高炉内の通気通液性を保持するためには、スペーサーとしての役割を持つコークスの強度確保が重要である。近年、資源対応力の向上を目指し、高強度のコークス製造に適した粘結炭のみならず非微粘結炭や一般炭などいわゆる劣質炭もコークス製造に用いられており、コークス強度の支配因子の明確化と破壊メカニズムの解明は非常に重要な課題となってきている。
　本論文は、劣質炭配合コークスの破壊解析に関するものであり、任意形状の気孔をランダムに配置したコークスの破壊挙動を剛体ばねモデルにより解析するとともに、膨脹性の低い劣質炭の配合により石炭粒子の周りに生じる非接着粒界と呼ばれる欠陥をモデルに組み込み、実験と対比をしながら検討を行ったものである。その結果、形状が歪んで大きな気孔がコークス強度の低下を引き起こすこと、非接着粒界が少量でも存在するとコークス強度を低下させること、非接着粒界が応力集中部位に存在した時に破断の起点になることなどを数値解析より明らかにしている。
　以上、本研究は、資源対応力強化のために使用の拡大が求められる劣質炭を配合したコークスの製造において、気孔の大きさ、形状、非接着粒界の考慮が不可欠であることを数値解析から理論的に検証し、コークス研究における新たな展開を示したことなどから、俵論文賞に値すると評価される。

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　連続鋳造における生産能率およびスラブ品質（清浄性）の向上に対する要求は、近年益々高まっており、そのための鋳型内溶鋼流動制御ならびに、スラブ表面あるいは内部の欠陥検知について、高精度化が望まれる。個々の研究および技術開発は進められており、様々な知見が得られているものの、これらを総合的に取り扱い、実機鋳造における鋳型内溶鋼流動とスラブ中欠陥との関係に関する報告例は、従来に見当たらない。
　本論文では、鋳型内溶鋼の吐出流ならびに表面流の二段型電磁ブレーキによる制御技術に関して、溶鋼流速をスラブ中デンドライト組織（一次枝傾角）から実験的に評価するとともに、数値計算によるシミューレーション評価も併せて実施することにより、その制動効果を論理的に検証した。また、偏流に及ぼすスループット増加による影響について、定量的に評価した。
　そして、スラブ中欠陥の分布について、超音波探傷法に工夫を加えながら、スラブ幅全体にわたり、詳細な分析を施した。さらに、偏流に起因して生じる欠陥分布の変化について、実機鋳造において明確に評価した点は、有意義といえる。
　本論文において示された研究手法は、工業技術的な有用性において極めて価値の高いものであり、今後、広く展開ならびに応用され、連続鋳造鋳型内の溶鋼流動制御とスラブ品質のさらなる向上に貢献することが期待できる。

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　鋼材の強度を上昇させることで疲労強度が向上することはよく知られているが、サスペンションに使われる懸架ばねの高強度化では、腐食疲労現象が顕在化する。実用的にも重要な焼戻しマルテンサイト組織に対して、拡散性水素や鋼中介在物の影響等も考慮した腐食疲労現象に関する総合的な理解が期待される領域である。
　本論文では、引張り強さが1700MPaを超える超高強度鋼に注目し、多段のショットピーニング処理法を工夫して人工腐食ピットを制御し、そこでの圧縮残留応力分布に注目した実験と解析を行っている。また水素の影響にも十分に考察し、特に、腐食ピットの形状の影響と拡散性水素の影響を分離する実験手法を開発しつつ、従来の研究結果も踏まえ、疲労強度および破壊形態に及ぼす圧縮残留応力、拡散性水素、また鋼中介在物の影響に関する統一的な解釈を導いている。またねじり疲労強度と回転まげ疲労強度の実験手法の違いを考察しつつ、疲労破壊起点となる鋼中介在物の影響を検討し、本実験結果に基づく腐食疲労特性の改善効果がより顕著となる可能性を示唆している。
　従来から、圧縮残留応力による人工腐食ピットの無害化効果が示唆されるなか、多面的な実験と包括的考察により、腐食ピット底の圧縮残留応力の大きさで全体の疲労強度を評価できることを実証し、今後の工業的な材料設計指針にも重要な知見を導くに至っている。
　ここに、俵論文賞にふさわしい論文であると判断できる。


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　bcc-Feの軸比（炭素固溶による）は、鉄鋼の機械的特性や形状記憶特性に大きな影響を与えるが、これまでマルテンサイト研究等において軸比に及ぼす合金元素の影響などが研究されてきたのみであり、軸比が決まるメカニズムを系統的かつ詳細に電子論により解明した研究は、その重要性にもかかわらず、存在しない。
　本研究では、軸比が第一原理計算から極めて正確に求められることを示すとともに、炭素原子位置を種々変化させた場合のエネルギーや軸比の変化を計算に基づき詳細に検討することによって、炭素原子の位置関係が軸比を決定づけること、実測値と同じ軸比になる場合は格子ひずみや形成エンタルピーが小さくなること、さらに炭素添加による磁気モーメント増加の主要因が磁気体積効果にあり軸比の効果は小さいこと、などを明瞭に解明している。軸比や磁気モーメントに関して、炭素原子の位置関係や原子周囲の格子ひずみの大きさから、その起源を統一的かつ理論的に説明できることを立証した点は、特に学術的に高く評価できる。また今後の発展としても、どの元素をどれだけ添加すれば軸比が変化し機械的特性や形状記憶特性が改善されるかなど、鉄鋼材料における元素機能解明への展開が期待でき、当該分野における第一原理計算活用の方向性を示した点も価値が高い。
　これらの理由により本論文は、俵論文賞に値する論文であると評価される。


