第69回白石記念講座　「金属材料の弾塑性変形のマクロ・ミクロモデルの進歩」

講座の視点

金属材料は塑性変形能力が高く，工業的には塑性加工により複雑な形状に成形され用いられたり，使用時においても大きな荷重に対して塑性変形を伴う事で突発的な破壊を免れたり，他の材料に比較し信頼性の高い事が社会で金属材料が広汎に利用されているひとつの大きな理由でもある.

このような金属材料の塑性変形を工業的に活用するためには，製品の生産工程あるいは使用環境下での変形を設計段階から予測できる事が極めて重要であり，連続体力学をベースとした巨視的観点での変形と共に，結晶塑性や転位の発達など材料の変形の基本原理に基づいた微視的観点での変形と，所謂マルチスケールな変形挙動の総合理解が不可欠である.そこで，本講座では，連続体力学を中心とした巨視的変形と，結晶塑性や転位の運動に基づいた微視的変形の両面から金属材料の変形挙動を解析する最新の知見を紹介いただく.

協賛:
(50音順)

(公社)応用物理学会、(公社)化学工学会、(一社)軽金属学会、(公社)計測自動制御学会、(一社)資源・素材学会、(一社)電気学会、(公社)土木学会、(一社)日本機械学会、(公社)日本技術士会、(公社)日本金属学会、(一社)日本建築学会、(公社)日本材料学会、(一社)日本塑性加工学会、日本中性子科学会、(一社)日本熱処理技術協会、(公社)日本分析化学会、(一社)表面技術協会、(公社)腐食防食学会

1．日時・場所：	2017年10月3日（火）9:10～16:30　受付時間　8:40～15:20
	早稲田大学西早稲田キャンパス 63号館2階会議室（東京都新宿区大久保3-4-1）

2．プログラム：	※講演の概要はタイトルをクリックすると見ることができます。
	※こちらからダウンロード出来ます。

司会者：黒田　充紀（山形大学）
1) 09:10～10:20	マクロ塑性理論の進歩とその産業界への応用展開
広島大学大学院工学研究科　吉田　総仁
2) 10:20～11:30	鉄鋼材料の階層的不均質変形に関する定量的理解の進歩
物質･材料研究機構構造材料研究拠点輸送機材料分野高強度材料グループ NIMS特別研究員　友田　　陽
司会者：吉田　総仁（広島大学）
3) 13:00～14:10	連続体力学による金属塑性の記述〜結晶塑性論の基礎から未解決の課題まで〜
山形大学大学院理工学研究科機械システム工学分野教授　黒田　充紀
4) 14:10～15:10	ナノ組織金属材料の変形と強化機構の解明に向けた分子動力学解析によるアプローチ
金沢大学理工研究域機械工学系教授　下川　智嗣
5) 15:20～16:20	結晶塑性理論の応用－実用化を見据えた最新動向と今後の可能性－
	京都大学大学院エネルギー科学研究科准教授　浜　　孝之
6) 16:20～16:30	総合討論

3．事前申込み：	不要

4．参加費（税込、テキスト付）：
会員 8,000円、一般 15,000円、学生会員 1,000円、学生非会員 2,000円
注)会員割引は個人の会員のみ有効です。協賛団体の個人会員、学生会員も含みます。　受付で本会あるいは協賛団体の会員証をご提示下さい。
※当該技術講座の撮影、録音は一切禁じます。NO photography, audio recording and video recording.


	★	テキストは，講座終了後残部がある場合，鉄鋼協会会員価格，一般価格で販売いたします．テキスト購入のお申込みは，本会HPをご覧下さい．

問合せ先：

（一社）日本鉄鋼協会育成グループ
TEL: 03-3669-5933 FAX: 03-3669-5934　E-mail: educact@isij.or.jp

（会場案内）
	早稲田大学　西早稲田キャンパス 63号館2階会議室 JR線：高田馬場駅より徒歩15分西武線：高田馬場駅より徒歩15分地下鉄：副都心線西早稲田駅直結、東西線早稲田駅より徒歩22分 http://www.waseda.jp/top/access/nishiwaseda-campus

[講演概要]

