠陥のための水素添加・応力負荷オペランド陽電子消滅法の開発」の発表を行い、奨励賞をいただいた。
α鉄の水素関与欠陥は、第一原理計算および低温昇温脱離分析によって単空孔レベルの欠陥の報告がされているが、直接的欠陥分析法である陽電子消滅寿命測定では空孔クラスター形成が報告されている。一方でその挙動と力学特性との相関は得られていない。この原因として大気中で測定を行う陽電子消滅寿命測定では、室温大気中で水素が脱離し欠陥種が変化するためと考えた。そこで私は水素環境下かつ応力負荷状態で測定が可能なオペランド陽電子消滅寿命測定装置を考案・構築し、鉄中の水素誘起欠陥挙動の観察を目的とした。
水素環境下で6%まで延伸し、水素添加かつ応力一定で行った測定では、転位と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分を検出した。一方で、空孔クラスターは検出されず、空孔凝集は起こっていなかった。これは水素による空孔安定性によるものと考察した。さらに水素添加を停止し、大気中で応力負荷状態でも転位と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分が検出された。水素添加を停止しても応力が印加状態では単・複空孔は安定して存在する、つまり水素と結合した状態であることが明らかになった。そして、大気中で応力を徐荷した測定で、初めて空孔クラスター成分が検出された。これは除荷により、水素の脱離に伴って単・複空孔が不安定になり拡散・凝集したことによると考察された。また、ひずみ量の増加に伴い空孔クラスターの成長、すなわち空孔量の形成増大が観察され、ひずみ量の増大により空孔密度上昇が示唆された。以上、水素添加・応力負荷オペランド陽電子消滅寿命法を開発し、鉄中の水素誘起欠陥挙動に新規知見を得ることができた。また、本結果は、水素関与欠陥は不安定で室温時効により変化するため、その測定にはその場分析が必要であることを強く示唆している。水素誘起欠陥は、水素脆化につながるものであり、今後本法により水素脆化支配欠陥の決定を目指していく予定である。
本研究にて奨励賞をいただけたのは、指導教員である藤浪眞紀教授のご指導や同僚からの激励、同発表会で一緒に発表を行った先輩の協力のお陰です。心から感謝を申し上げるとともに今後の研究にも精力的に取り組む所存である。

2023.4.19 第185回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第185回春季講演大会学生ポスター発表(2023年3月9日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。

講演番号 氏名 所属 題目
PS-68 杉浦圭哉 名古屋大学 敵対的生成ネットワークを用いた新たな3D組織構築手法の開発

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・杉浦圭哉様(名古屋大学 修士1年)

日本鉄鋼協会第185回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「敵対的生成ネットワークを用いた新たな3D組織構築手法の開発」という題目で発表を行い、優秀賞をいただいた。
鉄鋼材料をはじめとする金属材料の開発をより精密に行うには、2D組織だけではなく、3D組織も解析することが重要である。従来、3D組織を得るには、実験やシミュレーションが用いられてきたが、それらの手法には膨大な時間と労力を要するという課題がある。そこで本研究では、上記の課題を解消するため、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks; GAN)を用いた新たな3D組織構築手法の開発を試みた。具体的には、GANを応用して、直交する3方向の断面画像3枚のみから3D組織を生成するプログラムを開発した。GANとは、画像生成が得意なディープラーニングの一種であり、画像を生成するAIと、入力された画像が本物か偽物かを判別するAIの、2種類のAIで構成されている。GANに大量の画像を学習させると、それらによく似ているが実在しない画像を生成することができる。
本プログラムは画像情報のみから3D組織を生成するため、材料の種類や画像スケールに制限されることなく、短時間で任意の大きさかつ大量に3D組織を取得することが可能になる。また、従来手法では技術的に難しかった3D組織の取得や、より短時間かつ簡単な3D組織構築の実現が期待できる。これにより、現在スモールデータ問題がボトルネックとなっているマテリアルズ・インフォマティクスにおいて、革新的な解決策となると考えている。
本研究ではGANの再現精度を評価するため、GANにより生成した3D組織と、シリアルセクショニング(SS)により再構築した3D組織から、第二相の体積率や粒子数、粒径分布などの形態情報を抽出し比較した。その結果、両者のすべての特徴量はよく似た数値や分布を示した。以上より、GANは極めて高い精度で3D組織を再現できることを明らかにした。また、GANによる3D組織構築に要した時間は約2時間であり、これはSSと比較して、90%以上の時間短縮を可能にした。
本発表で優秀賞をいただけたのは、指導教員である足立吉隆教授、小川登志男客員准教授の温かいご指導や、研究室メンバーからの率直なアドバイスをいただけたおかげである。心から感謝を申し上げると共に、今回の経験を糧に今後も研究活動に邁進していく所存である。

2023.02.27 研究会報告

関西分析研究会報告
取材:小田啓介(コベルコ科研)

2022年度第2回例会を2023年1月23日(月)に龍谷大学大宮学舎において開催し、25名が参加した。コロナ禍で中止やオンライン開催が続いていたが、3年ぶりの対面による開催となった。最初に委員長の藤原学先生(龍谷大)による開催挨拶の後、龍谷大学の概要説明があった。その後、東京理科大学 川脇徳久先生による依頼講演が行われた。依頼講演は下記の通りである。

「金属ナノクラスターのエネルギー・環境分野への触媒応用」
(東京理科大学 理学部 第一部応用化学科 川脇 徳久)
金属ナノクラスターは約2nm未満の大きさの金属元素の集合であり、その大きさによって結晶構造や電子状態が変わる。その性質を利用し、燃料電池触媒への利用が期待されている。また、水分解光触媒の研究も進められている。エネルギー問題やカーボンニュートラルに関わる研究であり、参加者の関心も高く、予定された時間をオーバーするほど活発に質疑応答があった。

この他、4件の学生発表が行われた。発表内容は以下のとおりである。
(1)「超音波定在波試料保持法による蛍光X線分析の評価」
  (大阪公立大学 奥田 晟生)
(2)「その場観察を利用した還元性酸化物における水素スピルオーバー経路の解明」
  (大阪大学 俊 和希)
(3)「試料加熱軟X線吸収分析装置を利用したタンパク質の熱変性観察」
  (兵庫県立大学 下垣 郁弥)
(4)「無機ヒ素の電気化学分析法の開発」
  (龍谷大学 横尾 和希)

いずれの発表も興味深いものであり、こちらでも活発な質疑応答がなされた。発表後、関西分析研究会役員による投票が行われ、奥田晟生さんが最優秀発表者となった。
2023年度は、第1回例会はオンライン開催、第2回例会は対面による開催が予定されており、本研究会の更なる活性化が期待される。最後に、例会開催に当たり多大なるご配慮とご尽力をいただいた、龍谷大学 藤原学先生、糟野潤先生を始め関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。

2023.2.2 研究室紹介
東京電機大学工学部先端機械工学科
材料工学研究室(小貫祐介)

写真:J-PARC MLF BL20 iMATERIAでの実験風景

当研究室は私の東京電機大着任に伴い、本年度(令和4年度)に新たに発足しました。私の前職は茨城大学フロンティア応用原子科学研究センターで、主としてJ-PARC MLFにおいて中性子回折による金属組織の評価技術の開発を行っていました。それ以前も国立のいわゆる総合大学に在学・勤務していたので、分析機器や近しい分野の先輩、先生方に恵まれた環境の中で研究を行うことができていました。

その一方で新たな職場は、医療・介護や自動車産業などへのアプリケーションを指向した機械系学科ということで、学科での材料系を専門とする教員は私一人であり、先端的な分析機器はほとんどありません。また、卒研学生は一研究室あたり各年度11~12人配属、大学院進学率は国立ほど高くないなど、これまでとは全く違った環境となりました。