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　三次元熱間曲げ焼入れ（3DQ）と呼ばれる技術は、自動車部品に代表される鋼管やロールフォーム材を1工程で製造できる重要な加工技術であり、高張力鋼板を低コストで製造可能な技術である。3DQの解析は、加熱、熱間での三次元変形、および焼入れという複雑で、かつ、複数の連続工程を対象にする必要があり、その複雑さと困難さから精緻な解析がなされて来なかった。
　本論文では、チューブ材における誘導加熱から曲げ工程を経て焼入れに至る過程を、電磁場・熱伝導・相変態・応力／ひずみの全てを考慮することによって、3DQによる材料の寸法や形状変化に与える影響が明らかにされた。すなわち、曲げによる圧縮と引張りによって板厚分布が発生し、さらに焼入れ時の冷却速度差および拘束条件の変化によって、キャンバーが生じる現象が、実験による裏付けとともに示された。
　本論文は、複雑な工程である三次元熱間曲げ焼入れにおける、温度・力学・変態組織を包含する現象を明らかとし、寸法や形状といった商品製造技術への応用が可能であるため、学術分野および産業分野に極めて大きな指針を与えるものであり、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。


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　コークス乾留時における石炭粒子間反応を通じて形成されるコークスケーキ中の気孔構造がコークス強度の主要因子である。本論文は、コークスケーキ気孔形成に強く関与する斬新な石炭熱可塑性評価法に関する。
　本論文では、まず、従来のギーセラー法や膨張試験法では、特に、コークス強度低下を引き起こす高流動性の石炭において、熱可塑性を正しく評価できないことを指摘した。この問題を克服するために、流動現象を的確に表現可能でかつ簡便な小型充填層評価装置を考案・作製し、新指標｢最大浸透性距離｣を提案した。本装置を活用した独創的な解析手法として、まず、最大浸透距離到達温度とギーセラー法における最大流動度温度との対応関係から、浸透現象が粘性だけで決定されないことを示し、従来指標の問題点を明確にした。さらに、新指標「浸透性距離」を、Kozeny-Carman式に基づくパラメータと充填層圧損、液相粘度、時間で記述し一般化した。その上で、コークスケーキ気孔構造の観察も交えて、本指標とコークス強度との良好な対応関係を、乾留試験で示した。
　さらに、実炉試験において、従来指標（MF、Ro）一定にもかかわらず生じるコークス強度変化を、最大浸透距離で説明できることを実証した。 本論文の知見は下記２点で工業的に活用可能である。
　　1) コークス強度制御のための石炭配合設計を通じた石炭資源戦略
　　2) 高強度コークス製造技術を通じた高炉における高出銑・低還元材比操業への寄与
　以上より、本論文は学術上および産業上、価値が高く、澤村論文賞にふさわしいと判断する。


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　溶鋼中における介在物粒子の凝集合体を抑制することは、鋼材品質を向上するために極めて重要である。これまでにも、粒子間の界面化学的な相互作用から、凝集合体挙動の説明が試みられてきたが、溶鋼中の介在物に働く力を直接測定することが困難であるがゆえに、溶鋼中での介在物凝集機構の解明は未だ十分とは言えなかった。
　しかし、本研究では、独自の工夫を凝らした実験装置を作製することによって、アルミナ介在物間に作用する凝集力を、溶鋼流動の影響と分離して、直接測定することに初めて成功した。また、アルミナ介在物間に作用する凝集力を、溶鋼とアルミナ間の界面物性から理論的に考察し、粒子間に働く力は、ファンデルワールス力ではなく、アルミナが溶鋼に濡れにくいために生じる空隙架橋力によるものであることを、新たに提唱した。さらに、アルミナ粒子間の空隙架橋力は、浮力や抗力よりも強く、アルミナ介在物が溶鋼流動下でも分離することなく凝集状態を容易に維持することを合理的に説明した。
　本論文は、溶鋼中介在物同士の凝集力を、独創的な実験および綿密な理論の両面から明らかにしたという点で、先駆的であり、また、本論文で提唱された空隙架橋力を計算するモデルには、学術的に大きな価値があると考えられる。


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　鉄鋼部材の高強度化におけるマルテンサイト鋼の利用の要求は益々増している。マルテンサイト鋼を用いた多くの構造部材では焼戻し処理を行い、鉄炭化物の析出と地の回復による軟化が生じるが、合金元素添加による軟化添加や、マイクロアロイングを用いた合金炭化物などの微細析出による二次硬化を利用してさらなる高強度化が図られている。焼戻しマルテンサイト鋼の強度設計については組織因子の定量的把握が重要であるが、マルテンサイトの階層的な下部組織や炭化物の遷移などのために組織変化が複雑かつ多岐にわたるため、組織および特性を予測する物理的なモデリングについても十分ではない。
　本論文では、マイクロアロイング鋼における焼戻し時の析出と結晶粒径や転位組織などの変化およびマルチスケールでの硬度などを多面的な実験的手段を用いて定量的に評価するとともに、それに基づく炭化物析出モデリングの提案を行った優れた論文である。今後の焼戻し組織の評価に対する研究標準を提示するものであり、モデリングによる析出組織の予測精度も高く、組織と特性の制御指針に関して大きく寄与するものである、学術および応用の両面で高く評価でき、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。


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