1) 「マクロ塑性理論の進歩とその産業界への応用展開」吉田　総仁

1950年代に塑性ポテンシャル理論の枠組みが確立し，その後今日まで，様々な異方性降伏関数，移動・等方硬化の理論が提案されてきた．今日では計算工学の発展とも相まって，新しい材料モデルの工学的応用が大きく成功してきている．本講演では，これらの理論研究の流れについて概説するとともに，とくに講演者が2000年以降に提案してきた大ひずみ繰返し塑性モデル（Yoshida-Uemoriモデル），6次多項式型異方性降伏関数，異方性の発展モデル，降伏点現象モデルなどの塑性構成モデルについて，他の理論との比較もしながら解説する．また，こうした材料モデルの産業界への応用（板材成形，調質圧延などのシミュレーション）について紹介する．また，マルチスケールモデリングにおけるマクロ理論の位置付けについて述べる．

2) 「鉄鋼材料の階層的不均質変形に関する定量的理解の進歩」友田　陽

鉄鋼の弾塑性変形は階層的不均質性を呈し，実験と計算を併せ理解することが望まれる．オーステナイト，フェライト，マルテンサイト，パーライト，2相ステンレス，DPおよびTRIP鋼について単相および複相多結晶体として考察する．鉄合金単結晶は強い弾性異方性を有するので，多結晶体中の個々の結晶粒は弾性変形域でも負担する応力が異なり，塑性変形の開始・進行に伴う応力と転位密度の変化も結晶方位依存性を示す．第二相が存在すると母相との間で応力と転位密度の差異が生じる．構成相間，さらに結晶粒間の応力・ひずみ分配が強度と延性を支配する．SEM/EBSD観察や中性子回折等でモニターされる実験結果とマイクロメカニックスや結晶塑性有限要素法による計算の対応を調べ，さらに，このようなミクロ組織に起因する不均質変形とリューダース変形のようなマクロな不均質変形の関係を考察する．

3) 「連続体力学による金属塑性の記述〜結晶塑性論の基礎から未解決の課題まで〜」黒田　充紀

結晶塑性理論は，結晶すべりを塑性変形の素過程と捉える連続体力学モデルの一形式である．同理論の際立った特徴は，結晶構造に起因する異方性を自然に表現できること，変形の局所化による材料の延性限界を難なく予測できること，連続体仮定に基づく数値解法（有限要素法等）に搭載して大規模な解析が容易に行なえることなどである．しかしながら，広範な応用を考える上で，これまでの結晶塑性理論には二つの本質的な問題点が内在していた．一つは，実寸法の影響（いわゆる寸法効果）を考慮できないこと（相似の問題には同一の応力・ひずみの解を与えてしまう），もう一つは，従来の連続体力学が境界条件として表面力と変位しか設定し得ないことに起因して，界面（表面，粒界，相間の境界）の効果（性質）を陽に記述できないことである．本講演では，結晶塑性論の基礎，上記問題点解決へのアプローチ，さらに，なお残る課題までを概説する．

4) 「ナノ組織金属材料の変形と強化機構の解明に向けた分子動力学解析によるアプローチ」下川　智嗣

金属材料の塑性変形を主に担うのは転位の運動であるため，それに対する障害物の存在が一般的な強度が発現する理由である．転位論では，転位を弾性体中の特異点と見なすことでその力学場を簡潔に記述し，様々な強化機構の説明に成功を納めてきた．しかし，ナノスケールの組織を有する材料では，その変形挙動や強度発現機構の解明が転位論の枠組みでは十分に成し遂げられない可能性がある．それは，ナノ組織材料ではモバイル転位が粒内に欠乏することや，転位と粒界の相互作用に代表される格子欠陥間の直接的相互作用が無視できないためである．そこで本講演では，格子欠陥構造を直接表現できる分子動力学シミュレーションを用いて，格子欠陥群の発展・相互作用を解析し，ナノ組織金属材料の変形挙動や強度発現機構の解明に向けた最近の取り組みを紹介する．

5) 「結晶塑性理論の応用－実用化を見据えた最新動向と今後の可能性－」浜　孝之

近年の結晶塑性理論の発展と計算機能力の向上に伴い，結晶塑性モデルは大きな注目を集めている．その適用範囲は，ひずみの局所化や集合組織発展の予測といった従来の範ちゅうにとどまらず，材料特性を数値的に予測する｢数値材料試験機｣，結晶塑性モデルそのものを塑性加工シミュレーションに用いる｢次世代の材料構成式｣，加工性に富んだ集合組織を数値的に見いだす｢材料創製支援ツール｣など，多方面への実用的展開が期待されている．本講座では，講演者による最近の研究成果を中心として実用化を目指した結晶塑性理論の応用事例を概説するとともに，今後期待される可能性を展望する．

第69回白石記念講座 「金属材料の弾塑性変形のマクロ・ミクロモデルの進歩」

第69回白石記念講座　「金属材料の弾塑性変形のマクロ・ミクロモデルの進歩」