私の専門分野は金属工学分野ですので、「材料工学」研究室を名乗るのも少々おこがましいかとは思いました。しかし学科の学生にとっては材料関係の教員は私しかおりませんので、彼らにとっての分かりやすさを重視し、先任の大澤基明先生の時代から使われていた名称を引き続き使うことにしました。

また、私の担当講義の科目名も「材料工学」ということで、100人超の履修者に対して材料工学の基礎と魅力を(前後期あわせてたったの2科目で)伝えなければなりません。熱意のある学生を集めることも研究室運営においては大切です。講義においても近年の研究開発動向などを紹介しつつ、材料研究に興味を持ってもらえるように努力しています。

なんらの分析機器もないとはいえ、私も評価・分析・解析部会の一員ですから、やはり研究にはそうした装置が必要になります。幸い東京千住キャンパスは各地へのアクセスが良いので、当面はいろいろな先生の研究室へお邪魔させていただくことで機器分析実験をさせていただこうと考えています。J-PARCにも常磐線で一本ということで比較的アクセスが良く、今年度も何度か中性子実験をしに行きました。

今年は配属学生が1名だけであったので、これまでにも取り組んでいたベイナイト変態に関する研究をテーマとしました。溶融スズを用いた熱処理装置を作製し、熱処理条件と光学顕微鏡組織、そして強度の関係を調べました。今一度こうしたオーソドックスな研究に立ち返ってみると、基本の大切さを思い知ります。またその中で興味深い現象も見いだされつつあります。

4月からは新たに11人配属となるため、これから11人分研究テーマを考えなければなりません。本学にはレーザー加工機やレーザー局所溶解積層造形装置(3Dプリンター)などの興味深い加工装置がありますので、これらを用いた組織制御の可能性に注目した研究を行いたいと考えています。

2022.12.27 第184回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第184回秋季講演大会学生ポスター発表(2022年9月22日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。

講演番号 氏名 所属 題目
PS-64 佐藤昂平 東京都市大学 Fe-Ga単結晶合金の磁歪量磁場印加方向依存性を利用した3次元的な初期磁区構造の決定

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・佐藤昂平様(東京都市大学 修士2年)

日本鉄鋼協会第184回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「Fe-Ga単結晶合金の磁歪量磁場印可方向依存性を利用した3次元的な初期磁区構造の決定」という題目で発表を行い、優秀賞をいただいた。
Fe-Ga単結晶合金は、磁場を印可することで純鉄よりも一桁大きい約200 ppmのひずみが生じる磁歪材料として知られている。ここで磁歪とは、磁性体に磁場を印可することで生じるひずみのことを指す。これに対し、磁歪材料に力学的負荷を加え、外形を歪ませることで周囲の磁気的性質が変化する逆磁歪という効果がある。近年、この逆磁歪効果を応用した振動発電技術に注目が集まっている。この技術は身の回りに存在するわずかな振動から無線送信可能な電力を高効率に発電できるため、革新的なエネルギーハーベスティング技術としてIoTの電力源に応用が期待されている。発電のカギを握るのが「磁歪特性」であり、振動発電デバイス量産化を見据えて特性の安定化と再現性が求められる。
我々は磁歪特性の安定化と再現性を確認する第一歩として、製造プロセスの違いや単結晶インゴットからの試料切り出し位置の違いが磁歪特性にもたらす影響について評価した。その結果、同じ組成、結晶構造をもつ試料においても、発現する特性に大きな差異がある事が明らかになった。これはFe-Ga単結晶合金を商業化する上で重大な課題である。そこで、この原因を磁歪の理論に基づき考察した。
評価方法については、磁歪の古典式を現象論に基づき改良していき、実現象を表現可能な理論式を再構築した。この理論式を用いて実験で得られたひずみデータを最適化分析することで磁歪特性の重要因子である「初期磁区構造」を決定した。また、こうしたことを詰めていくことで、磁歪特性に影響を及ぼす磁弾性パラメータを変化させた際の3次元的な磁歪予測まで可能となった。これらを基に材料設計を行うことで、材料のポテンシャルを最大限活かした特性発現に繋がると言える。
ポスターを作成する際は図を多用し、視覚的にわかりやすくなるように意識した。また単に結果を発表するだけでなく、その結果に至った過程を段階的に説明することで、研究に対するアプローチが伝わるように努めた。また、少しでも興味を持っていいただけるように、持参したPCを用いて動きのある3D磁歪シミュレーションを補足説明した。
本発表で優秀賞をいただけたのは、研究室メンバーからの率直なアドバイスや指導教員である今福宗行教授の温かいご指導をいただけたおかげである。心から感謝を申し上げると共に、今回の経験を糧に今後も研究活動に邁進していく所存である。

2022.7.14 第183回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第183回春季講演大会学生ポスター発表(2022年3月16日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが努力賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。

講演番号 氏名 所属 題目
PS-70 松野明未 千葉大学 ⽔素添加 in situ 陽電⼦寿命測定によるα鉄の⽔素誘起⽋陥
PS-71 宮原知也 大阪市立大学 X線用CCDカメラを用いた層構造試料の深さ方向元素分析

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・松野明未様(千葉大学 修士1年)

日本鉄鋼協会第183回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「水素添加 in situ 陽電子寿命測定によるα鉄の水素誘起欠陥」という題目で発表を行い、努力賞をいただいた。
 α鉄において低温昇温脱離分析による空孔帰属の報告がされているが、欠陥種の直接的な実証には至っていない。直接的欠陥分析手法として陽電子寿命測定があり、クラスター形成の促進が報告されているが、その結果は昇温脱離分析による結果と一致せず、力学特性との相関も得られていない。水素脆化支配欠陥は不安定であり、その実態を反映した測定法の必要性が示唆されている。そこで、生成欠陥を凍結し温度可変陽電子寿命測定したところ、単空孔・複空孔レベルの欠陥が生成していることが報告されている。
 そこで本研究では、より水素脆化支配欠陥の実態を観察するために室温で水素添加 in situ 陽電子寿命測定法を開発し、適用することで、水素感受性が異なるα鉄試料間の欠陥挙動を比較した。水素感受性が低い高速延伸材では、水素添加測定と大気測定の結果に変化はなく空孔クラスター成分が検出された。この結果は、従来の報告と同様で水素添加しながら延伸することで空孔クラスターが形成されている。一方、水素感受性が高い低速延伸材では水素添加測定において空孔クラスター成分が検出されず、転位成分と単・複空孔レベルの欠陥が混在した成分を確認した。その後、水素添加を停止して大気測定すると3時間後から空孔クラスター成分が検出され始め、10時間後まで空孔クラスターが成長した。これは単・複空孔は室温では不安定であるが、水素と結合することで安定化しており、水素の脱離に伴い単空孔が不安定になり拡散・凝集したことで空孔クラスターに成長したと考察した。一方、高速延伸材では転位移動が速く、水素の結合前に空孔が拡散・凝集するため空孔クラスターとして安定化すると考察した。水素添加 in situ 陽電子寿命測定により、初めて水素感受性が高い低速延伸材のみで空孔と水素が結合した複合体の形成を検出した。
 今回の発表においては、陽電子を用いた新規測定方法とその結果についてオンラインでも伝わりやすい説明をすることに努めた。今回このような賞をいただけたのも、藤浪真紀教授をはじめ指導教員の先生方や共同研究者の方々からの温かいご指導をいただけたおかげであると思う。心から感謝申し上げると共に、今回の経験を活かし今後とも研究に邁進してゆきたい所存である。

・宮原知也様(大阪市立大学 学士4年)

