評価・分析・解析部会
広報 -2023-
2023.4.19 第185回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声
第185回春季講演大会学生ポスター発表(2023年3月9日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。
講演番号 | 氏名 | 所属 | 題目 |
---|---|---|---|
PS-68 | 杉浦圭哉 | 名古屋大学 | 敵対的生成ネットワークを用いた新たな3D組織構築手法の開発 |
■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)
・杉浦圭哉様(名古屋大学 修士1年)
日本鉄鋼協会第185回春季講演大会学生ポスターセッションにおいて「敵対的生成ネットワークを用いた新たな3D組織構築手法の開発」という題目で発表を行い、優秀賞をいただいた。
鉄鋼材料をはじめとする金属材料の開発をより精密に行うには、2D組織だけではなく、3D組織も解析することが重要である。従来、3D組織を得るには、実験やシミュレーションが用いられてきたが、それらの手法には膨大な時間と労力を要するという課題がある。そこで本研究では、上記の課題を解消するため、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks; GAN)を用いた新たな3D組織構築手法の開発を試みた。具体的には、GANを応用して、直交する3方向の断面画像3枚のみから3D組織を生成するプログラムを開発した。GANとは、画像生成が得意なディープラーニングの一種であり、画像を生成するAIと、入力された画像が本物か偽物かを判別するAIの、2種類のAIで構成されている。GANに大量の画像を学習させると、それらによく似ているが実在しない画像を生成することができる。
本プログラムは画像情報のみから3D組織を生成するため、材料の種類や画像スケールに制限されることなく、短時間で任意の大きさかつ大量に3D組織を取得することが可能になる。また、従来手法では技術的に難しかった3D組織の取得や、より短時間かつ簡単な3D組織構築の実現が期待できる。これにより、現在スモールデータ問題がボトルネックとなっているマテリアルズ・インフォマティクスにおいて、革新的な解決策となると考えている。
本研究ではGANの再現精度を評価するため、GANにより生成した3D組織と、シリアルセクショニング(SS)により再構築した3D組織から、第二相の体積率や粒子数、粒径分布などの形態情報を抽出し比較した。その結果、両者のすべての特徴量はよく似た数値や分布を示した。以上より、GANは極めて高い精度で3D組織を再現できることを明らかにした。また、GANによる3D組織構築に要した時間は約2時間であり、これはSSと比較して、90%以上の時間短縮を可能にした。
本発表で優秀賞をいただけたのは、指導教員である足立吉隆教授、小川登志男客員准教授の温かいご指導や、研究室メンバーからの率直なアドバイスをいただけたおかげである。心から感謝を申し上げると共に、今回の経験を糧に今後も研究活動に邁進していく所存である。
2023.02.27 研究会報告
関西分析研究会報告
取材:小田啓介(コベルコ科研)
「金属ナノクラスターのエネルギー・環境分野への触媒応用」
(東京理科大学 理学部 第一部応用化学科 川脇 徳久)
金属ナノクラスターは約2nm未満の大きさの金属元素の集合であり、その大きさによって結晶構造や電子状態が変わる。その性質を利用し、燃料電池触媒への利用が期待されている。また、水分解光触媒の研究も進められている。エネルギー問題やカーボンニュートラルに関わる研究であり、参加者の関心も高く、予定された時間をオーバーするほど活発に質疑応答があった。
この他、4件の学生発表が行われた。発表内容は以下のとおりである。
(1)「超音波定在波試料保持法による蛍光X線分析の評価」
(大阪公立大学 奥田 晟生)
(2)「その場観察を利用した還元性酸化物における水素スピルオーバー経路の解明」
(大阪大学 俊 和希)
(3)「試料加熱軟X線吸収分析装置を利用したタンパク質の熱変性観察」
(兵庫県立大学 下垣 郁弥)
(4)「無機ヒ素の電気化学分析法の開発」
(龍谷大学 横尾 和希)
いずれの発表も興味深いものであり、こちらでも活発な質疑応答がなされた。発表後、関西分析研究会役員による投票が行われ、奥田晟生さんが最優秀発表者となった。
2023年度は、第1回例会はオンライン開催、第2回例会は対面による開催が予定されており、本研究会の更なる活性化が期待される。最後に、例会開催に当たり多大なるご配慮とご尽力をいただいた、龍谷大学 藤原学先生、糟野潤先生を始め関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。
2023.2.2 研究室紹介
東京電機大学工学部先端機械工学科
材料工学研究室(小貫祐介)
当研究室は私の東京電機大着任に伴い、本年度(令和4年度)に新たに発足しました。私の前職は茨城大学フロンティア応用原子科学研究センターで、主としてJ-PARC MLFにおいて中性子回折による金属組織の評価技術の開発を行っていました。それ以前も国立のいわゆる総合大学に在学・勤務していたので、分析機器や近しい分野の先輩、先生方に恵まれた環境の中で研究を行うことができていました。
その一方で新たな職場は、医療・介護や自動車産業などへのアプリケーションを指向した機械系学科ということで、学科での材料系を専門とする教員は私一人であり、先端的な分析機器はほとんどありません。また、卒研学生は一研究室あたり各年度11~12人配属、大学院進学率は国立ほど高くないなど、これまでとは全く違った環境となりました。
私の専門分野は金属工学分野ですので、「材料工学」研究室を名乗るのも少々おこがましいかとは思いました。しかし学科の学生にとっては材料関係の教員は私しかおりませんので、彼らにとっての分かりやすさを重視し、先任の大澤基明先生の時代から使われていた名称を引き続き使うことにしました。
また、私の担当講義の科目名も「材料工学」ということで、100人超の履修者に対して材料工学の基礎と魅力を(前後期あわせてたったの2科目で)伝えなければなりません。熱意のある学生を集めることも研究室運営においては大切です。講義においても近年の研究開発動向などを紹介しつつ、材料研究に興味を持ってもらえるように努力しています。
なんらの分析機器もないとはいえ、私も評価・分析・解析部会の一員ですから、やはり研究にはそうした装置が必要になります。幸い東京千住キャンパスは各地へのアクセスが良いので、当面はいろいろな先生の研究室へお邪魔させていただくことで機器分析実験をさせていただこうと考えています。J-PARCにも常磐線で一本ということで比較的アクセスが良く、今年度も何度か中性子実験をしに行きました。
今年は配属学生が1名だけであったので、これまでにも取り組んでいたベイナイト変態に関する研究をテーマとしました。溶融スズを用いた熱処理装置を作製し、熱処理条件と光学顕微鏡組織、そして強度の関係を調べました。今一度こうしたオーソドックスな研究に立ち返ってみると、基本の大切さを思い知ります。またその中で興味深い現象も見いだされつつあります。
4月からは新たに11人配属となるため、これから11人分研究テーマを考えなければなりません。本学にはレーザー加工機やレーザー局所溶解積層造形装置(3Dプリンター)などの興味深い加工装置がありますので、これらを用いた組織制御の可能性に注目した研究を行いたいと考えています。