日本鉄鋼協会第183回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて、「X線用CCDカメラを用いた層構造試料の深さ方向分析」という題目で発表した。
 蛍光X線イメージング法は、測定試料中の元素分布を非破壊的に取得することができる。これを用いることで、試料中の化学反応挙動の追跡や鉄鋼試料の非破壊的な分析が可能である。近年、シングルフォトンカウンティング解析を利用したエネルギー分散型の蛍光X線イメージング法の開発がされている。シングルフォトンカウンティング解析とは、X線を遮蔽できるシャッターなどを用いることで、一フレーム中にCCDカメラの一素子に入るX線光子数を一光子以下に制御することで、CCDカメラを用いた蛍光X線イメージング法にエネルギー分解能を付与する手法である。この手法により短時間での多元素同時イメージングを実現できる。これは、試料の表面近傍の平面に対する元素イメージングに利用されているが、深さ方向分析への適用例はない。
 本研究では、X線用CCDカメラを利用した全視野型蛍光X線分析法 (二次元の蛍光X線イメージング法) を層構造試料に対しての深さ方向分析に利用できると考え、シート状のX線ビームと直線型ポリキャピラリーを用いることで深さ方向の元素イメージングを試みた。層構造試料を亜鉛基板上にポリイミド膜と銅薄膜とチタン薄膜を接着することで作製し、実際に測定を行い、深さ方向の元素イメージング像を取得した。元素イメージング像を解析することで、実際に深さ方向に対しての元素分布を確認することができた。また、一次X線の入射角度と蛍光X線の出射角度を調整することによって深さ方向の測定領域と深さ方向の空間分解能を調整可能であることを確認した。二次元検出器を利用した深さ方向元素分析は、各測定点おける元素分布が取得できるためX線反射率法では不可能である深さ方向の局所的な分析が可能であることが利点として挙げられる。
  本学会はオンラインでのポスター発表であったが、発表中は拡大表示しながら説明することができたため、説明している部分を明確にすることができた。また、質疑応答では多くの研究者の方に研究に関する質問や助言をいただき、今後の研究活動を行う上で、有意義な時間を過ごすことができた。
  最後に、本研究を進めるにあたり日頃よりご指導いただいている辻 幸一教授に心から感謝申し上げます。

2021.11.30 研究室紹介
徳島大学 理工学部理工学科 応用理数コース
環境物理化学研究室 (山本孝)

写真:研究室の教員と学生

本学理工学部は工学部,教育学部と教養部を源流とする総合科学部の組織改編により2016年に設置された1学科の学部であり、理学系1コースと工学系5コースから構成されています。理学系である応用理数コースは数理科学系と自然科学系に分かれ、筆者はその自然科学系化学分野に所属しています。本キャンパスはJR徳島駅から徒歩20分程度、徳島空港からのリムジンバスや関西・四国各地発着の高速バスが停車する大変立地の良い場所に位置し、総合科学部(現在は文系のみ)、組織改編の際に設立された理工学部および生物資源学部があります。当地は四国三郎の名を持つ吉野川河口域の中州上にあることから周辺には支流が運河のように幾本も流れています。これらの水位は潮汐により1m近く変動し、大学横でも時にクラゲが漂い、エイを見かけることもあります。本キャンパスと徳島駅との間には明治維新まで300年徳島を治めた徳島藩蜂須賀家の居城跡が公園として整備されており、歴代藩主の墓所も徒歩圏内にあります。コロナ禍によりこの二年間は開催が制限されていますが、初夏の夕刻になれば阿波踊りの練習の音があちらこちらで響いています。
当研究室は徳島大学常三島キャンパスにある准教授1名、修士課程1名、学部4年生1名の小所帯であり、10月から学部3年生2名が加わっています。2009年4月に着任以降、以下の「1: 複合酸化物、多孔質、酸塩基触媒の開発および構造解析」、「2: X線吸収分光法に関する基礎研究および応用」、「3: 小型分光分析装置の応用」に関する研究を行っています。

1:複合酸化物、多孔質,酸塩基触媒の開発および構造解析
多元系複合酸化物では構成元素の単独酸化物と異なる物性を示すことが多く、触媒材料においても組成、作成条件、結晶相、使用前の処理条件等がその性能に対して著しく影響することが知られています。その中で酸化ジルコニウムはその表面上に酸性と塩基性の相反する性質を示すサイトが共存することによる酸塩基が協奏的に作用する特異な触媒特性を示し、複合化による多機能化が顕著な材料として多くの系で実用化されています。私たちはジルコニウムを中心とした前周期遷移金属と異種元素を組み合わせた多元系酸化物触媒について状態図を活用した触媒設計を行い、バルクおよび原子レベル局所構造、酸塩基性、組み合わせにより生じる100%硫酸に匹敵する強い酸性質に着目した検討を行っています。また温度変化に伴い数十kVもの電圧が発生することがある焦電結晶を用い、その焦電特性の分子活性化および物質転換反応への活用を目指した基礎研究を行っています。

2:X線吸収分光法に関する基礎研究および応用
X線吸収分光法(XANES/EXAFS)は元素選択的な局所構造、化学状態評価手法であり、長周期構造を必要とせず、試料形態および測定環境の自由度が大きく、時にppmレベルの低濃度でも評価可能である実用性の高い分光分析手法です。XAFS実験はシンクロトロン放射光の強力なX線を利用して行われることが一般的です。高強度・高輝度をそれほど必要としない系では実験室系装置でも遜色ない結果を得ることが可能であり、現在私たちは主に徳島大学に2010年度に設置された装置を用い、触媒材料および環境試料の分析を行っています。またXANESスペクトル形状、とくにK端およびL1端XANESに観察されるプリエッジピーク、見かけ上および真の化学シフトを包括する規則、未知試料の酸化数評価に適用するための簡便かつ任意性の低い解析手法の開発に関する研究も行っています。

3:小型分光分析装置の応用 近年開発された液体電極プラズマ発光分光法(LEP-AES)に基づく市販のハンディ元素分析装置は供給ガス不要、交流電源に接続することなく100 μl以下の試料溶液量で分析可能であることが利点の一つです。私たちはオンサイト分析を行うための装置特性の把握、分析条件の検討および環境試料分析を試みており、水素原子発光線を内部標準として利用すると分析精度が向上すること、銅廃鉱山坑排水中堆積物からの酸抽出液の分析では標準添加法で定量することにより原子吸光法での分析値と良好な一致を得ることを確認しています。また高校生対象の体験講座として、市販飲料の発光スペクトル測定およびミネラル成分の分析にも利用しています。

私は2006年10月に京都大学工学研究科材料工学専攻河合潤教授が主宰する研究室に助手として採用いただき、X線分析、ポータブル分析、帯電によるX線発生を学ぶとともに鉄鋼協会に入会、関西分析研究会にも参加いたしました。四半世紀さかのぼる卒業研究では鉄鋼スラグを有効利用するための基礎物性調査研究の一環としてカルシウム鉄複合酸化物の生成エンタルピーを実測するテーマをいただき、溶融塩に対する溶解エンタルピー測定を大型のTian-Calvet型熱量計にて試みました。先生のご退官が翌年に控えておりましたので大学院は評価手法の一つとしてX線吸収分光法を利用する固体触媒の研究室に進学し、多くの恩師、皆様、学生にご指導、助けていただき現在に至っております。最後に、卒業研究をご指導いただいた北海道大学名誉教授横川敏雄先生が令和3年2月に89歳でご逝去されました。温かく見守り、お導きいただきましたことに感謝申し上げますとともに、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

2021.11.30 第182回秋季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第182回秋季講演大会学生ポスター発表(2021年9月3日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞および努力賞を受賞されました。おめでとうございます。また受賞者の方からの声を掲載しております。

優秀賞

講演番号 氏名 所属 題目
PS-37 有馬勇太 徳島大学 LS-DP-LIBSを用いた鉄鋼中の複数元素の計測特性評価
PS-42 関根大海 東京都市大学 ニューラルネットワークを用いた炭素鋼の鋼種識別における解析パラメータの影響
PS-46 花木愛子 大阪大学 転炉スラグを原料とした機能性材料変換プロセスの開発とCO2吸着への応用

努力賞

講演番号 氏名 所属 題目
PS-38 鎌田康平 東京都市大学 残留応力のインバース解析のためのX線応力シミュレータの開発
PS-43 勅使河原広貴 千葉大学 陽電子消滅法による純Ni中の水素誘起欠陥と水素脆化
PS-44 徳久朝佳 九州大学 V添加非調質鋼におけるナノ析出物の微構造解析

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・有馬勇太様(徳島大学 修士2年)

日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「LS-DP-LIBSを用いた鉄鋼中の複数元素の計測特性評価」という題目で発表した。
近年、様々な産業プロセスにおいて物質の元素組成をリアルタイム計測可能な技術の開発が必要とされている。製鉄・製鋼のプロセスでは、限られた時間の中で化学成分を制御する精度の向上は、高品質の鋼材を大量生産する上で極めて重要である。計測を求められる元素はC、 Si、 Mn、 P、 S、 Cu、 Ni、 Cr、 Al、 Mo、 Ti、 Nb、 Bなどがある。しかし、未だ鉄鋼材料や高温材料における短時間計測技術、リアルタイムでの溶融金属の組成を計測する技術は実用化されていない。そこで、高感度でリアルタイム計測を可能にする LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)が注目されている。本研究では、LIBSで溶融金属中の組成をリアルタイム計測する技術の実用化に向けて、高感度計測が可能であるLS-DP-LIBS(Long short double pulse LIBS)技術を用い、鉄鋼材料に含有されるCr元素・Al元素のスペクトル計測と定量評価を実施した。Cr元素は波長357.9nm、 359.5nmにて、Al元素は波長308.2nm、 309.3nmにて計測可能であることが確認できた。また、Cr元素に関しては、元素濃度が異なる5つの鉄鋼サンプルを溶融し計測・定量評価を行ったところ、R2=0.9437と良好な線形性が得られた。
本年度の発表は昨年度とは異なり、口頭での発表であった。そのため、ポスター作成時には、当日は口頭で説明できることから文字は少なく、図を多用し、視覚的に分かりやすくなるように意識した。また、事前に予想される質問を考え、回答を準備していたので本番ではスムーズに返答することができた。その際、専門家の方々からの貴重なご意見を得られ、非常に実りのある機会となった。自身の発表に関して、このような素晴らしい賞をいただくことができ、しっかり準備をして良かったと非常に嬉しく思うと同時に、今後の研究活動に対してさらに精進しようと思った。最後に日頃からご指導ご鞭撻を賜っております、出口祥啓教授をはじめ、ご尽力いただいた関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

・関根大海様(東京都市大学 学士4年)

日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「ニューラルネットワークを用いた炭素鋼の鋼種識別における解析パラメータの影響」という題目で発表した。近年、ニューラルネットワーク(NN)の開発環境が急速に整ってきており、比較的簡単にNNを利用することができるようになってきている。こういった開発環境を活用して組織画像の解析を行い、組織の特徴を抽出できれば材料開発の効率向上に繋がると考えられる。そこで、私たちの研究グループでは昨年度からNNを用いた組織解析技術の研究を行っている。
NNの中で、画像解析に強いとされているのがConvolutional NNである。モデル構造の特徴として、畳み込み層とプーリング層を有している。畳み込み層では入力画像に対して、あるサイズのフィルタにかけて出力する。プーリング層では畳み込み層で得られた特徴マップに対して、小領域に分割を行う。この時、分割する大きさがプーリングサイズである。その小領域内で輝度値の最大値を抽出する。この2つの層にはハイパーパラメータと呼ばれ、NNの設計者が任意に決める変数がある。畳み込み層ではフィルタサイズ、プーリング層ではプーリングサイズがあげられる。この2つのハイパーパラメータはNNを用いた評価結果(私の研究では鋼種の識別における正解率)に大きな影響があるため、ハイパーパラメータが正解率に及ぼす影響についての検討を行い、本ポスターセッションにて発表した。
フィルタサイズでは、平均結晶粒径に対して45%~50%の大きさの時に正解率が高くなる傾向があった。ウィンドサイズでは、サイズを大きくするほど正解率が高くなる傾向があった。また、両サイズ共に見られた傾向として対物レンズ5倍、10倍の低倍率での最高正解率は約100%であった。対して20倍、50倍の高倍率時の正解率は最高でも約90%にとどまった。
当日はオンラインでの開催ではあったが、口頭での説明ができたため、文字での記述を減らし、図などを使い短時間で内容が伝わるようにすることを意識してポスターを作成した。発表時には、様々な方から貴重な意見を伺うことができ、今後の研究の参考となった。初めての学外での発表であったが、とても有意義な時間を過ごすことができた。発表する機会をもうけて下さった日本鉄鋼協会関係者の皆様にこの場を借りお礼申し上げます。
なお、本研究は上記の通り昨年度スタートした研究を引き継ぎ発展させたものであり、研究を立ち上げ、研究の礎を築かれた石田渉先輩と共にいただいた賞である。最後に、日頃からご指導いただいている熊谷正芳准教授に心より感謝申し上げます。

・花木愛子様(大阪大学 修士2年)

日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会 学生ポスターセッションにおいて「転炉スラグを原料とした機能性材料変換プロセスの開発とCO2吸着への応用」という題目で発表した。
鉄鉱石から鉄を得る際に、還元剤としてコークスを添加することで大量のCO2が発生する。脱炭素社会実現への機運が高まっている現在、持続可能な鉄鋼産業の発展のためには「CO2回収・削減技術の開発」が求められている。また、鉄鋼製錬プロセスにおいて、鉄鉱石に石灰石・コークスを加え製錬する高炉プロセスでは高炉スラグが、銑鉄を鋼に製錬する製鋼プロセスでは製鋼スラグが副生成される。高炉スラグ・製鋼スラグは合わせて鉄鋼スラグと呼ばれており、毎年大量に副生成されている。鉄鋼スラグはそれらの含有成分から、一般的にセメントやコンクリートといった路盤材に利用されている。特に転炉スラグは高炉スラグと比較してFeO含有量が多いことや路盤材の原料として利用する際に予備処理が必要であるといった欠点を抱えている。また、環境基準の厳格化による鉄鋼スラグ処分場不足といった観点から、「廃スラグの有効利用法の開発」が求められている。
本研究では、鉄鋼産業における「CO2回収・削減」と「廃スラグの有効利用法の開発」という二つの課題を同時に解決するために、転炉スラグの再利用法の開発に取り組んだ。転炉スラグの含有成分であるシリカやカルシア成分の特性を活かし、ギ酸を用いた簡便な化学プロセスにより機能性酸化物複合体へと変換し、CO2吸着への応用を実施した。合成した試料はXRD測定より、CaO相とFe3O4相を含有することが確認された。また、窒素吸脱着測定から比表面積は約64 m2/gと見積もられ、高い比表面積を有していることが分かった。CO2吸脱着測定から、転炉スラグを用いて合成した試料は可逆的にCO2を吸脱着できることが確認された。以上の結果より、本研究は製鋼スラグの一種である転炉スラグの新しい利用法を提案するとともに、鉄鋼産業で排出されるCO2分離回収のための吸着材を提供できる可能性を見出した。
本学会はオンライン上でのポスター発表であったため、どのような予稿やポスターであれば発表を聞きたいと感じてもらえるかを意識して作成した。また、ポスターの他にも質疑応答時にスライドを活用することで、対面のときと同じような臨場感で研究成果を伝えることができた。本発表では多くの方に足を運んでいただき有益なアドバイスをいただくことができた。この場をお借りして御礼申し上げます。また、本発表で優秀賞をいただけたのは、日ごろからの研究室のメンバーからの率直なアドバイスや、指導教員の先生方からの厳しくも温かいご指導をいただけたおかげである。心から感謝を申し上げると共に、今回の経験を糧に、今後も研究活動に邁進していく所存である。

・鎌田康平様(東京都市大学 修士1年)

日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「残留応力のインバース解析のためのX線応力シミュレータの開発」という題目で発表を行い、 努力賞をいただいた。
均質等方の多結晶材料に一定波長のX線を入射するとデバイリングが観測される。デバイリングは材料が無応力状態でX線入射方向と直行する面内に真円状となり、応力負荷状態でゆがみが生じる。このデバイリングの形状変化を解析することで応力状態を明らかにすることができる。これまで、その一部を利用した 法、2D法、cos 法、フーリエ解析法が開発されてきた。近年我々は、実験的には独立して発展してきたこれらの手法間の整合性を数値解析的アプローチにより検証している。また 法、2D法、cos 法は同じ基礎方程式を用いたX線応力測定法であり、各測定法の違いは、回折ベクトルの選び方と測定値からの応力計算法のみになる。また 法、cos 法の回折ベクトルは2D法の回折ベクトルの特殊な場合であり、2D法の表現が全方向を包含することができるため、2D法の回折ベクトル表現でシミュレータを作成した。
本シミュレータはMATLABを用いて作成し、GUI(Graphical User Interface)を導入することで直接ウィンドウ内に直接「測定方法・材料データ」「応力状態」「試料回転角」を入力すれば解析結果のグラフと応力値を同一ウィンドウ上に表示できるように設計した。さらに、本シミュレータは、応力状態を設定すると、デバイリング解析、線図作成、cos、sin 線図作成とこれに基づく逆解析をワンステップで行える機能も有している。
 さらに、いくつかの材料、応力状態についてのインバース解析を行い、手法間の数値的検証を行った。
ポスター発表では、前半にX線応力測定法の考え方と歴史、回折ベクトル表現法の理論的関係性についての説明を行い研究の意義を明確にした。後半にシミュレータについての説明では専門外の人にも理解できるように図表を交えてポスターを作成し発表を行った。
最後に、日頃よりご指導賜っている今福宗行教授に御礼申し上げる。

・勅使河原広貴様(千葉大学 修士2年)

日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「陽電子消滅法による純 Ni 中の水素誘起欠陥と水素脆化」という題目で発表した。
Niはα鉄やオーステナイト系ステンレス鋼と異なり、水素添加のみで水素化物形成に伴う原子空孔形成が誘起され、室温で水素脱離とともに空孔クラスターへ成長することが報告されている。また、水素による延性低下が起こる。その Ni における水素脆性において、水素・転位・原子空孔が延性低下にどのように影響を与えているのか明らかになっていない。また水素脆化に関する従来知見では、FCC構造をもつ純Niの水素脆化では粒界破壊することが知られている。粒界破壊の要因は、粒界強度の低下や粒界応力集中が考えられる。粒界応力集中では水素による空孔形成促進と局所高密度化が関係することから、その考察には空孔型欠陥の分析とその挙動が必須である。
そこで本研究では、水素脆化において粒界破壊を示す純Niにおいて、空孔型欠陥の高感度プローブである陽電子を用いて空孔クラスター形成の観察を行い、破壊形態の差を議論した。先行研究による報告通り、純Niにおいて水素添加のみで水素濃化層領域に空孔クラスターが形成されることを確認した。また水素添加後に延伸することで水素がより深い領域まで拡散し、空孔クラスター形成が促進されたことを確認した。これより転位運動にともなう水素拡散の促進を実証した。また転位運動により拡散した水素による破壊形態と延性低下への影響を調べた。結果、転位運動により拡散した水素による、粒界破壊を伴う大きな延性低下がみられた。これは水素により積層欠陥エネルギー低下が起こり、多くの転位が粒界に蓄積し局所空孔密度の上昇や水素の蓄積が起きたためと考察した。一方、水素を脱離させた試料においても数パーセント程度の延性低下がみられた。これは拡散した水素により形成された空孔クラスターによる塑性不安定性によるものと考察した。
今回の発表では、陽電子を用いた測定結果が内容の過半を占めており、この測定の性質や結果についてわかりやすく説明することに苦労した。測定方法について詳しく伝えることも大事であるが、それ以上に得られた結果からどのように考えることができるかなどをしっかりと伝えるように心がけた。発表を通じて様々な質問をいただき、今までになかった疑問が生まれたり、改めて自分の結果を捉え直す機会が多くあった。このような貴重な機会を下さった日本鉄鋼協会の関係者の皆様、そして発表を聞いてくださった多くの先生方に感謝申し上げたい。そして今回このような賞を頂けたのは、藤浪真紀教授をはじめ指導教員の先生方の丁寧なご指導をいただけたからだと思っている。このご指導を無駄にせぬよう、今回の経験を活かし日々の研究に邁進したい所存である。

・徳久朝佳様(九州大学 修士1年)

令和3年9月3日に開催された日本鉄鋼協会第182回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「V添加非調質鋼におけるナノ析出物の微構造解析」という題目で発表を行い、努力賞をいただいた。題目にある非調質鋼とは、 γ/α界面でナノ析出物が発生する相界面析出現象を利用し、調質鋼と同等の特性を可能とした鋼である。生産性の向上、コスト削減とともに高強度化が期待できることから、近年、注目が集まっている。非調質鋼は、一般に中炭素鋼にV、Nb、Tiなどを微量添加したものを基本組成としている。オーステナイト中への固溶温度はV、Nb、Tiの順に高いが、NbやTiは通常の熱間鍛造温度である1200 °Cでは十分に固溶しないので、非調質鋼には素地に固溶しやすいVが主に利用されている。本研究ではV添加での相界面析出現象を利用した非調質鋼を用いた研究を行った。また、熱処理の最終過程である冷却過程において、内部組織が制御されるため、冷却過程の理解が大変重要である。
本研究では、炉冷及び空冷を施したV添加鋼を用い、冷却過程が相界面析出組織に与える影響を解明することを目的とした。ナノサイズの析出物を観察するために、透過型電子顕微鏡を用い、明視野像、暗視野像及び電子回折図形を取得した。また、マイクロビッカーズ硬さ試験を行い、フェライト相の硬さを測定し、観察した析出物の分散状態との関係を整理した。空冷材において、非常に微細な析出物が発現し、その結果として強度が著しく上昇したことが判明した。透過型電子顕微鏡観察において、試料作製に非常に苦戦したが、条件を変えて複数回行うなどして対処した。
今回の発表においては、できる限り図や写真を増やすように努め、オンラインでも伝わりやすいように工夫した。今回このような素晴らしい賞をいただけたのも、研究室の先輩方や指導教員の先生方、共同研究者の方々からの温かいご指導をいただけたおかげであると思う。心から感謝申し上げると共に、今回の経験を糧に、今後とも研究に邁進してゆきたい所存である。

2021.09.14 第181回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第181回春季講演大会学生ポスター発表(2021年3月17日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが努力賞を受賞されました。おめでとうございます。また受賞者の方からの声を掲載しております。

講演番号 氏名 所属 題目
PS-60 河原康仁 九州大学 その場引張TEM法によるCクラスターと転位の相互作用の解明

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・河原康仁様(九州大学 修士 2年)

日本鉄鋼協会第180回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「その場引張TEM法によるCクラスターと転位の相互作用の解明」という題目で発表した。
近年、省資源化を目指したレアメタルフリーな高強度化が鉄鋼材料に求められてきており、炭素(C)などのユビキタス元素を活用した高強度化が注目されている。鉄鋼材料中において、Cは固溶C、Cクラスター、炭化物といった様々な状態で存在することが知られている。中でも、フェライト域の高温から焼入れし、低温で時効処理を施すことで生ずるCクラスターが優れた強化能を有することが知られている。Cクラスターを効果的に活用することで、レアメタルフリーな高強度化を実現することができると考えられる。しかし、Cクラスターの強化機構を直接解明した例はなく、材料の強度と密接な関係を持つ転位との相互作用メカニズムの解明が望まれている。
本研究では、転位運動をリアルタイムで観察することのできるその場引張TEM法を用いることで、Cクラスターと転位の相互作用を直接観察した。転位がCクラスターに対して張り出している様子を観察することで、Cクラスターが転位とCutting型の相互作用を示すことを明らかにした。更に、強化量に及ぼすCクラスターの寄与分を転位の張り出しから定量的に算出し、Cクラスターの形成が著しい強度上昇をもたらすことを実証した。鉄由来の磁性の影響で、様々な問題に直面したが、オメガフィルターを用いた色収差の低減や試料作成法等、様々な工夫を凝らすことで対処した。
今回の発表は、オンライン上でのポスター発表であったため、参考資料を事前に準備し、質疑応答時に活用することで、オンライン発表特有の強みを発揮させることができたと考えている。今回このような素晴らしい賞をいただけたのも、研究室の先輩方や指導教員の先生方、共同研究者の方々からの厳しくも温かいご指導をいただけたおかげであると思う。心から感謝申し上げると共に、今回の経験を糧に、今後とも研究に邁進してゆきたい所存である。

2021.4.28 第1回運営委員会報告

1.研究会・フォーラム関連事項

(1) 研究会I「LIBS実用場適用技術開発」の2020年度活動報告/2021年度活動計画書について、出口主査から説明があった。1年延期となったため、中間報告は来年になる。

(2) 研究会I「鉄鋼関連材料の非破壊・オンサイト分析法」活動計画書について、今宿主査から説明があった。

(3) 以下、4フォーラムの活動終了報告の説明があった。

  • ・鉄鋼分析における誤差因子の検討:ブラックボックス化した分析装置の功罪(田中座長代理、今宿委員)
  • ・多結晶材料の異方性の評価と予測技術(小貫座長)
  • ・鉄鋼関連材料の化学状態分析の新しい展開(今宿座長)
  • ・小型中性子源による鋼中非金属介在物評価法の検討(大竹座長)

(4) 以下、継続および新規の6フォーラムについて2020年度活動報告/2021年度活動計画書について説明があった。

  • ・現在の製鋼関連技術における湿式分析の新領域を探る(上原座長)
  • ・化学的または生物学的処理によるスラグの機能変化とその評価・分析(高橋座長)
  • ・結晶性材料のマルチスケール解析(熊⾕座長)
  • ・中性子を中心とした量子ビームによる鉄鋼内部の組織解析活用技術の検討(大竹座長)
  • ・高温における最適な材料プロセス制御を目指した材料特性評価(西座長)
  • ・鉄鋼関連材料の機能開発を志向した反応の探索と解析(江場座長)

2.学術部門・学術部会関連事項

(1) 研究会新規設立提案に向けての部会ロードマップと重点領域の見直し

評価・分析・解析部会ロードマップおよび学術部会ロードマップにおける2021年度研究会設立の重点領域(2020年5月更新)の確認を行った。

(2) 学術部会5年見直しへの対応

部門長・副部門長コメントと対応計画(2021~24年度)に基づき、藤浪部会長から2021~24年度の実施案(ISIJ International特集号、西山記念技術講座、分析技術部会との連携)について説明があり、他部会、分析技術部会と連携して進めることを確認した。

3.講演大会関連事項

事務局から、第181回春季講演大会 実施報告、第181回春季講演大会 学生ポスターセッション報告、第182回秋季講演大会 部会関連企画一覧、第182回秋季講演大会 開催までのスケジュール、今後の春秋講演大会の開催についての説明を行った。

4.その他

  • ・事務局から、個人会員の「2021-2022年会費」減免についての説明があった。
  • ・鈴木顧問から第246・247回西山記念技術講座の説明があった。
  • ・藤浪部会長からISIJ International第62巻第5号特集号「Frontier in characterization of materials and processes for steel manufacturing」に積極的に投稿して欲しいとコメントがあった。投稿締切は2021年8⽉31⽇(⽕)。
  • 2021.03.23 第180回秋季講演大会学生ポスターセッション奨励賞受賞者の声

    第180回秋季講演大会学生ポスター発表において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。また受賞者の方からの声を掲載しております。
     
    講演番号 氏名 所属 題目
    PS-51 有馬勇太 徳島大学 LIBSを用いた鉄鋼中元素組成のリモート計測技術開発
    PS-55 小林幸央 関西大学 ステンレス鋼に成膜した種々の多層DLC膜の比較調査
    ■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

    ・有馬勇太様 (徳島大学 修士1年)

    日本鉄鋼協会第180回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「LIBSを用いた鉄鋼中元素組成のリモート計測技術開発」という題目で発表した。近年、様々な産業プロセスにおいて物質の元素組成をリアルタイム計測可能な技術の開発が必要とされている。製鉄・製鋼のプロセスでは、限られた時間の中で化学成分を制御する精度の向上は、高品質の鋼材を大量生産する上で極めて重要である。しかし、未だ鉄鋼材料や高温材料における短時間計測技術、リアルタイムでの溶融金属の組成を計測する技術は実用化されていない。そこで、高感度でリアルタイム計測を可能にする LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)が注目されている。実フィールドでは高温となる工程が多くあり、レーザや光学系を測定対象物の近くに配置することができない。そのため, 遠距離から計測できるリモート計測が求められる。また, LIBS計測を行う際に対象物にレーザ光を集光させる必要がある。 一般に、産業プロセスにおいてはレーザから対象物の表面までの距離が一定ではなく、焦点を自動に調整可能なオートフォーカス技術が求められる。本研究では、レーザから対象物までの距離が変化しても安定した計測可能なLIBSにおけるオートフォーカス計測技術の開発を実施した。LIBSではレーザ光を対象物表面に集光させることと、プラズマ光を光ファイバーへ集光させることが重要である。本研究のオートフォーカスシステムは、レーザ光を集光させるために集光レンズを、また、プラズマ光を集光させるために光ファイバーを、電動ステージを用い動かしオートフォーカスする仕様とし、構築した。その結果、本技術を用いることによって、計測対象までの距離が変化しても安定した計測が可能であることを確認することができた。今回の発表は口頭での発表は無く、ポスターのみによるものだったため、誰が見ても分かるような資料作りを心掛けた。その結果、このような素晴らしい奨励賞を頂き、工夫して良かったと非常に嬉しく思う。これを糧に、日々の研究に邁進したい所存である。

    ・小林幸央様 (関西大学大学院 修士2年)

    日本鉄鋼協会第180回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「ステンレス鋼に成膜した種々の多層DLC膜の比較調査」という題目で発表した。表面改質処理のなかでもダイヤモンドライクカーボン(以下DLC)膜は、高硬度かつ低い摩擦係数を示し、材料表面に優れた耐摩耗性や耐凝着性を付与する。しかし、DLC膜は化学的に安定であり、基材との親和性に乏しいため密着性に乏しく、基材との熱膨張係数の差が大きいため内部応力が増加することや、基材への炭素拡散によって耐久性が悪化する。そこで、金属含有DLC中間層を導入することで、密着性および機械的特性を向上させることができる。また、中間層とDLC膜を交互に成膜する多層構造を形成することで、さらに機械的特性が向上する報告例が存在する。本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304に高周波プラズマCVD装置を用いて、全膜厚1µmとなるように2層構造、4層構造および8層構造を形成させたDLC(a-C:H)膜を成膜した。基材表面の洗浄のためにArボンバード処理を施した後、Si-DLC中間層はSi(CH3)4とCH4の混合ガスで成膜し、その後DLC膜はCH4を用いて成膜した。成膜条件は、Si-DLC / DLC = 500 nm / 500 nmの2層構造、Si-DLC / DLC = 250 nm / 250 nmを2回繰り返した4層構造、Si-DLC / DLC / Si-DLC / DLC = 250 nm / 150 nm / 250 nm / 350 nmの4層構造、Si-DLC / DLC / Si-DLC / DLC = 250 nm / 350 nm / 250 nm / 150 nmの4層構造およびSi-DLC / DLC = 125 nm / 125 nmを4回繰り返した8層構造とし、1層あたりの膜厚を変化させることで密着性や耐摩耗性に及ぼす影響を調査した。結果として、DLC膜の硬さは多層構造にすることで小さくなり、膜厚比を変化させると最表面に厚い膜がある方が硬くなった。膜の密着性は多層構造にすることで向上し、膜厚比を変化させると基材側に厚い膜があるほうが密着性は優れていた。膜の耐久性は膜の数が増加すると向上し、1層あたりの膜の厚さが小さい層が存在すると悪化することが明らかとなった。今回の発表は書面審査であったことから、解りやすく伝えられるように文章や図表の配置を考え、ポスターを作成した。このたび奨励賞をいただいたことで、これまでの研究内容が評価されたことを嬉しく思うと同時に、今後の研究活動に対してさらに精進しようと思った。最後に、このような貴重な機会を下さった日本鉄鋼協会の関係者の皆様、日頃からご指導いただいている西本明生教授、研究を進めるにあたりご助力いただいた多くの方々に心より御礼申し上げます。

    2020.09.16 研究会報告

    研究会I「バイオフィルム被覆によるスラグ新機能創出」終了報告

    平井信充 (鈴鹿工業高等専門学校)

    本研究会は2020年2月で3年間の活動を終了した。以下、本研究会の背景、目的、得られた成果、今後の予定について簡単に述べさせて頂く。 転炉系製鋼スラグは、競合する他のリサイクル材料が存在するために、将来の利用用途拡大に向けて新機能創出が求められている。その際、沿岸域や農耕地の環境修復材等として、水と接する環境下で製鋼スラグを利用する際には、スラグ中に含まれる金属元素の溶出挙動の制御が極めて重要となる。以上を背景として、製鋼スラグの表面をバイオフィルムで被覆し、バイオフィルムが選択的に金属イオンを抽出・捕捉することを利用して、スラグの溶出挙動を制御し、製鋼スラグの有する有用成分供給・環境修復機能を大幅に向上するための知見を得ることが本研究会の目的である。 得られた成果はPEMAC46号に書かせて頂いたので、本稿では、第180回講演大会におけるオンライン形式での最終報告会(シンポジウム)の講演タイトルを紹介する。

    シンポジウム「バイオフィルム被覆によるスラグ新機能創出」最終報告会
    日時:2020年9月16日(水) 13:00~16:30

    1.三重県沿岸域に浸漬した鉄鋼スラグ上に生成したバイオフィルムの菌叢解析と製鋼スラグの組成との関連
    鈴鹿高専 ○小川亜希子、三重大 田中礼士、阪大 鈴木賢紀、鈴鹿高専 平井信充

    2.バイオフィルムの新規定量手法の提案と比較検討
    鈴鹿高専 ○甲斐穂高、中根十愛、梅川響、東浦芙宇、中川元斗、平井信充

    3.藻場造成を目的としたバイオフィルム形成評価
    鈴鹿高専 ○幸後健、広瀬直人、佐谷駿斗

    4.スラグ上のバイオフィルムの定量評価とその効果
    都城高専 ○高橋利幸

    5.単一菌バイオフィルムが付着した製鋼スラグを浸漬した人工海水の短時間pH測定
    鈴鹿高専 ○平井信充、田中萌々、廣田さくら、加藤花、中川元斗

    6.海水への製鋼スラグ成分溶出に及ぼすバイオフィルムの作用
    秋田大 魚石凱斗、高崎康志、○井上亮

    7.製鋼スラグの淡水への溶出挙動に及ぼすバイオフィルム被覆あるいは有機酸添加の影響
    東大 ○松浦宏行

    8.電気炉酸化スラグの溶出におよぼす殺菌灯照射および溶液緩衝作用の影響
    豊橋技科大 ○横山誠二

    本稿提出時にはまだ開催前であるが、活発な議論が交わされ成功裏に終わることを期待している。また、2年後の2022年2月までに最終報告書をまとめる予定である。ご関係の皆様への謝辞はPEMAC46号で書かせていただきましたが、改めて御礼申し上げます。有難うございました。

    2020.09.16 第179回春季講演大会学生ポスターセッション奨励賞受賞者の声

    第179回春季講演大会は一般講演等は中止となりましたが、学生ポスター発表は書面審査が行われました。その結果、評価分析解析部会からは以下の学生さんが奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。また受賞者の方からの声を掲載しております。
     
    講演番号 氏名 所属 題目
    PS-59 小田 恭平 東京海洋大学 ESI-MSを用いた極微量の溶存2価鉄の定量方法の開発
    PS-60 門脇 優人 宇都宮大学 鉄鉱石中の全鉄定量に用いられる二クロム酸カリウム滴定法における予備還元操作の検討
    PS-62 中川 康太朗 茨城大学 Bailey-Hirschの式における転位強化係数に対する結晶粒径の影響
    PS-63 桝添 優希 東京都市大学 窒化鉄からのアンモニア生成における温度依存性と炭酸塩の添加効果
    ■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

    ・小田恭平様 (東京海洋大学 修士1年)

    「ESI-MSを用いた極微量の溶存2価鉄の定量方法の開発」という題目で日本鉄鋼協会第179回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて発表した。近年、海洋の沿岸域において「磯焼け」という藻場の消失が問題となっている。地域によって原因は様々であるが、その一つに海水中の鉄不足が考えられている。鉄は沿岸域の植物プランクトンやコンブなどの海藻による基礎生産活動において必須元素の一つである。この鉄が不足することによって、これら藻類の成長が制限されてしまうことが要因と言われている。私は鉄の中でも、中性付近のpH中での鉄の状態から3価鉄より2価鉄の方が、基礎生産において主要な化学種となっていると考えた。しかしながら、天然水中の鉄のほとんどは3価の状態で存在しているため、天然水中の極微量な2価鉄を測定する手法が必要である。  本研究では測定装置にエレクトロスプレーイオン化質量分析計(ESI-MS)を用いた。ESI-MSは、イオン化がソフトであるため、溶液中の化学種の溶存状態をある程度反映し、質量電荷比(m/z)によって化学種の分別と同定や、高い感度で検出できるといった特徴を持つ。したがって、これら特徴よりESI-MSが微量な2価鉄の測定に適していると考えた。これに、溶媒抽出法を併用することで、天然水の測定時に問題となる塩によるイオンサプレッションや2価鉄が極低濃度であることに対して解決策となることを期待している。今回のポスターセッションでは、2価鉄の抽出に最適な抽出条件や2価鉄錯体の安定性、3価鉄の影響について発表した。  今回の会場でのポスターセッションは残念ながら中止となってしまったため、自身の研究に対する鉄の専門家の方々からの反応や意見が得られず、非常に残念だった。ポスターのみで内容を見ていただくにあたって、ポスターに書いてあることに付け加えて口頭で説明することができないため、どういった構成、文章にすれば分かりやすく伝わるかについて努力を要した。しかし、このたび奨励賞をいただいたことで、これまでの研究活動での試行錯誤が無駄ではなかったことに嬉しく思うと同時に、今後の研究活動に対してこの評価に恥じないよう身が引き締まる思いとなった。

    ・門脇優人様 (宇都宮大学 修士1年)

    日本鉄鋼協会第179回春季講演大会の学生ポスターセッションにおいて、 「鉄鉱石中の全鉄定量に用いられる二クロム酸カリウム滴定法における予備還元操作の検討」というテーマで発表させていただいた。 鉄鉱石中の全鉄定量法は公定法としてJIS M 8212 に規定されている。この方法では、まず塩化スズ(Ⅱ)や塩酸を用いて鉄鉱石を溶液化する。この鉄鉱石の分解液には鉄が二価あるいは三価として存在しているため、酸化還元滴定により全鉄を定量するためにはあらかじめ鉄を全て二価にしておく必要がある。私は、この予備還元の行程に着目した。予備還元では全ての鉄を過不足なく二価にするために、先ず塩化スズ(Ⅱ)により大部分の鉄を還元する。次いで、残っている鉄(Ⅲ)よりも過剰の塩化チタン(Ⅲ)を加える。最後に、余剰となった塩化チタン(Ⅲ)を二クロム酸カリウムにより酸化する。JIS M 8212では、過不足ない鉄(Ⅱ)への還元を指示薬の変色により判断しており、この変色の判断には熟練を要する。しかしながら、この分析を精確に行うことのできる熟練技術者が減少していることから、将来的にはJIS M 8212を正確に行えなくなる可能性がある。 本研究では、JIS M 8212 の精確さを担保することを目的に、予備還元を含む二クロム酸カリウム滴定法において溶液内で起こっている化学反応について詳細に検討した。大気下での予備還元では、大気中の酸素が定量的な鉄(Ⅱ)への還元を妨害する。この妨害は、窒素通気を行うことにより抑制できた。窒素雰囲気下において実験することにより、Cr(Ⅵ)による余剰分のTi(Ⅲ)の酸化が著しく遅いことを見出した。一連の反応を電気化学的に追跡することにより、全ての鉄を過不足なく二価とする手法を確立した。電位の応答を通して反応を追跡するこの手法は、熟練を要することなく的確に予備還元を行うことができた。 今回の発表はwebによる審査であったことから、如何にして解りやすく伝えるかに重きをおいてポスターを作成した。特に、予備還元の反応スキームは色や帯の長さにより反応を直観的に捉えて頂けるように心掛けた。また、口頭による説明が出来ないことから、各図表に得られた知見を書き加えることにした。これにより、その図が示している内容を直接伝えられるようにした。 最後に日頃からご指導ご鞭撻を賜っております、上原伸夫先生、稲川有徳先生をはじめ、ご尽力いただいた関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

    ・中川康太朗様 (茨城大学 修士1年)

    日本鉄鋼協会第179回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「Bailey- Hirschの式における転位強化係数に対する結晶粒径の影響」という題目で発表した。金属材料の転位による加工硬化は一般的にBailey-Hirschの関係で整理される。一方、この関係式に含まれるαは転位強化係数と呼ばれ、0.1~0.4の定数として広い範囲で取り扱われている。転位強化係数には転位の状態や形態、またすべり系の多さなどが作用すると考えられている。例えば特定のすべり面のみが活動する六方晶金属では、転位の切り合いが生じにくくなるため転位強化係数は0.1となる。理論的な考察により、転位セル組織形態(cell wall/interiorの割合)、GN(geometrically necessary)転位/SS(statistically stored)転位の割合や転位の持つひずみ場も転位強化係数に作用すると推定されている。しかし、転位密度を精度良く求めることが容易ではなかったため、転位強化係数に作用する諸因子の影響は十分には議論されていない。 転位パラメータを定量的に評価するにはX線回折ラインプロファイル解析が有効である。ラインプロファイル解析は転位密度と共に転位性格や転位間相互作用の強さ(Md)を評価することができる。αは結晶粒径や積層欠陥エネルギーなど、様々なミクロ組織要素で変化すると考えられる。本研究では特に結晶粒径による加工硬化挙動の違いをX線回折ラインプロファイル解析から求められる転位パラメータの特徴から検討した。さらにEBSD(electron backscatter diffraction)からGN転位密度を評価し、GN/SS転位タイプによるαへの影響を明らかにすることを目的とした研究である。 本研究の成果として、結晶粒経が小さいほど、αが小さくなる傾向が認められた。このことから、結晶粒経が小さいほど転位増殖は進みやすいが単位長さあたりの転位強化は低下するという結論に至った。ポスター作成時にはこの原因について多くの人に理解していただけるよう図表を交え、分かりやすく伝えることを心がけた。当日のポスター発表は中止となったが、そこに至る過程での発表資料の準備や発表練習を通して、改めて自身の研究に向き合う時間が増え、よい経験となった。 最後に、このような貴重な機会を下さった日本鉄鋼協会の関係者の皆様、日頃からご指導いただいている佐藤成男教授、研究を進めるにあたりご助力いただいた多くの方々に心より御礼申し上げる。

    2020.04.20 第1回運営・研究審議WG合同運営委員会報告

    1.研究会・フォーラム関連事項

    (1) 研究会I「バイオフィルム被覆によるスラグ新機能創出」終了報告書について、平井主査よりスライドにより最終報告があった。

    審議の結果、残された課題については、別に活動している「化学的または生物学的処理によるスラグの機能変化とその評価・分析」フォーラム(座長は当研究会副主査の高橋先生)の活動を通じて、現状の問題点の再整理とその解決策を検討することで承認された。

    (2) 研究会I「LIBS実用場適用技術開発」の2019年度活動報告(初年度終了)/2020年度活動計画書について、出口主査より2点説明があった。

    ①副主査変更
    ②3月開催予定だったIFAT2020は新型コロナウィルス感染拡大のため中止となった。9月開催予定のLIBS2020については6月ごろ明確となる。

    (3) 以下、2自主フォーラムの活動終了報告について事務局から代理報告した。

    ・ 材料中の微量元素の役割の評価
    ・ 金属組織のマルチスケール応力・ひずみ評価研究

    (4) 以下、継続の6フォーラムについて2019年度活動状況が報告された。

    ・ 鉄鋼分析における誤差因子の検討:ブラックボックス化した分析装置の功罪(田中座長)
    ・ 多結晶材料の異方性の評価と予測技術(小貫座長)
    ・ 鉄鋼関連材料の化学状態分析の新しい展開(今宿座長)
    ・ 小型中性子源による鋼中非金属介在物評価法の検討(井上委員)
    ・ 現在の製鋼関連技術における湿式分析の新領域を探る(上原座長)
    ・ 化学的または生物学的処理によるスラグの機能変化とその評価・分析(高橋座長)

    2.学術部門・学術部会関連事項

    (1) 新規研究会提案に向けてのロードマップおよび重点領域の見直し

    評価・分析・解析部会ロードマップ(2019年4月15日改定)および学術部会ロードマップにおける2020年度研究会設立の重点領域(2019年6月現在)の確認を行った。

    (2) 学術部会5年見直しへの対応

    学術部会5年見直し評価結果と今後の進め方に基づき、事務局から今後の進め方を説明した。

    (3) 育成委員会からの西山記念講座企画依頼

    藤浪部会長から、2022年春開催予定の第247回・248回西山記念技術講座開催に関して説明があった。

    (4) 日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 2020-2021年度活動方針について

    藤浪部会長から2020-2021年度活動方針について、(1)本部会の課題、(2)本部会の構成員が求められる能力とその意義、(3)2020-2021年度のフォーラムの再構築、(4)講演大会での評価・分析・解析分野での発表促進、に関する説明があった。
    (3)2020-2021年度のフォーラムの再構築について、「組織・構造解析」、「析出物・介在物分析」、「環境分析」、「反応解析」を4本柱とした、産官学の人材育成を目的とする鉄鋼協会の活動にふさわしいフォーラムの設置を行いたい旨説明があった。